10
ユナは、小川に辿り着いた。
血のついた布を流し、手と顔を洗う。
「……この水は、飲めないよね」
独り言のように呟き、周囲を見回した。
ガルドが吹き飛ばされた時、水筒は割れてしまった。もう、水はない。
ユナは、急いでガルドの元へ戻った。
ガルドは、浅い呼吸を繰り返していた。胸が、小さく上下するのが、わかる。
けれど――。ユナには、もう、できることがなかった。森の中を歩き回ったが、口にできる果物も見つからなかった。知っている知識は、すべて使った。
ユナは、苦しそうに横たわるガルドを、ただ見つめる。
時間だけが、静かに過ぎていった。
ユナは、おもむろにガルドの周りへ青草や、葉のついた枝を集め始めた。積むように、重ねるように。できるだけ、たくさん。
やがて、ガルドの身体は、森の色に溶け込むように隠れた。
「……お水、貰ってくる」
そう声をかけた。ガルドに聞こえているかどうかは、わからない。貰えるかどうかも、わからない。
それでも。ユナは振り返らず、村の方角へと歩き出した。
あたりは、すっかり闇に包まれていた。
村に近づくにつれ、ユナは異変を感じ取った。
灯りが少ない。人の気配が、おかしい?
ユナは物陰から物陰へと身を潜め、音を立てないように進んだ。
村の中央に、人々が集まっているのが見えた。
豪華な鎧を身にまとった男。そして、その周囲を固める、鎧姿の者たち。村人たちは――皆、地面に横たわっていた。
ユナの身体から、血の気が引いた。
「毒とは……卑劣な」
村長が、苦しそうに呻く。
「解毒剤が、ここにあります。像を渡せば、皆さんに配りますよ」
豪華な鎧の男は、そう言って小さな薬瓶を揺らした。
「像は、渡せん」
村長は、即座に言い切る。
「ほら、皆苦しんでいるでしょう?子どもや老人から、死んでいきますよ。あなた、村長でしょう?」
男は、楽しむように言った。
ユナは周囲を見回した。
……子ども、まで。
村長は、歯を食いしばっている。ユナは、そっとその場を離れた。ここにいても、ユナひとりでは、何もできない。
そのとき、耳に届いた。家畜たちの、かすかな鳴き声。ユナは、はっと顔を上げる。
そして、音のする方――家畜小屋へと、駆け出した。
ユナは、家畜小屋に辿り着いた。
「……ごめんね。でも、助けたいの」
そう小さく言って、途中でくすねてきた火を、家畜小屋の隅に置いた。
火が、ぱちぱちと音を立てる。
「向こうに……みんなで、固まって走って。お願い」
ユナは、一匹一匹に語りかけるように言った。火が大きくなるにつれ、家畜たちは怯え、落ち着きを失い始める。
その隙に、ユナは柵を外し、扉を開けた。
「こっちよ! 走って!」
叫びながら、一番大きな豚のそばへ駆け寄る。
「……乗せて」
ユナはそう言って、必死に豚の身体にしがみついた。次の瞬間、家畜たちは一団となって走り出した。
地面を蹴る音が重なり、闇の中へと雪崩れ込むように駆けていく。
ユナは、振り落とされないよう、歯を食いしばって掴まった。




