第十一話 独立宣言
最早、言い訳一つ浮かばないのか、国王陛下は眉間に皺を寄せ悔しそうに黙り込む。
「ここまで明らかになっても、自分達が偽証した事を認めないのね……仕方ないわ、時間切れ」
私は肩を竦める。
(これ以上は、時間の無駄)
彼らは最後のチャンスを無下にした。まぁ、謝られても、未来は変わったわけではないけどね。それでも、最後は少しは安らかに終えられたと思う。
一応、他国の要人達には、我が国の王族の酷さは十分にアピール出来たし、結果的には万々歳かな。当初の予定とはかなり違ったけど。でも、良い方向に進んだと思うわ。
本当は、もっと穏便に、時間を掛けて事を進めるつもりだった。
だけど、第一王子殿下の一方的な婚約破棄、冤罪のを放置に、殺人未遂。更に、〈聖なる乙女〉の偽証。
さすがの私も、ここまでコケにされたら黙ってはいられない。私をコケにするって事は、イシリス様もコケにした事と等しいからね。完全に堪忍袋の緒が切れたわ。
だから、多少強引だったけど、この国の王族の無能さを世間に知らしめた。これから行う事を正当化するためにね。
「……何をする気だ?」
「そんなの、決まってるでしょ」
国王陛下の無様な顔を一瞥してから、私は顔を上げ、祝賀会に参加している者達に視線を移す。そして、息を軽く吸い、お腹に力を入れて声を出した。
「ミネリア・ベルケイドは宣言する。ベルケイド伯爵家は、現時点をもって貴族籍を返上し、ここに独立する事を宣言致します」
威厳をもって、声高らかに宣言してやった。
実は、前々から考えていたのよね、家族内で。何度も何度も協議し決めたの。だから、王都には私とイシリス様だけが残り、家族と使用人達は秘密裏に領地に避難させた。人質にされたら困るし、危険のリスクは下げたかったからね。
そこまでするには、それなりにちゃんとした理由があるの。
国王陛下は、私が〈聖なる乙女〉である事を、一切公表しようとはしなかった。私が危険だと言う理由でね。幼少期はまだ納得出来た。でもね。デビュタントが終わってからも、それは変わらなかったの。
その時、疑念は確信に変わったわ。
私は人質だった――
それは、国王陛下の要求からも容易に想像出来た。あまりにも、あからさまだったからね。
ベルケイド伯爵家から物資や食料を無償で貢がせようとしたの。その上、街道の関税を引き下げるよう通達してきた。
〈聖なる乙女〉である事を公表する見返りとしてね。ありえない話でしょ。どこまでも、私達家族を馬鹿にすればいいのって話よ。
ほんと、愚かな要求よね。ベルケイド伯爵家にとって、王族は穀物に発生する害虫と同じだった。
今になって考えてみれば、始めから、自分の娘二人を〈聖なる乙女〉と公表し、本物である私を末端に入れるつもりだったようね。だから、公表しなかったし、私の証を模写する時間も取れた。
恩恵を貰い、且つ、王族の威厳を保つために――
そしてそれだけでなく、ベルケイド伯爵家からも搾取し続けるつもりだった。つくづく下衆よね。
(おあいにくさま。そんな事、絶対させる訳ないでしょ)
護るわよ、家族も領民も。
「……ど、独立だと!! そんな事許さぬ!! 絶対、許さぬぞ!!」
国王陛下は怒りに任せて私に掴み掛かって来たけど、イシリス様が唸ると、腰を抜かしたように座り込んだ。
「噛み殺されなくてよかったわね、国王陛下。焦る気持ちは分かるわ。貴方達王族から見たら、ベルケイド元伯爵家は金のなる木だったからね。物資に食料、街道の関税の引き下げ、ほんと、飽きずに次々と要求してきたものね。私を〈聖なる乙女〉と公表する見返りとして」
私の発言に一番食い付いたのは、意外にも宰相様だった。
「それは本当なのか!? お前は馬鹿か!! 信じられない程の大馬鹿者だな!! そんな大馬鹿者を支えてきた私が一番の大馬鹿者だ。もっと早く、見限っていれば……国は存続出来たかもしれないのに…………」
頭を抱え、宰相は嘆く。
「国王に対し、何たる言い草!! 許さぬ、許さぬぞ!!」
国王陛下は嘆く宰相に怒りの矛先を変える。そんな二人を白けた目で見ながら、私は言った。
「内輪揉めはそこまでにしてくれる。……国王陛下、貴方が認めなくても一向に構わないわ。これはもう、決定事項だから。それに、貴方がた王族が、〈聖なる乙女〉に対ししてきた数々の無礼、他国の要人達が母国に報告するでしょうね。どちらに味方するか、楽しみだわ」
そこまで一気に言い放つと、私は愛する婚約者を見上げ、微笑みマズルを撫でる。
「お待たせしましたわ、イシリス様。帰りましょう、我が王国ベルケイドに」
「ああ、帰ろうか」
イシリス様は風魔法で私をフワリと宙に浮かすと、自分の背に乗せてくれた。最高の手触りだわ。誰もいなかったら、身体全体で堪能したのに。
「させぬ、させぬぞ!! 聖獣様は我が国のものだ!!」
国王陛下の身勝手な怒鳴り声に、私は一気に怒りの沸点が越える。一番低い声が出た。
「我が国のもの? 人族如きが、聖獣様を物扱いとは、恥を知りなさい!! 決めるのは人族ではなく、聖獣様よ!! これからは、聖獣様の加護は得られないと覚悟しなさい!!」
「ならば、この国の民はどうなる!?」
今度は情に訴えてきた。
「言ったでしょ。それは、イシリス様がお決めになられる事。私には、どうする事も出来ないわ。せいぜい、貴方が信仰する神にでも願ったら。応えてくれるとは思わないけど」
なんせ、創世神様の名を勝手に使ったのだから、応えてくれるわけないわ。代わりにくれるとしたら、天罰よね。さっきから、雷が鳴り出しているもの。怖い怖い。
「……許さぬ、そんな勝手は、余が許さぬ!!」
さっきから、同じ台詞ばかり。ほんと、うんざりだわ。だから、無視した。リアス様と宰相様に視線を移す。
「リアス様、宰相様、二人共一緒に帰りませんか? 屋敷までお送りしますわ」
私はにっこりと微笑むと提案した。二人共頷いてくれたわ。
(いい人材、ゲット成功。少しでも、ベルケイド王国が豊かになるなら、多少傷が付いていても構わない。人材は人財って、うちの教えだからね)




