第十話 慢心と驕りの結果
心底呆れた所で、続きといきますか。
「さて、もう一度尋ねるわ。聖獣様から王の器でないと断言された国王陛下、何故、王女達に証があるの? あ、マリアさんについては、後程ゆっくりと詳しく訊きますね」
微笑みながら言ったのに、マリアさんったら、ビクッと身を竦ませるの。失礼よね。でも、静かにしてくれてるわ。
「無礼な!!」
反対に、国王陛下は頭の血管が切れそうな程、顔を真っ赤にして私を怒鳴る。
(事実なのに、おかしいわ)
「無礼ですか? それは、貴方がたでしょ。聖獣様の唯一無二の番である私に対し、そのような口の聞き方、到底許されるものではないわ。これ、世界の常識よね。それとも、御自身は私よりも尊い存在だと思っているのかしら? 聖獣様に認めてもらえない国王陛下と、その家族の皆々様」
満面な笑みを浮かべながら、普段と変わらない口調で言い放つ。別に特別な事は何一つ言っていない。常識を説いてあげただけ。
こんな公の場で、王族が常識を説かれる。それだけで、国としては致命傷だけどね。貴族令嬢の仮面を外した私には、彼らがどうなろうとどうでもいい。
絶対にあり得ない話だけど、無事危機を乗り越えられたとしても、他国からは良くて鼻つまみ状態、最悪、何処からも相手にされなくなるでしょうね。それを理解した上で、私は事を進めているの。
(念のために、私とイシリス様だけで参加して良かったわ。本格的に、例の件を進められるから)
「…………」
等々、言葉すら発する事が出来なくなったみたいね。余程悔しいのか、歯軋りが酷いわ。奥歯割れそう。
「さて、余談はそこまでにして、何故、王女様達に証があるのです?」
(逃がしはしませんよ)
はっきりと、その口で答えてもらうわ。苦し紛れな言い訳をする度に、徹底的に潰してやるけどね。
「余は何もしておらぬ!! 神が決めた事だ!! あまりにも、ミネリア、そなたの素行が悪いから、神が聖獣の身を案じて別の者を用意してくれたのだ!! そうに違いない!!」
(今度は、神様を出してきたか……いやいや、ほんと面白いわ。斜め上過ぎて)
てっきり、イシリス様を魔物呼ばわりすると思っていた。馬鹿さ加減が半端ないからね。どんな馬鹿でも、聖獣様が白銀のフェンリルだって事は知っていたみたい。平民の一般家庭の子供でも絵本で教わるから、当然かな。目の前にいるのは、常識知らずの馬鹿なのは変わらないけど。
祝賀会の参加者達は、もはや唖然としてる。これが、正常な反応よ。
「そうですわ!! ミネリア、貴女は品がなく、我ら王族に対し敬意を持たず、楯突く愚かな娘ですわ。我が娘の方が品があり、聖獣様を支える事が出来ると、神が判断されたのです。素直に、その場から退きなさい!!」
ヒステリー女が、国王陛下の台詞に便乗して、またしても騒ぎ出す。
「そうよ!! 聖獣様から今すぐ離れなさい!! 神に逆らうのですか!?」
今度は、王女様達も参戦して来た。
「なぁ、ミネリア、いつまで俺は我慢すればいい?」
白い息と共に、イシリス様の地を這う低い声に王族達は黙り込む。
相当、溜まってますね。私がイシリス様の立場なら、疾うの昔に我慢できなくて暴れているわ。私のために我慢しているイシリス様が、とてもとても愛しくなる。そんなイシリス様に、我慢を強いる私を許してね。
「もう少しだけ我慢お願いします、イシリス様。聞くに耐えない下手な言い訳ばかり繰り返すので、徹底的に潰しておかなくてはいけないと思って。私達の未来のために」
「俺達の未来のためにか?」
「そう。私達の未来のために」
イシリス様のマズルに頬を寄せ、私は言った。
「なら、もう少し我慢しよう」
渋々だけど、イシリス様は折れてくれた。我慢も限界そうなので、ピッチを上げましょうか。
「それは、おかしいわね。創世神様が私を不適格と判断したのなら、何故、証が消えないの?」
私は手袋を脱ぎ、左の手の甲に刻まれた証を見せながら問うた。
「そ、それは……」
私の問い掛けに、国王陛下は言葉を詰まらせる。
「そもそも、根本的におかしな話だと気付かないなんて、貴方達、本当に勉強不足よ。番契約を交わしていない者に、証は出ないの。番契約を交わして、証は浮かび上がる。つまり、候補者に証は浮かばない。知らなかった? これ、常識よ。故に、証を持つ者が複数いる事自体あり得ないの。理解出来ました、常識知らずの国王陛下と王族の皆さん」
私は一旦言葉を切り、じろりと睨み付けると話を続けた。
「後、〈聖なる乙女〉とは、聖獣様と正式な番契約を交わした者の名称よ。なのに、何故、王女様達とマリアさんに証が表れるの? イシリス様と番契約を結んだの? だとしたら、尚更おかしな話よね、聖獣様は番をとても愛する方、複数持たれる事は絶対ないわ」
「…………絶対など、ありはせぬ」
(まだ言うか、この糞国王。この世界の創世神様は二柱だと知ってるでしょ!! まさか、その意味すら知らないの!?)
創世神様は二柱、夫婦神なの。だから、愛人を持つ事も、妾を持つ事も本来はタブーとされている。当然、不貞もね。まぁ、それでも例外はあるし、隠れて囲っている貴族や商人は多数いるけど、バレれば全員白い目で見られるわ。
なので、第一王子殿下がした行為は、婚姻前だとしても、それだけで、創世神様の教えに反した事になるのよね。二人は、真実の愛って主張してたけど。浮気に、真実の愛なんてないわ。それでも、貫くのなら、正式な手続きをすればよかったのよ。それすら面倒くさくて、こんな馬鹿げた茶番劇を仕掛けた。
そして、国王陛下達はそれに乗っかった。表向きは国の頂点に立っているから、願望は何でも叶うと錯覚したのね。小娘一人排除するくらい簡単だと考えた。
(その慢心と驕りが、国を滅ぼすのよ)
「あるのよ。そう定められているの、貴方が言う神様にね。そうですよね、イシリス様」
イシリス様に寄り添いながら尋ねる。
「そうだ。創世神は二柱。夫婦神だからな。神族に属する者は一人しか娶る事が出来ない。人族のような離婚もない。生涯、番は一人だけだ」
「だそうよ。なのに、何故証が?」
(そろそろ、正直に言ったらどうなの? いい加減、うんざりしてきたんだけど)




