8
ガルドとユナは船に乗った。大きな船の上では、多くの航海士たちが忙しなく行き交っている。
ユナは、海も、船も、日に焼けた人々の姿も、すべてが珍しくて、目を離せずにいた。
あちこちを見回しているうちに、胸の奥が、ふらりと揺れ始める。
やがて、ユナは船のデッキに横になった。
「……気持ち、悪い」
それを見て、ガルドが言った。
「船酔いか。……寝てろ」
そう言うと、ガルドは手持ち無沙汰な乗客たちと談笑を始めた。
ユナは、揺れる世界と、まぶしい太陽の光と、遠くで聞こえる人々の笑い声を、ぼんやりと聞いていた。
――船は、嫌いだ。
そう思いながら、ユナは目を閉じた。
「魔物だ!」
「来るぞ!」
叫び声に、ユナははっと目を開けた。すでに多くの客たちは船室へと避難を始めている。
ユナは、慌てて周囲を見回した。
――ガルドが、いない。
立ち上がろうとして、足がふらつく。
次の瞬間、船が大きく揺れた。
ユナは倒れ込み、這うようにして、掴める場所へと移動する。轟音が響いた。砲弾の音だ。空を切り裂くように、魔法が飛び交う。
その中で、ユナは見た。ガルドが、剣を振るっている。
どうして、魔法を使わないの?他の誰よりも、凄いはずなのに。そう思った、その直後。
ガルドの剣が、海の魔物の体を確実に削った。魔物は悲鳴を上げることもなく、海の中へと沈んでいく。
やがて、戦いは終わった。人々はガルドの武勇を称え、砲手も、魔法使いたちも、無事に乗り切れたことに安堵の息をついた。
ユナは、甲板の隅でそれを見つめながら思った。
――ここでも、私は何もできない。
その思いは、船の揺れよりも重く、胸に残った。
ユナとガルドは、港に着いた。
大地を踏みしめても、まだ世界が揺れている気がする。ガルドは、同じ船に乗っていた人々に囲まれ、別れを惜しまれていた。
ユナは少し離れた場所で、深く息を吸って、吐いた。
……なんだろう。匂いが、違う。人々の服装も、今まで見てきたものとは違っている。
色も形も、知らないものだった。
「悪いな。待たせた」
ガルドが戻ってくる。
ユナは首を振った。
「なんだ? 怒ってるのか?ほら、さっきの奴らにこれ貰ったんだ。食べるか?」
そう言って差し出されたのは、見たこともない、干した果物だった。
「……食べる」
ユナはそう言って、それを受け取った。口に入れると、とても甘くて、ねっとりとしている。不思議な味だった。
……なんだけど。
「ウマイか?」
笑いながら聞かれて、ユナは、つい頷いていた。
甘さが、胸の奥まで染み込むようだった。
ガルドは、懐から地図を取り出した。
「次の行き先は、ここだ」
ユナは地図が読めない。ただ、今いる場所から、とても遠いわけではなさそうだ――と、なんとなく感じただけだった。
「船じゃ、ほとんど食べてないだろ。早い飯にするぞ」
ガルドはそう言った。事実、そのとおりだった。ユナは素直に頷く。
……時々、よく見てるから、ガルドは誰とでも話せるのかな。ユナは、歩き出したガルドを、少し眩しそうに見上げた。
その背中は、大きくて、当たり前のように前を進んでいた。




