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言いたいことはそれだけですか。では、始めましょう  作者: 井藤 美樹
第二章 新米王女殿下の初仕事

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第十八話 新米王女殿下、婚約者に我が儘を言う



「……とはいえ、生き残った元王国の民を、このまま何もせず、生きる屍達に食われるのは忍びないわね」


 ぽつりと呟く私に皆の視線が突き刺さる。


 現時点で、元王国にいる魔物は恩恵を受けた者は襲わない。だけど、生きる屍は呪われた存在、恩恵関係なく襲うのよね。

  

「助けに行くつもりなのか?」


 ずっと黙っていたイシリス様が、少し怖い顔で尋ねる。私が何処にも行かないように、しっかりと胸に抱き込んで。


「心配しなくても、王都まで行かないわ。そうね……行って、マントの町までかな」


 マントの町は、ベルケイド王国から一番近い町なの。近い町といっても、十キロは離れた場所にあるけどね。小さな町よ。長閑(のどか)でのんびりした町なの。よく、イシリス様とデートしたわ。


(……もう、あの町並みが見れないのは悲しいわね)


「俺も悲しいか……」


 イシリス様は渋る。私が危険な場所に行くのを極端に嫌うから。


 ラリーお兄様がいれば彼に言ってもらうけど、今山の中だからね。無理に呼び戻す時間はないわ。となると、必然的に動く人間が限られる。


 まぁ、簡単に言うと、私しかいないでしょ。国王であるお父様に何かあったら困るから出れないし、口だけ出して、聖騎士や騎士に丸投げなんて、屑王族じゃあるまいし出来ないわ。


 そもそも、生きる屍は聖なる炎でしか、浄化できないのよね。


 昔は聖女と呼ばれる存在がいたらしい。聖魔法に特化した魔術師がね。なんか、色々やらかしたらしくて、創世神様が存在を否定したらしいわ。なので、今はいない。とはいえ、聖魔法の適性がある魔術師はいるけど、浄化のような特級魔法を使える人はいないわ。


 となると、生きる屍と直接対峙出来るのは、聖獣様と聖騎士になるわけだけど……正直、元王国のために聖騎士の数を減らしたくはない。だから、そういったのを考慮したら、ギリギリのラインがマントの町になるのよね。


 勿論、私は全力で治療に当たるわよ。そのために、学園で散々馬鹿にされて嫌がられても、ポーションの研究を日々続けていた、改良して、効能実験をくりかえしたわ。剣も魔法も人並みの実力しかない私でも、戦う方法はあるのよ。


「行けるか? ミネリア」


 お父様が厳しい表情で尋ねる。私は腰を上げ、お父様の前に立つ。


「はい、マントまでなら可能だと判断しました。私もベルケイド王国の王族です、それなりに戦う術は知っております」


 背後から抱くイシリス様の腕が、少し震えている。


 前に回るイシリス様の腕に手を添え、私は落ち着いた声で語り掛けた。


「イシリス様、私の我が儘を許してくれませんか?」


 番である私は、イシリス様にお願いが出来る。滅多にしないけどね。


 いくら親しくしていて、会話をしていても、お父様はイシリス様に直接願いを口にする事は許されていない。そこは、きちんと線引きしている。線引きしているからこそ、イシリス様はベルケイド王国にいてくれるの。


 完璧な人化でも、イシリス様は聖獣様だならね。


「……しょうがないな、分かった。だけど、条件がある。俺の傍から離れるな。常に、傍にいろ」


「分かりましたわ」


 困惑したイシリス様は、苦笑しながらもも同意してくれた。後は、お父様の許可が出るだけね。


「ミネリア、聖騎士を二十人付けよう。それ以上は出せない。それでもいいか?」


 難しい表情でお父様はの許可が出る。


「……聖騎士が二十人」


 宰相様が驚くのも分かる。王都に常駐していた聖騎士と、ほぼ同じ人数だからね。


 ラリーお兄様と同行している聖騎士と、ベルケイド王国を護る聖騎士の人数を合わせると、有に我が王国の方が人数多いの。勿論、その事は元王国には内緒にしていた。正直に、人数を報告するわけないでしょ。絶対、よこせって言ってくるからね。大事な民を、使い捨てにされてたまるもんですか。


「承知致しました。十分です。代わりに、かなりの数のポーションと聖水を持って行きますが、宜しいでしょうか?」


 今回は魔物じゃない。生きる屍が相手だもの、用心にこしたことはないわ。解呪用の聖水も今まで以上用意しないといけない。


「ああ、幾らでも持って行け。ポーションは元々、ミネリアが精製した物だからな。聖水も遠慮するな」


(太っ腹だわ、お父様。だから、大好き)


「ありがとうございます。では、遠慮なく持って行きますね」


 ポーションはまた帰ったら作ればいいし、製造法は教えてあるから研究所で作ってくれる。暫くは、忙しいくて大変だろうけど。


「いつ出発する?」


「明日の早朝には、出発したいと思います」


(もし許されるなら、今すぐ出発したいけど……それは出来ない)


 ちゃんと準備しない討伐は自殺行為と同じだから。


「そうか……くれぐれも、無茶はするなよ」


 国王になっても、お父様は時折、父親の顔を見せる。そういう所が、民に愛されているのよね。私も愛してるわ。


「大丈夫です。引き際は(わきま)えていますから」


「ならいいが。ミネリア、くれぐれも情に流されるな。分かったか」


「はい」


 この時は、あまり深く考えてはいなかった。


 後に、私はお父様が放った台詞の意味を、身に沁みて知る事になるのだった――




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