第二話 突然始まった茶番劇
華やかなパーティー会場で、似つかわしくない怒号を上げたのは、我が国の第一王子ジェイド様だった。
「マジか……前々から、お花畑の住人だと思っていたけど、何やってるの!? このパーティー会場には、他国の代表者も多く出席してるのよ。王族の一人なんだから、それぐらい知っているでしょ」
つい、心の声が出てしまったわ。危ない、危ない。イシリス様が隣にいてくれて助かったわ。
「ミネリアから聞いてはいたけど、ここまで酷いとは……」
イシリス様も完全に呆れてるわ。
(当然よね。あの馬鹿王子、パーティー会場が一気に冷めてるのを見て、何故か優越感を感じているみたいだし。何、あのドヤ顔。引くわ〜)
「まぁ、仕方ないでしょうね。仕えている側近候補達も、その役割を一切はたしていませんから。諌めもせず、一緒になって茶番劇の演者になるなんて……馬鹿ですわね」
パーティー会場の中央には、ジェイド王子と側近候補者の三人。そして、ジェイド王子の背中に隠れるようにいるのは、確か……今年入った新入生よね。名前は忘れたわ。興味ないから。でも、色んな意味で学園を騒がせている、話題の人よね。薄ピンクの髪の色をした学生なんて珍しいもの。
相対しているのは、モリアス公爵家御息女リアス様。ジェイド王子の婚約者件後援者。やや離れた後方には、心配そうに見守るご友人達。
その成績は、常に二位をキープしていて、その立ち居振る舞いは教師陣からお墨付きを頂いている才女。誰にも平等に接し、下位貴族や平民からも人気がある。新入生とは違った意味で、話題の人。
部外者の私から見ても、二人の関係性は理解出来るわ。
(リアス様が婚約者だから、第一王子であるジェイド様が王太子筆頭になれたのよね、だとしたら……)
「大馬鹿者だな。あの馬鹿王子の後ろに隠れている女が、元凶か」
私と私が大切にしている人以外は無関心なイシリス様が、珍しく、嫌悪感丸出しの声音で吐き捨てた。不思議に思いながらも、話は止めない。
「見た目だけは、清純そうですからね。庇護欲を唆る可愛さが魅力的なのでしょう。それに、元平民らしく、その気さくさやあどけなさが、彼らのツボに嵌ったようですね。私には、さっぱり分かりませんが」
「あれが清純!? 色んな男を知っている、あの女がか!?」
(えっ、何、その爆弾発言)
イシリス様がそう言うなら間違いないわね。心底軽蔑し、汚物を見るような目をしているわ。
(だとしたら、あの娘、何しに学園に来たの? 学びに来たのではなく、男漁りのため? にしては、見境ないんじゃない? 好みは一貫しているみたいだけど)
彼女が落としたのは、婚約者ありの高位貴族の御子息ばかり。
小声でイシリス様と話している間も、ジェイド王子の怒号は続いている。ほんと、煩いわね。
「リアス!! お前は、マリアに対し様々な嫌がらせ行為をしたな!! その行為、王太子妃として恥ずかしいとは思わないのか!!」
(王太子候補で、まだ王太子ではないよね。そもそも、指を指して怒鳴る姿の方が恥ずかしいわ。この国大丈夫なの?)
ましてや、側近候補達も一緒になって睨んでるし。普通に不敬よね。リアス様の方が高位なのに。まさか、ジェイド王子の側近だから、自分達が特別だと錯覚してるの。もしそうなら、教育間違えたわね。
「……私が、彼女に嫌がらせですか? 嫌がらせした覚えは一切ありませんが」
リアス様は表情一つ変えることなく、毅然とした態度で答える。
「どうしても、罪を認めないのだな!! 残念だ、リアス。これほど冷酷で差別思考を持つ女が、いずれ王妃になるとは、この国のためにあってはならない!! よって、王太子である私が宣言する!! リアス、お前とは、この場をもって婚約を破棄する!!」
(あ〜言っちゃったよ。もう、取り返しはつかないわ。終わったわね、あの馬鹿王子)
「婚約破棄ですか……私としては、一向に構いませんが、この事は国王陛下は御存知でしょうか?」
(百パーセント知らないに賭けるわね。まぁ、賭けにならないけど。ん!? このお魚美味しい!!)
「これ……いつまで、付き合わなければならないんだ?」
完全に傍観者になっていた私に、うんざりした様子のイシリス様が訊いてきた。
「その気持ち、とても分かります。茶番ですよね。もう少しだけ、お付き合い下さい。近衛騎士の一人が、国王陛下を呼びに向かっていますから。あっ、イシリス様も食べます?」
フォークに魚の身を突き刺し、イシリス様の口元に運ぶ。途端にご機嫌になるイシリス様、本当可愛い。認識阻害の魔法が掛かっていなかったら、こんな大胆な真似、人前で出来ないけどね。
実は、茶番劇が始まったと同時に、近衛騎士の一人がパーティー会場を出て行くのを目視していたの。だからそろそろ、国王陛下達が慌てて駆け付けるでしょ。
それで、この茶番劇は終わり。
その後は、国王陛下と王妃殿下にご挨拶して、本日の仕事は終了。
(結構食べたし、私的には満足かな)
そんな事を考えていると、突然、私の名前が呼ばれた。
呼んだのは、馬鹿王子。
「ミネリア・ベルケイド、前に出ろ!!」
「はぁ!?」
また、淑女らしからぬ声が出ちゃったよ。




