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ユナの足の裏は、ずいぶん厚くなっていた。
というより、長く歩くことに慣れたのだ。
目指していた村には、思っていたより早く着いた。
ガルドは村に入ると、村長らしき人物を見つけ、話を始める。
そうなると、ユナにはすることがない。
少し離れた場所で、村の風景を眺めていた。
「誰が来ようが、決して渡さん!」
村長の怒鳴り声が響く。
「違う。俺は、奴らとは違う」
ガルドが答える。
「そんなことは知らん。去れ!」
村長は、ひどく興奮しているようだった。
「せめて、話だけでも――」
その言葉の途中で、ガルドの身体が吹き飛ばされた。
……え?
ユナは、一瞬、何が起きたのかわからなかった。間髪入れず、村長の手から風の刃が放たれる。
……無詠唱魔法。
速い。柵にもたれかかるような姿勢のガルドへ刃が迫り、ガルドを刻んだ。
村長は、まだ構えを解いていない。
ユナは、考えるより先に走り出していた。
「やめて!」
ガルドの前に立ち、両手を広げて庇う。
「……ユナ、逃げろ」
ガルドが、声を絞り出す。
村長は、ゆっくりと近づいてきた。
ユナの呼吸は浅くなり、足が震える。
それでも、視線だけは逸らさなかった。
「やめて……」
震える声で、ユナは言う。
「……子ども、か」
村長が呟いた。
「そこを、退け」
「退かない」
ユナは、はっきりと言った。
村長が、一歩、距離を詰める。
ユナは唇を引き結んだ。
村長は、構えたまま動かない。
「ユナ、逃げろ」
ガルドが、もう一度言う。
ユナは、その言葉を無視した。
やがて、村長は小さくため息をついた。
「……子連れ、か。見逃してやろう。子どもに免じてな。二度と、来るな」
そう言い残し、村長は二人から目を逸らし、立ち去っていった。残されたユナは、村長の姿が見えなくなってから、ようやく手を下ろした。
ユナは、ガルドを見た。
至近距離から風魔法を受けたのだ。傷は、深そうだった。考える暇はなかった。ユナは急いで自分の服を裂き、布を作ると、ガルドの身体にきつく巻きつけた。
「ぐっ……」
ガルドが苦しそうに呻く。巻いた布に、すぐ血が滲んだ。……それでも、この村には、いられない。
「ガルド、歩ける?」
ユナは不安を押し殺して聞いた。
「……少し、なら」
ガルドの額には、はっきりと汗が浮かんでいる。ユナはガルドの身体を支え、自分が杖になるつもりで肩を貸した。小さな身体にかかる重みは、想像以上だった。
それでも、足を止めなかった。
二人は、誰にも見つからないように、静かに村を後にした。
村の近くの森に入った。木々の影で、ガルドは横になった。呼吸が、浅い。
ユナは周囲を見回す。
確か――どんな草でもいいから、いろいろな種類を集めて、擦り潰せばよかったはずだ。
それは、ユナの村で教えられたことだった。
ユナは夢中で草を集めた。
手頃な石を見つけ、せっせと潰していく。
ガルドに巻いていた布をほどく。
……傷が、ひどい。けれど、先ほどより出血は少なくなっているようにも見えた。
ユナは擦り潰した草を傷口に塗り、もう一度、自分の服を裂いて、きつく巻き直した。
血に染まった布は、遠くに捨てなければならない。動物が、寄ってくる。
「少し、離れるから」
ユナはそう言って、ガルドから距離を取った。
それでも、何度も振り返りながら、森の奥へと歩き出した。




