15
町に着いた。村とはまるで違う。人が多く、建物が密集し、行き交う声や足音が途切れることがない。
ユナは落ち着かず、思わず周囲をきょろきょろと見回した。
「ねぇ。どこに行くの?」
ユナはガルドに尋ねた。
「……教団だ」
ガルドは短く答える。
「教団は、像を狙っている。可能性が高いのは、そこだろう」
ユナは一瞬、言葉に詰まった。
「……大丈夫なの?」
「普通の人間なら、問題はないだろう」
ガルドはそう言って、前を見据えたまま歩き続ける。
――本当に?胸の奥で、不安が小さく波打つ。それでもユナは、そのまま黙ってガルドの後ろをついて行った。
「教団はな、教主が頂点に立っている」
バルドは歩きながら、ユナに言った。
「教主の下に枢機官のような連中がいて、各地の教会を管理している。司祭はその指示に従って布教をし、信徒をまとめる役目だ。そして――」
バルドは一瞬、言葉を切った。
「武力が必要な時のために、聖騎士団がある。表向きは“神の剣”。だが実際は、教団の意に沿わぬ者を排除する部隊だ」
……そうなんだ。ユナは、今まで点でしかなかった話が、少しずつ線になっていくのを感じていた。
「像を集めるのは、特命を受けた者だけだ」
バルドは続ける。
「教主直属。だから聖騎士団も逆らえない。」
……知らなかった。ユナは胸の奥が、ひやりとするのを感じた。
ユナは無意識に、服の上から懐を押さえた。
バルドは前を見たまま、低く言った。
「近づく時は、余計なことは言うな。目立たなければ、それでいい」
ユナは小さく頷き、再び人波の中へと歩みを進めた。
ガルドとユナは礼拝堂に着いた。
それは、町のどこからでも見えるほど大きく、威圧感すらある建物だった。白い石で組まれた壁は高く、正面には重厚な扉。幾本もの尖塔が空に突き刺さるようにそびえ立ち、まるでこの町そのものを見下ろしているかのようだ。
――信仰というより、権威の象徴。ユナはそう感じた。中に足を踏み入れると、空気が一変した。天井は異様なほど高く、細長い窓から差し込む光が、色付きのガラスを通して床に淡く模様を落としている。香の匂いが漂い、足音はやけに大きく反響した。壁際には神を模した彫像や紋章が並び、静けさの中に、目に見えない圧があった。
祈りを捧げる人々はいるが、誰も声を発しない。ただ膝をつき、頭を垂れ、従うことだけを許されたような空間。
ガルドは一度、周囲を見回してから低く言った。
「俺は、聖騎士団希望者として行ってくる。ユナは適当に時間を潰していてくれ」
……そんな。ユナは心の中で呟いた。この場所で、一人で?人々の視線、静かな圧迫感、どこか冷たい空気。
ガルドがいなくなった後を想像しただけで、胸がきゅっと縮む。けれど、ユナは声に出さなかった。
ガルドの背中はもう、礼拝堂の奥――関係者しか入れなさそうな通路へ向かっている。
ユナはその場に立ち尽くし、服の裾をぎゅっと握った。
ここは、安心できる場所じゃない。でも――逃げるわけにも、ついていくわけにもいかなかった。ユナは静かに息を吸い、礼拝堂の片隅へと歩き出した。
ガルドが戻るまで、ここで待つしかなかった。




