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「ユナ、像をもらえるそうだ」
ガルドが、社の前に立つユナに声をかけた。
ユナは立ち上がり、二人の方へ向かう。村長はしばらくの間、何かを考えるように黙っていたが、やがてその場を離れた。
少し時間が経ってから、村長は鞄と、布に包まれた塊を抱えて戻ってきた。
「像は、この中にある。他のも一緒に包んでおきなさい。鞄は、一番頑丈なものを選んだ。使うといい」
淡々と、しかし迷いのない口調だった。
「……ありがとうございます」
ユナは、とりあえずそう答えた。他にどう返せばいいのか、分からなかったからだ。
村長は、別れ際にガルドとユナへ食糧を持たせてくれた。干し肉や保存の利くパンが、丁寧に包まれている。
「すごく、いい人だったね」
村を離れて少し歩いたところで、ユナが言った。
「……そうか?」
ガルドは、素直に頷けなかった。村長は、最初――像を渡すことを断固として拒んでいた。それが、ユナを見た途端、態度を変えた。まるで、何かを確信したかのように。
ガルドには、それがどうにも不思議だった。
「何か……おかしなことは、なかったか?」
ガルドが尋ねる。
「別に。普通だよ」
ユナは、首を傾げながら答えた。
ガルドは足を止め、地図を広げた。
風に揺れる紙を押さえながら、黙って目を走らせる。
ユナは、そこで気づいた。地図の上に記された村の名前が、三つ――消されている。
ガルドの表情は、険しかった。ユナは、消された跡を指差す。
「……この、しるしは?」
「消えた村だ」
短く、ガルドは答えた。
「村同士は、定期的に連絡を取り合っている。それが途絶えた、ということだ」
その言葉の意味を、ユナはすぐには理解できなかった。けれど――それは、すでにその村から像が失われたことを、意味していた。
「まだ、像は残っている。急ぐぞ」
ガルドは地図を畳み、歩き出す。ユナには、間に合うかどうか分からなかった。
「次は、海を渡るぞ」
ガルドが言った。
「……うみ?」
ユナが聞き返す。
「海だ。知らないのか?」
ユナは、無言で頷いた。
「とても大きい、しょっぱい湖みたいなものかな」
ユナは想像をする。大きな、大きな湖。
「見れば分かるさ」
ガルドはそう言って、少しだけ口元を緩めた。
「凄いぞ」
その声は、どこか楽しそうだった。ユナは、そんなガルドの横顔を見つめながら思う。
この人は、時々おじさんに見えるし、こうしていると、少年みたいにも見える。……でも。やっぱり、おじさんだろう。
ユナは小さく息を吐いて、前を向いた。
何日か歩いて。ユナは、初めて海を見た。……真っ直ぐな線が、海と空を分けている。どこまでも続くその境目は、あまりにも遠く、現実味がなかった。
波は太陽の光を受けて、きらきらと輝きながら打ち寄せてくる。寄せては引き、引いては寄せるその動きは、途切れることがなく、いつまでも見ていられそうだった。
けれど――。波が、生き物のようにも見えてきて、ユナの胸に、じわりと怖さが広がる。
思わず、ガルドの服を掴んだ。
「どうだ、凄いだろう?」
やっぱり、ガルドは楽しそうだった。
ユナは小さく頷く。怖さは消えなかったけれど、それ以上に、不思議な景色だった。
海は、確かに凄かった。




