第十八話 新米王女殿下、婚約者に我が儘を言う
「……とはいえ、生き残った元王国の民を、このまま何もせず、生きる屍達に食われるのは忍びないわね」
ぽつりと呟く私に皆の視線が突き刺さる。
現時点で、元王国にいる魔物は恩恵を受けた者は襲わない。だけど、生きる屍は呪われた存在、恩恵関係なく襲うのよね。
「助けに行くつもりなのか?」
ずっと黙っていたイシリス様が、少し怖い顔で尋ねる。私が何処にも行かないように、しっかりと胸に抱き込んで。
「心配しなくても、王都まで行かないわ。そうね……行って、マントの町までかな」
マントの町は、ベルケイド王国から一番近い町なの。近い町といっても、十キロは離れた場所にあるけどね。小さな町よ。長閑でのんびりした町なの。よく、イシリス様とデートしたわ。
(……もう、あの町並みが見れないのは悲しいわね)
「俺も悲しいか……」
イシリス様は渋る。私が危険な場所に行くのを極端に嫌うから。
ラリーお兄様がいれば彼に言ってもらうけど、今山の中だからね。無理に呼び戻す時間はないわ。となると、必然的に動く人間が限られる。
まぁ、簡単に言うと、私しかいないでしょ。国王であるお父様に何かあったら困るから出れないし、口だけ出して、聖騎士や騎士に丸投げなんて、屑王族じゃあるまいし出来ないわ。
そもそも、生きる屍は聖なる炎でしか、浄化できないのよね。
昔は聖女と呼ばれる存在がいたらしい。聖魔法に特化した魔術師がね。なんか、色々やらかしたらしくて、創世神様が存在を否定したらしいわ。なので、今はいない。とはいえ、聖魔法の適性がある魔術師はいるけど、浄化のような特級魔法を使える人はいないわ。
となると、生きる屍と直接対峙出来るのは、聖獣様と聖騎士になるわけだけど……正直、元王国のために聖騎士の数を減らしたくはない。だから、そういったのを考慮したら、ギリギリのラインがマントの町になるのよね。
勿論、私は全力で治療に当たるわよ。そのために、学園で散々馬鹿にされて嫌がられても、ポーションの研究を日々続けていた、改良して、効能実験をくりかえしたわ。剣も魔法も人並みの実力しかない私でも、戦う方法はあるのよ。
「行けるか? ミネリア」
お父様が厳しい表情で尋ねる。私は腰を上げ、お父様の前に立つ。
「はい、マントまでなら可能だと判断しました。私もベルケイド王国の王族です、それなりに戦う術は知っております」
背後から抱くイシリス様の腕が、少し震えている。
前に回るイシリス様の腕に手を添え、私は落ち着いた声で語り掛けた。
「イシリス様、私の我が儘を許してくれませんか?」
番である私は、イシリス様にお願いが出来る。滅多にしないけどね。
いくら親しくしていて、会話をしていても、お父様はイシリス様に直接願いを口にする事は許されていない。そこは、きちんと線引きしている。線引きしているからこそ、イシリス様はベルケイド王国にいてくれるの。
完璧な人化でも、イシリス様は聖獣様だならね。
「……しょうがないな、分かった。だけど、条件がある。俺の傍から離れるな。常に、傍にいろ」
「分かりましたわ」
困惑したイシリス様は、苦笑しながらもも同意してくれた。後は、お父様の許可が出るだけね。
「ミネリア、聖騎士を二十人付けよう。それ以上は出せない。それでもいいか?」
難しい表情でお父様はの許可が出る。
「……聖騎士が二十人」
宰相様が驚くのも分かる。王都に常駐していた聖騎士と、ほぼ同じ人数だからね。
ラリーお兄様と同行している聖騎士と、ベルケイド王国を護る聖騎士の人数を合わせると、有に我が王国の方が人数多いの。勿論、その事は元王国には内緒にしていた。正直に、人数を報告するわけないでしょ。絶対、よこせって言ってくるからね。大事な民を、使い捨てにされてたまるもんですか。
「承知致しました。十分です。代わりに、かなりの数のポーションと聖水を持って行きますが、宜しいでしょうか?」
今回は魔物じゃない。生きる屍が相手だもの、用心にこしたことはないわ。解呪用の聖水も今まで以上用意しないといけない。
「ああ、幾らでも持って行け。ポーションは元々、ミネリアが精製した物だからな。聖水も遠慮するな」
(太っ腹だわ、お父様。だから、大好き)
「ありがとうございます。では、遠慮なく持って行きますね」
ポーションはまた帰ったら作ればいいし、製造法は教えてあるから研究所で作ってくれる。暫くは、忙しいくて大変だろうけど。
「いつ出発する?」
「明日の早朝には、出発したいと思います」
(もし許されるなら、今すぐ出発したいけど……それは出来ない)
ちゃんと準備しない討伐は自殺行為と同じだから。
「そうか……くれぐれも、無茶はするなよ」
国王になっても、お父様は時折、父親の顔を見せる。そういう所が、民に愛されているのよね。私も愛してるわ。
「大丈夫です。引き際は弁えていますから」
「ならいいが。ミネリア、くれぐれも情に流されるな。分かったか」
「はい」
この時は、あまり深く考えてはいなかった。
後に、私はお父様が放った台詞の意味を、身に沁みて知る事になるのだった――




