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言いたいことはそれだけですか。では、始めましょう  作者: 井藤 美樹


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第一話 まさか、あんな茶番が始まるとは思わなかった



 (もっと)も綺羅びやかな世界。


 そして、貴族なら誰もが憧れる、選ばれた人のみ参加可能な王族主催の祝賀会。


 でも中には、私のように、魅力を感じない少数派の者も紛れている。


(ほんと、いつ来ても、パーティーだけは慣れないわね。あ〜帰りたい) 


 皆、同じようなデザインのドレスに、髪型、化粧まで似せてて、個性なんて何処にもない。


 一応これでも貴族令嬢だから、今年の流行りは踏まえているわ。だとしても、ここまで流行りに寄せる必要あるの。流行りに自分らしさを取り入れるのが、お洒落だと思うけどね。私は別に流行りには拘ってはいないけど。そこら辺は、婚約者に任せている。彼は私を着飾るのが好きだからね。


 それにしても、見分けが難しいわ。そもそも、顔を覚えるの苦手だし。まぁ特に、社交に力を入れる必要がないから、最低限、王族の方だけを見分ければいいかな。正直、それ自体面倒くさい。


(卒業までの我慢ね。そもそも、私に話し掛ける奇特な方は少ないし、端に寄ってればいいかな)


 幸せな事に、私は埋没する程の平凡な容姿。それに、薬品臭い。なので、今日も出された料理だけを楽しみ、一流の音楽を純粋に楽しんでいた、


「美味しいかい? 私の愛しの君」


 甘い声で、そう問い掛けてきたのは、私の婚約者。いつもと同じように、腰に手を回され抱き寄せられた。


 平凡を極めたような容姿をしている薬品臭い私を、愛してくれる奇特な方。まぁ、その存在そのものが奇特なんだけどね。


「……何度も申しておりますが、普通に、ミネリアとお呼び下さい、イシリス様。それから、少し離れて下さい」


 密着されると、食べ辛いの。ステーキのソースが、イシリス様のお召し物に飛び跳ねそうで、ハラハラしてしまう。

 

「相変わらず、私の婚約者は冷たいね。私にも溺れないし、でも、そういう所が最高に可愛い」


 まるで、砂糖菓子を一気に食べてるような甘い言葉を口にしながらも、イシリス様は私の腰から手を離そうとはしてくれない。


「イシリス様」


 再度、やや強めに言うと、やっと手を離してくれた。これで、イシリス様のお召し物を汚さなくて済むわ。だって嫌でしょ。私の瞳の色の物を身に着けてくれてるのに、私の不注意で汚してしまうのは。


「ごめん、ごめん。そう、怒らないで。その顔、とても可愛いから、他の男に見せたくない」


(これ……本気で言ってるのよね)


 この手の台詞を聞く度に呆れるというか、複雑な気持ちになるわ。何度も言うけど、イシリス様以外誰が見ても、私は平凡だからね。


 髪の色も瞳の色も。金髪が混じった薄茶色の髪に水色の瞳。体重も平均。胸は……残念ながらマイナスだわ。一応伯爵家だけど、ど田舎の貴族だし。印象に残らないというか、埋没するからね。


 それに比べ、イシリス様は私と正反対。


 容姿は誰もが羨む程、秀でてらっしゃる。美の化身と称されてる程よ。当然、スタイルも完璧。体型は細マッチョ。さっきみたいに身体を寄せれば、自ずと鍛えられてるって分かるわ。


 そのような容姿の方がパーティー会場にいて、その相手が冴えない私なら、貴族関係なく騒がれて、私を引きずり降ろそうとしてきてもおかしくないのに、ちっとも騒がれない。


 不思議でしょう。


 理由は至って簡単。魔法で姿を変えてるから。後、念には念を入れて、認識阻害の魔法も掛けてるわね。


 なので、平凡に見えるけど、人の記憶にとどまらないの。敢えて公の場では、これで通しているわ。イシリス様の本当の容姿を知っている者は、限られてるわね。私たちが気を許す者と、王族、宰相くらいね。


 イシリス様の傍にいれば、認識阻害の魔法は私にも影響するの。そのおかげで、大きな口を開けてお肉を頬張っていても、眉を(しか)められる事もないわ。便利って言えば便利なんだけどね。


「そんなに、その料理が気に入ったのなら、料理人をスカウトしようか?」


 とんでもない事をイシリス様は言い出した。それが出来る立場だから、尚怖い。


「駄目ですよ、イシリス様。料理人さんにも、色々あるのですから」


 私が咎めると、イシリス様は優しい笑みを浮かべた。そして、私の頭を撫でる。


(う、嬉しいけど、今は止めて。喉に詰まりそうになるから)


「ミネリアは何も望まないね。私の番になったのに」


 この台詞、何度も聞いている。その度に、私は何度も同じ台詞を繰り返す。


「一番叶えたい願いを叶えてくれたのだから、それ以上は望みません。学園を卒業したら、速攻田舎に引き籠もれるなんて、最高に幸せです」


 社交の場には、最低限の出席だけでいいと言質が取れてるし、好きな研究を好きなだけ出来るのよ。それもこれも、イシリス様の番になったからよ。結構な我が儘でしょ。なのに、それ以上望むなんて出来ないわ。


「それは、私にとって大した事ではないよ。私も田舎の方が伸び伸び出来るからね」


 イシリス様の本当の姿を知っている私は、思い出しニコッと微笑む。


「そうですね。……どうかしました? イシリス様」


 何故か固まってしまったイシリス様を、下から覗き込む。すると、イシリス様は鼻を抑えて深呼吸を繰り返してから、詰め寄って来た。


「気が変わった!! ミネリア、今すぐ帰ろう!!」


 イシリス様は私の腰に手を回し、持ち上げようとした。さすがに焦ったよ。


 知らないうちに、イシリス様のスイッチを入れたみたい。当然、私は暴れたわよ。いくら認識阻害の魔法が掛かっていたとしても、恥ずかしいもの。それに、まだ仕事が終わってはいないから。


「いきなり、どうしたのですか!? まだ駄目ですよ。国王陛下と王妃殿下に挨拶していませんわ」


 挨拶なしには帰れない。


(こうなるんだったら、お肉の先に挨拶するべきだったわ)


「そんなの、いつでも出来るだろ!? 出席しているだけで、満足してくれる筈だ!!」


(まぁ、そうだけど……借りを作りそうで嫌)


「駄目です。もし、無理して帰ろうとするなら、一週間、口を聞きませんから」


「酷い!!」


 口を聞かないと言われたのが、余程堪えたみたい。泣きそうな表情で、渋々諦めてくれた。でも、腰に回された腕はそのまま。


(残ってくれただけでよかったわ)


 ほっと胸を撫で下ろした時だった。


 まさか、あんな茶番が始まるなんて想いもしなかったわ。


「リアス・モリアスはいるか!! いるなら、前に出ろ!!」


 華やかなパーティー会場に、似つかわしくない、場違いな怒号が響いた。

 



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