23
ガルドとユナが村に戻ると、広場は思いのほか静かだった。
そして、村長の家の前に立つ影を見て、ガルドは足を止める。
――村長だ。すでに戻っていた。
「……村長、か?」
ガルドが低く問いかける。
「そうだ。皆に聞いた。自分を探していたと」
「よく無事に、町から出れたね」
ユナは言った。
村長は一瞬、周囲を確かめるように視線を巡らせ、声を落として答えた。
「荷物を積んだ荷車の底に隠れてな。二重底にしてあったんだ。検問で止められたけどな」
村長は苦く笑う。
「あとは……正直、運が良かっただけだ」
「そう。良かった」
ユナはそれ以上、深くは聞かなかった。
ただ、ぽつりと続ける。
「あの女の人は、村の人なの?」
その一言に、村長は小さくうなずいた。
「ああ。商人さ。とても頼りになる……」
そのやり取りの間、ガルドは家の入口に立つ女性に目を留めていた。
村長の妻だ。
彼女は言葉もなく、両手で口元を押さえ、
大粒の涙をぽろぽろと零している。安堵と恐怖と、張りつめていた日々が一度に溢れ出したようだった。
それに気づいたユナは、胸の奥が締めつけられるのを感じた。
無事に戻れた。それが、どれほど奇跡に近いことか。
村長は、ふいにユナの方を向いた。
その視線は、先ほどまでの疲れ切ったものとは違っていた。
「……渡したい物がある」
低くそう言うと、踵を返し、ついて来るように顎で示す。ユナは一瞬ガルドを見上げ、ガルドは無言で頷いた。
二人は村長の後を追う。
辿り着いたのは、村の真ん中にある小さな広場だった。
昼間なら子どもたちが走り回る場所だが、今は誰もいない。月明かりだけが、地面を白く照らしている。
村長は広場の中央に立つと、深く息を吸い、低い声で何かを唱え始めた。
言葉は古く、耳に馴染まない。
次の瞬間、空気がみしりと軋んだ。
まるで見えない布を無理やり引き裂くように、空間が歪み、裂ける。
「……っ」
ユナは思わず息を呑んだ。
裂け目の向こうから、村長は両手を差し入れ、ゆっくりと何かを引き出した。
現れたのは、あの、像だった。
夜の光を吸い込むように、重く静かにそこにあった。
「それは……」
ガルドが低く唸る。
「村長の術か?」
村長は像を抱えたまま、首を横に振った。
「前の村長から、伝わるものだ」
静かに言い、続ける。
「だが、これを作るために……片腕を捧げた」
一瞬、沈黙が落ちる。
「魔力が、足りんのだ。この身体ではな」
自嘲するように口元を歪めた。
ガルドの目が細くなる。
村長は像を地に置き、背筋を伸ばした。
その姿は、もはやただの村長ではなかった。




