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二人は、いったん村の外へ出た。
畑と家並みが途切れ、風の音だけが聞こえる場所で、ユナは立ち止まった。
「どうするの?」
ユナは、ガルドを見上げて聞いた。
「……情報を集めたい」
ガルドは、足元の枝を一本折りながら答えた。
「理由が、あるはずだ。村長が村を離れるなんて、普通じゃない。しばらく、この村に滞在する」
ユナは、その言葉に静かに頷いた。
そうして二人は、再び村へ戻り、申し出た。
「この村に、少し滞在させてほしい。村長と話がしたいんだ」
村長代理の男は、内心ではよそ者を警戒していた。
だが、ユナの様子――痩せた体と、旅慣れていないようでいて必死に踏ん張る姿を見て、ただの怪しい旅人ではないのかもしれない、と思い直した。
村人たちを集め、話し合いが行われた。その結果、条件付きで受け入れることが決まった。
「村長が戻るまでだ。それまでなら、滞在を許す」
こうして、ガルドとユナは、村長の帰りを待つ間、この村で暮らすことになった。
ガルドは、村の周囲で獣を狩り、男たちと行動を共にするようになった。
「弓もできるのか」
そう声をかけられると、ガルドは肩をすくめて答えた。
「少しだけだ」
「それだけできれば、十分だ」
そんな軽口を叩き合いながら、ガルドはあっという間に村の男たちに溶け込んでいった。
一方ユナは、畑の土を耕し、草を抜き、洗濯をして、村から出ない仕事を黙々と手伝っていた。
子どもであっても、ここでは立派な労働力だ。
ユナはほとんど口を開かなかった。
だが、手を抜かず、丁寧に仕上げるその仕事ぶりが、ユナという人間を雄弁に語っていた。
村で数日が過ぎた頃、村人たちの間に、はっきりとした違和感が広がり始めた。
「流石に、おかしい」
誰かがそう口にし、それに同意する声が重なっていく。ガルドとユナは、その輪の外で、静かに話を聞いていた。
「……そういえば、手紙が届いていなかったか?」
一人が思い出したように言う。
「けれど、あれはかなり前の話だろう?関係してるのか?」
「いや、それくらいしか思い当たりがない」
ガルドは少し間を置いてから、口を開いた。
「その手紙は、残っているのか?」
村長の妻らしい女性が、首を横に振った。
「いいえ。あの人が村を出る時に、持って行ったようです」
それで、皆が黙り込んだ。
どうやら、今のところ手がかりと呼べるものは、何も残っていないようだった。
ガルドが静かに問いかけた。
「その手紙を持って来たのは、どういう人物だった?」
村人たちは顔を見合わせる。
「普通……だったと思うが」
「いや、司祭じゃなかったか?」
「司祭、とは?」とガルドが重ねて聞く。
「少し離れたところに、大きな町がある。そこには教団があってな」
村人は記憶を辿るように言った。
「ごく稀に布教に来る、司祭に見えた。……いつもと服装が違ったから、最初は他人だと思っていたが」
その言葉を聞いた瞬間、ガルドの表情が引き締まった。ユナもまた、無言のまま視線を落とす。
二人の間で、言葉は交わされなかった。
だが、向かうべき場所は、はっきりした。
ガルドとユナは、町へ向かうことを決めた。




