第十四話 新米王女殿下は筋肉痛で悶絶する
少し動く度に、全身にピシッと鋭い痛みが走る。原因は分かりきってる。
(全身、筋肉痛のせい!! 大して動いてないのに〜)
魔物討伐や畑仕事の時に使う筋肉とは違うみたい。
リアス様って、優しい顔をして超スパルタなんだから。キラッと光った目は見間違いじゃなかったわね。それにしても、一切の躊躇もなしなんて……まぁ、手を抜かれて、ベルケイド王国の恥になるのは嫌だけど。
もう、唸り声しか出て来ない。
「……大丈夫か?」
ソファーから動けないでいると、イシリス様がおろおろしながら尋ねてきた。回復魔法を掛けてくれたけど、痛みが少し和らいだだけだった。疲労に回復魔法は無意味だからね。
「大丈夫ですわ……」
本当は、全然大丈夫じゃないけどね。なんとか、声が出せた。
「リアス!! やり過ぎではないのか!?」
イシリス様がリアス様に詰め寄った。
「やり過ぎではありませんわ。聖獣様は、ミネリア王女殿下が馬鹿にされても宜しいのですか? ミネリア王女殿下が愛する、ベルケイド王国が馬鹿にされても宜しいのですか?」
リアス様も負けてはいない。イシリス様相手に、正論で畳み掛けてくる。
そうでなくちゃあ、頼んだ意味がない。物事を客観的に見れて、時には、イシリス様や私を諌める人が必要だったの、肉親以外にね。末娘だからか、お父様もラリーお兄様も私には甘いのよね。だから、リアス様のような人は、私にとってとても大切なの。
「俺がいれば、ミネリアが馬鹿にされる事はない!!」
イシリス様も負けてはいない。
「確かに、そうでしょう。聖獣様が傍にいれば、ミネリア王女殿下の事を悪しざまに言う者はいないでしょう。でも、それは表面上だけです。その代わり、影で囁かれるのです。色々と……それでも、宜しいのですか?」
容易に想像出来る。
(それは嫌だわ)
「それは、そうだが!!」
(これは、リアス様の勝ちかな)
「イシリス様、私を心配して下さるのは嬉しいです。でもここは、リアス様の方に分がありますね」
尚も文句を言おうとするイシリス様を、私は止めた。途端にシュンとなるイシリス様、とても可愛らしい。抱き締めたくなるわ。でも今は駄目、リアス様がいるから。
代わりに、私はイシリス様の頭を撫でた。撫でられるの大好きなの。私もイシリス様に撫でてもらうのは大好きだけど、安心は出来ないのよね。
「イシリス様、私は貴方の隣りにいても恥じない私でいたいのです。勿論、ベルケイド王国の王女としても」
微笑みながら、本心を口にする。だって、イシリス様には嘘は通じないもの。その効く鼻で嗅ぎ取ってしまうから。ましてや、心の声も筒抜けだし。
「では、休憩の後、レッスンを再開しましょう」
リアス様はにっこりと微笑みながら言った。マジで鬼です。
まず、基本姿勢の基礎として、頭に分厚い本を三冊乗せて落とさずに歩く事から始まったのだけど、そこから行き詰まってるの。少し動くだけで落としてしまうんだよね。合格点は、軽く礼が出来るまで。出来っこないと思ったけど、リアス様は難なくこなして見せたよ。さすがだよね。
少しだけ休憩を延ばしたいと思った私は、いい機会だし、ちょっとした提案をしてみた。少し前倒しになるけど、いずれは、見てもらうつもりだったからね。
「その前に、リアス様、今の王国の様子、気になりませんか?」
「それは……」
まさか、王国の話が、私の口から出るとは考えていなかったみたい。戸惑ってるわ、リアス様。面倒向かって気になりますとは言えないしね。決別したわけだし。
「戸惑って当たり前ですわ。完全に決別したとしても、生まれ育った地だもの、気になって当然です。王国を愛しているのでしょ。責めてるわけではないわ。ただ……難民が押し寄せて来たら、その凄惨な姿にショックを受けると思うの。だからその前に、王国の今の様子を見といた方がいいと思ったの。どうかしら? 無理にとは言わないけど」
リアス様は、自分の足で歩く事を決めたのだから、目を逸らすべきではないと思ったの。内心では、難民は押し寄せては来ないと思いながらね。
「……分かりました」
少し思案した後、私の提案に、リアス様は小さな声で、でもはっきりとそう答えた。




