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ユナの旅【連載中】  作者: りな


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2/17

2

ユナは森の中を走り続けた。

深い闇に包まれているはずなのに、不思議と周囲の景色が見えていた。木々の影も、足元の根も、闇に溶けることなく、はっきりと分かる。

やがてユナは、森の奥にある自分だけの隠れ家へと辿り着いた。それは大きな木の虚で、ユナ一人がぎりぎり身を潜められるほどの大きさの、誰にも知られていない秘密の場所だった。

ユナは中へと入り込み、膝を抱えるようにして座り込む。懐から、小さな人の形をした像を取り出し、強く握りしめた。

怖くて、息を潜めて。時折、ぎゅっと目を閉じながら――。ユナは、ただ朝が来るのを待った。

闇の中で、ひとりきりで。


朝が来た。ユナは木の虚から外へ出ようとして――その瞬間、遠くに気配を感じ取った。

理由は分からない。けれど、はっきりと分かる。

……人が、来る。ユナは咄嗟に身を引き、木の虚の奥で小さくなった。

気配は次第に近づき、数も増えていく。ユナは息を殺し、ただじっと耳を澄ませた。この場所は、入り口が蔦や草に覆われている。

そう簡単に見つかるはずはない――それでも、心臓の音がうるさくて仕方なかった。

やがて、人々の話し声が聞こえてくる。

「御神体を探せ、だとさ」

「最初から無かったんじゃないのか?」

「村人は皆死んでる。誰にも聞けねぇな」

「一人くらい、生かしておけばよかったのによ」

「もう遅いわ」

「まあ、逃げた奴がいるかもしれん。……いないだろうけど」

「だな」

ユナは、その言葉を、はっきりと聞いていた。やがて足音と声は遠ざかっていく。森に、再び静けさが戻った。

……今のは、本当?

村の人たちは、みんな――。

ユナは考えることをやめ、暗くなるまで木の虚の中で動かなかった。日が沈み、外は闇に包まれる。固まっていた身体を、ユナは無理やり動かした。

地面に這うようにして、そっと外へ出る。闇のはずなのに、不思議と見えた。草の揺れも、木の輪郭も、はっきりと分かる。

……お水、飲みたい。

……お腹、空いた。

そのことを、ユナは不思議だとは思わなかった。今はただ、生きるために必要なことがある。ユナは口にできるものを探すため、

そっと――一歩を踏み出した。


ユナは森の中を、あてもなく歩いた。走る力はもう残っていなかった。喉が渇いて、足が震える。それでも立ち止まれば、二度と動けなくなりそうで、ユナは歩き続けた。

小さな川を見つけたのは、日が高くなった頃だった。しゃがみ込み、両手ですくって水を口に運ぶ。冷たい水が喉を通り、少しだけ息が落ち着いた。

「……生きなきゃ」

誰に聞かせるでもなく、ユナは小さく呟いた。

食べ物は、村で覚えたことを頼りに探した。

赤い実は食べてはいけない。匂いの強いものも避ける。地面に落ちている木の実を拾い、割って中を確かめる。

空腹は満たされなかったが、何も食べないよりはましだった。夜は、木の根元や茂みの中で身を丸めた。獣の鳴き声が聞こえるたびに、身体が強ばる。

眠りは浅く、何度も目を覚ました。

それでも、朝は来た。

雨の日は、葉の広い草を集めて身体を覆った。寒い夜は、落ち葉を集めて重ね、少しでも風を避けた。

指先は泥だらけで、服は擦り切れ、手足には小さな傷が増えていった。怖くて、泣きたくて、何度も立ち止まりそうになった。

それでもユナは、歩いた。

「村のみんなが、そうしてたから」

誰かのために働き、耐えて、生きていた。

ユナは、それを真似していただけだった。

何日が過ぎたのか、もう分からない。

それでもユナは、森の中で息をし、食べ、水を飲み、眠った。

小さな身体で、必死に。


ユナは、もう自分がどこにいるのか分からなかった。

歩いてきた道も、進んできた方向も、すべて曖昧になっている。

服は裂け、靴は擦り切れ、全身が泥と埃にまみれていた。足は重く、視界が揺れる。景色が歪み、地面が近づいてくる。そのまま、ユナは倒れた。

人の声が、聞こえた、気がした。

「……何だ?」

そこまでだった。

ユナの意識は、闇に沈んだ。

――次に目を覚ましたとき。そこは、粗末な小屋の中だった。木の板を打ち付けただけの床に、ユナは転がされるように横たわっている。

「目が覚めたか」

低い声がして、ユナの視界に影が差し込んだ。その人物は、ユナの目の前に水を差し出す。ユナは言葉も出せず、ただ懸命にそれを飲んだ。

乾ききった喉に水が染み渡り、少しだけ身体が楽になる。そして――ユナは、再び目を閉じた。


ユナは、まぶたの裏に炎の気配を感じて、そっと目を開けた。ゆらゆらと揺れる赤い光。

……外は、夜?

小屋の中では薪が燃え、その火がユナの顔を照らしていた。影が壁に揺れ、時折、ぱちりと薪がはぜる音がする。

「起きたか。食べろ」

低い声がして、誰かがユナの前に器を置いた。中に入っていたのは、粥だった。

……ぬるい。そんなことをぼんやり思いながら、ユナは何も考えずに口に運んだ。

空腹が、思考より先に身体を動かしていた。

ゆっくりと、けれど止まることなく食べ続ける。

やがて、器は空っぽになった。そこでようやく、ユナは小屋の中を見渡した。家具と呼べるものはほとんどなく、壁際に置かれた道具もわずかだ。

「何もない」に近い空間だった。

視線を火の方へ向ける。

薪をくべている人物の背中が、炎に照らされていた。

……男の人?

炎がはぜ、火の粉が小さく舞う。その音だけが、小屋の中に静かに響いていた。

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