13
ガルドとユナは、再び次の村を目指して歩き始めた。森を抜け、土の道を進む。足音だけが、静かに続いていた。しばらくして、ユナは思いきって口を開いた。
「……魔法を、使えるように、なりたい」
ガルドは歩みを止めず、前を向いたまま答えた。
「次の休憩の時に、見てやろう」
やがて腰を下ろした休憩の時間。
ガルドはユナをじっと見つめた。
「魔法の素質は……あるように見えるが……」
そう言って、ガルドは右手のひらを上に向けた。次の瞬間、小さな炎がふわりと灯る。
「初級だ。炎を想像してみろ」
ユナは息を整え、ガルドの動きを真似た。
手のひらに、火を――。
しかし、何も起こらない。
「……相性が、合わないのか?素質ある者は、これで小さな火が出るのだが」
ガルドはそう呟くと、近くに落ちていた枝を拾い、ひゅんと振った。枝先から、空気が裂けるように風が生まれる。
「風魔法の初級だ。これなら、どうだ?」
ユナはガルドと同じように、枝を持って腕を振った。
だが、風は起こらなかった。ユナは、自分の手を見つめたまま、黙り込んだ。
「風なら、そよ風位は出るはずなのだが……」
ガルドは頭をかいた。そして、ユナを見た。
「魔法を使う前に、自分の属性を知る必要がある。他にも、土、水、聖属性なんかがあるが……俺は使えん」
「使えないなら、教えられない?」
ユナが小さく聞いた。
「ああ。使えんものは、教えられない」
ガルドはあっさりと言った。
「……他の属性は、どうしても試せない?」
「別の魔法使いに、教えてもらうしかないな」
それで話は終わった。
ユナはそれ以上、何も言わなかった。魔法を使えるように、なりたい。ただ、その思いだけが、胸の奥で静かに燻り続けていた。
次の村は、途方もなく遠かった。ふたりは何か月も歩き続けた。
その旅の途中で、ユナは気づき始めていた。
自分の身体が、少しずつ変わってきていることに。
……丸みが、出てきた。今はだぶだぶの服がそれを隠してくれているけれど、このままでは、いずれ誤魔化せなくなる。
ユナは小さく頭を振った。……考えても、どうしようもない。ガルドは相変わらず、ときどきユナのことを「坊主」と呼ぶ。
その呼び方に、ユナは何も言わなかった。
それでいい。できることなら、この先も、ずっと。ユナは胸元の服をぎゅっと掴み、視線を前に向けた。
次の村に、ようやく辿り着いた。
見渡した限りでは、今まで立ち寄ってきた村と大きな違いはない。人の数も、家並みも、畑の様子も、ごく普通だった。
だが、ひとつだけ決定的に違う点があった。
村長が、不在だったのだ。
「少し用事がある。もしかしたら、しばらく帰れないかもしれない」
そう言い残し、行き先も告げずに村を出た、という話をしてくれたのは、村長の代理を任された男だった。
「こんな事は、初めてなんだ。村長が村を離れるなんて、今まで一度もなかった」
男は困惑を隠せない様子で、そう言った。
ガルドとユナは、沈黙した。
胸の奥に、言葉にできない違和感が広がっていく。このまま村に留まるべきか。それとも、関わらずに立ち去るべきか。
判断を下すには、あまりにも材料が少なかった。




