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「次に行く予定だった村は……もう、ない」
歩きながら、ガルドは淡々と言った。
「……坊主は、生き残りだな」
ユナは何も言わず、ただ小さく頷いた。
ガルドは懐から一枚の紙を取り出した。それはひどく古びていて、端は擦り切れ、所々が読めなくなっている。
「……それは?」
ユナが尋ねると、ガルドは紙を広げた。
「地図だ。この像を手に入れた場所で、もらった」
彼はじっと地図を見つめ、指で一点をなぞる。
「次は、ここか」
ユナには、そこがどこなのか分からなかった。ただ、ガルドについて行くしかなかった。二人は野を越え、山を越え、森を抜けた。夜は野宿が続き、焚き火を囲んで眠る日々。
ユナの足の裏は、皮が破れた。歩くたびに、鋭い痛みが走る。それでも、ガルドは前を見て歩いている。
振り返ることは、なかった。
ユナは歯を食いしばった。声は、出さない。
わかっていた。
今の自分は、守られるべき存在でも、対等な仲間でもない。――荷物だ。
そう思った瞬間、痛みよりも、胸の奥がひりついた。ユナは、それでも足を止めなかった。
途中、ガルドは獣を狩った。魔法で――。
初めてそれを見たとき、ユナは思わず息を呑んだ。
詠唱がない。杖も、構えもない。一瞬で風が刃となり、獣を仕留めた。
……無詠唱?
村人でも、無詠唱魔法は難しい。よほど熟練した魔法使いでなければできない、と聞いていた。それなのに、ガルドにとってそれは特別なことではないらしい。
肉を得るために使う魔法は、主に風魔法だった。無駄がなく、静かで、確実。ユナは、解体を手伝い、肉を焼く役目を担った。
血の匂いに慣れ、火の扱いにも慣れていく。
そうして二人は、言葉少なに、旅を進めた。
次に辿り着いた村の中央には、社があった。
それは、ユナがかつて暮らしていた村のものと、よく似ていた。
思わず、足が止まった。
ガルドは、村長らしき人物と話をしていた。真剣な表情で、何度も言葉を交わしている。
話はなかなか終わりそうになかった。
手持ち無沙汰になったユナは、村外れの草原へ向かった。咲いている野の花を、一本、また一本と摘んでいく。そして、それを抱えて社の前へ行った。
「……はじめまして。神様」
小さくそう言って、花を供え、社の前に座る。
ユナの居た、焼け落ちた村には立ち寄らなかった。まだ残党がいるかもしれない――そう、ガルドが判断したからだ。
だからユナは、こうして社の前に座った。
風が草を揺らし、花の香りがほのかに漂う。
ユナは何もせず、ただ社を見つめたまま、そこに座り続けていた。
まるで、何かを祈るように。
やがて、ガルドと村長が社の方へと歩いてきた。先に気づいたのは、村長だった。
村長は、ふっと足を止める。
それに合わせるように、ガルドも立ち止まった。
「あの子は……?」
村長の視線の先には、社の前に座るユナの姿があった。
「像を一体、持っている。旅の道連れだ」
ガルドは、簡潔に答える。
「……気づかないのか?」
村長は、静かに問いかけた。
「何を?」
ガルドが聞き返す。村長は一度、首を振った。
「まあ、いい。像は、渡そう。――おまえではなく、あの子にな」
そう言って、村長は再びユナへと視線を向けた。ガルドは、何も言わなかった。
だが、その沈黙の中に、微かな緊張が走っていた。
ゆっくり話を進めれたら、と思ってます。




