7
ガルドとユナは、大きな港町に辿り着いた。潮の匂いと、人のざわめき。並ぶ船を見渡しながら、ガルドは小さく息を吐いた。
「……金がない。稼ぐぞ」
「どうやって?」
ユナが尋ねると、ガルドは指を折りながら言った。
「用心棒か、魔物狩り。手っ取り早いのは――闘剣士だな」
「……闘剣士?」
「そうだ。ユナは、俺だけに賭けるんだ」
そう言って、ガルドはどこか楽しそうに笑った。こうしてユナは、持っている全財産を、ガルドに賭けることになった。
正直なところ、不安しかなかった。
闘技場は円形で、中央に広い舞台があり、その周囲を客席がぐるりと囲んでいる。人々の声が、波のように押し寄せていた。
「おい、ガルドが出るってさ」
「本当か?」
「じゃあ、ガルド一択か」
「いや、あんなん過去の人だ。今はガイ・サンダーだろ」
ユナの耳に、さまざまな言葉が飛び込んでくる。
……大丈夫なのかな?まだ誰も立っていない舞台を、ユナはじっと見つめていた。胸の奥が、落ち着かないまま。
舞台へ、ガルドが姿を現した。その瞬間、観客席が大きくどよめく。
「……本物か?」
「初めて見たぞ」
ざわめきの中、対戦相手も入場する。名の知られていない剣士らしく、観客の反応は薄かった。やがて、両者が向き合う。ガルドの手には、剣。合図と同時に、闘いは始まった。
――そして、終わった。
一瞬だった。剣が交わる音すら、はっきりとは聞こえない。気づいたときには、対戦相手は地に伏していた。
「勝者――ガルド!」
宣言が響く。
次の瞬間、闘技場は歓声に包まれた。怒涛のような喝采が、円形の客席を揺らす。ユナはまばたきすら忘れて舞台を見つめていた。
ガルドは、順調に勝ち進んだ。
気づけばユナは、いつの間にか手を強く握りしめ、息を詰めるようにして試合を見ていた。
「やっぱ、ガルドは強いな」
「いや、次はわからんぞ」
「相手は、ガイ・サンダーだしな」
観客の声が、嫌でも耳に入る。
次の試合が始まった。
剣と剣が激しく打ち合い、そのたびに歓声が弾ける。闘技場の熱気は、みるみるうちに高まっていった。
ガイ・サンダーは速く、鋭い。正面からぶつかれば、危険だとユナにも分かった。だが、ガルドは違った。わざと、隙を作る。
一瞬の油断。誘われるように踏み込んだガイ・サンダーの剣が伸びた、その瞬間――
ガルドの剣が、先に届いた。
勝負は、決した。
「勝者――ガルド!」
正直なところ、ユナはまだ状況を飲み込めていなかった。ただ、胸の奥が熱くなり、ぎゅっと握った手が震えていた。
「これで当分、余裕だ」
ガルドはそう言って、ユナを振り返った。
「船代もあるし、ウマイ物でも食べるか?」
ユナは答えなかった。
「どうした?」
問いかけられて、ユナは少しだけ俯いた。
「……心配、だった」
絞り出すような一言だった。
「その辺のやつらには、負けんよ」
ガルドは肩をすくめ、いつものように笑った。
ユナは、ぎゅっとガルドの服の裾を引いた。
小さな指に、力がこもる。
「……そうだとしても、心配だった」
もう一度、同じ言葉を繰り返す。ガルドは、その手を見てから、何も言わずに視線を戻した。
笑みは消えていたが、表情はどこか柔らかかった。




