耀遺
彼は『耀遺』の観測を担当している。
だが、彼自身が観測所にいる事はほぼない。
彼自身が耀遺の人間として、現地に赴いているからだ。
基本、耀遺の観測報告は彼の下に就いている補助観測員により行われている。
彼は定期的に衡理に戻っては観測報告に目を通し、また耀遺へと帰るという生活を送っている。
――以下、記憶抜粋――
アストリオ中央回廊で、彼とすれ違った。
耀遺から戻った直後だったと思う。
彼のお気に入りの白衣には、耀遺特有の匂いを感じた。
「戻っていたのか」
「さっきね。向こうの研究が面白くて」
彼は軽く答える。
彼は他の観測者と比較しても少し…いや、かなり変わった観測者だ。
当時、突然「ちょっと向こうに住んでみることにするよ」と言われた時には、流石にアルヴェラと慎重に話し合った。
「今回の観測報告はちゃんと見てあったね」
彼は、ある種とても熱心な観測者である。
耀遺で研究を行う傍ら、たまに帰って補助観測者の観測報告を確認している。
彼が目を通した報告には、衡理での観測だけでは得られない、『人々の生活の息づかい』が感じられるからすぐに分かる。
「こっちで得られる情報は向こうの比じゃないからねえ。
あ、勿論約束は守ってるよ」
彼は笑いながらそう答える。
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僕とアルヴェラが、彼の耀遺での生活を許した条件は、
『衡理の存在を明かさない事』
『衡理で得られた情報で世界を動かさない事』
この二つである。
それを伝えたら彼は大笑いした。
その時は、僕もアルヴェラも突然どうしたのかと驚いた。
ひとしきり笑った後、
「そんな事するわけないでしょ?何のために向こうに行くと思ってんのさ?」
と答えた。
彼の行動原理は理解出来ない部分が多い。
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「そういえば、最近補助してる子たちが向こうの世界に興味持っちゃって。
『自分も行きたいです!』なんて言ってきてるんだよねえ」
世界を渡る事はリスクが多い。
彼一人ならと許したが、複数人となると流石に容認出来ない。
「まっ、僕が絶対に許さないけどね」
彼は続けてそう言った。
「研究を手伝ってくれる人が増えて助かるんじゃないの?」
どのみち許可は出ないだろうが、僕はあえてそう聞いてみた。
また彼を一つ知れるきっかけになるかもしれない。
「なんで僕の楽しみを奪う人を入れなきゃいけないのさ?絶対に嫌だね、ぜっったいに」
彼はそれだけ言い、去っていった。
今を持って、彼の行動原理は理解出来ない部分が多い。




