20
ユナは目を覚ました。
……? 地下ではない。石の天井も、湿った空気もない。代わりに、薄暗い小屋の天井が目に入った。
身体を起こそうとして、視界の端に人影があることに気づく。
片腕の男が、すぐ近くに腰を下ろしていた。
「……ここは?」
ユナがそう言うと、片腕の男は一瞬だけ言葉を失った。
「……覚えて、いないのか?」
低く、確かめるような声。
ユナは小さく頷いた。
頭の中は霧がかかったようで、地下の記憶も、逃げ出した記憶も、何も残っていない。
片腕の男は少し考えるように視線を落とし、それから静かに言った。
「色々あったが……抜け出せたのだ。礼を言う」
その瞳は、どこか切なさを帯びていた。
「……私は、何もしてません」
ユナにはわからなかった。礼を言われる理由も、牢から出られた経緯も。しばらく黙り込んだあと、ユナは思い出したように言った。
「……ガルドを、探さないと」
きっと、今も探している。自分が消えたまま心配しないはずがない。
「ガルド、が来ているのか?」
片腕の男が、静かに問う。
「知ってるのですか?」
ユナは思わず聞き返した。
「……ああ。面影だけだが」
そう答える男の声には、懐かしさが滲んでいた。
ユナにはよくわからなかったが――きっと、古い知り合いなのだろう、と想像した。
ユナはふと、自分の手を見下ろした。指先が、じんわりと熱い。まるで内側から温められているような、不思議な感覚だった。
……でも、気のせいだろう。
そう思い、ユナは軽く指を握り、力を抜いた。
「どうしよう……」
小さな声だった。
片腕の男は、低く答えた。
「外は、おそらく我々を探している奴らがいる。今は、動けない」
……そうなのだろう、とユナは思った。
やがて、片腕の男はぽつりと呟くように言った。
「……できるか?」
そう言って、彼は周囲を見回した。
狭い小屋の壁、扉、天井――まるで、何かを確かめるように。ユナは、その意味をまだ理解できずにいた。
しかし、彼が動くよりも早く――扉が、乱暴に蹴破られた。
「誰だい! あたしの小屋に居る奴は!」
怒鳴り声と同時に、冷たい空気が流れ込む。
村長は、その場で固まった。戸口に立っていたのは、豊かな肉付きの中年の女性だった。
片手には包丁。刃は鈍く光り、握りには迷いがない。
女性は村長の顔を見るなり、眉を吊り上げた。
「なんだい。村長じゃあないか。どこに行ってたんだい」
呆れと苛立ちが混じった声だった。
「てっきり、どこかでしけこんでると思ってたよ」
村長は、反射的に言い返す。
「そんなこと、するか」
そのあまりの即答に、女性は一瞬だけ目を瞬かせ――次の瞬間、かかか、と喉を鳴らして笑った。
「ははっ。冗談じゃあないか。そんなことしないくらい、わかってるさ」
包丁を下ろし、肩を揺らして笑うその姿に、
小屋の張りつめた空気が、ほんの少しだけ緩んだ。




