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鎧姿の人々が、異変に気づいた。
「火事だ!」
「家畜が――!」
叫び声が上がり、場は一気に混乱に包まれる。炎に怯えた家畜たちが暴れ、逃げ惑い、人々の動線を乱した。
その隙を、ユナは逃さなかった。
闇と混乱に紛れ、一気に距離を詰める。
――今だ。ユナは、豪華な鎧をまとった男に飛びついた。体重を預けるように押し倒し、馬乗りになる。
取り出したナイフの切っ先を、男の目の前に突きつけた。
「……動かないで」
震えを必死に抑えながら、ユナは言った。周囲の喧騒が、遠くに感じられた。
その瞬間、世界には――ユナと、男しかいなかった。
「薬を出して。早く」
ユナは、ナイフを男に向けたまま言った。
「誰が、渡すか」
男は嘲るように返す。
次の瞬間、ユナはナイフを下ろした。
刃が、男の頬をかすめる。
薄く、赤い線が走った。
「……次は、外さない」
ユナは静かに言い、ナイフの先を、男の目へと向けた。
男の顔色が、一瞬で変わる。
「……これだ」
震える手で、男は薬瓶を差し出した。
ユナはそれを片手で奪い取ると、間髪を入れず村長へ投げた。
「他の人も、動かないで」
鎧の擦れる音がした。ユナは視線を逸らさず、ナイフを構えたまま言う。
「魔法も。気配で、わかる」
本当は、ユナにはそんなこと、わからない。
けれど、今、魔法を使われては全てを失う。
そして、刃先は、男の目のぎりぎりにあった。
「お前ら、動くな!」
豪華な鎧の男が、叫んだ。
ユナは、そのまま動かなかった。時間が、異様に長く感じられる。村長は薬を飲み、やがて他の村人たちにも、次々と薬を飲ませていった。
時折、村長はユナの方を、確かめるように見た。けれどユナは、――ただ、ナイフの先だけを、見つめ続けていた。
ユナは、気づいた。いつの間にか、周囲の気配が変わっていることに。けれど、ナイフを握る手は、動かなかった。
「……もう、いい」
誰かが、ユナの肩をそっと叩いた。
びくりと、身体が跳ねる。
ユナの前には、村長が立っていた。
「もう、大丈夫だ」
村長が言った。ユナは周りをぐるりと見た。……武器を手にした村人がユナと豪華な鎧を記田男を囲むように立っていた。
ユナは、ナイフを握ったまま、ぐらりと地面に崩れ落ちた。
豪華な鎧を着た男が、村人に縛られるのを、目を大きく開けて見ていた。
「……ナイフを、放すんだ」
誰かの声が、遠くで聞こえる。
「……指が、動かない」
ユナの声は掠れていた。
緊張で、喉はからからに乾いていたのだ。
ユナは村長を見つめた。
「お願い……ガルドに、水を……」
それだけを、辛うじて口にして。
ユナは、そのまま意識を手放した。




