行くぞ赤パンマン2
「行くぞ赤パンマン2」
清川孤舟
1.プロローグ(前回のあらすじ)
虫を怖がる程の、大人しい気立てのやさしい大学生の近藤翔太だったが、ある秘密があった。それと、四コマ漫画を描くことが大好きだった。ある日、女友達の麻奈に梅酒サワーを勧められて、飲んだ所大変身して、怪力無双ぶりを発揮することが分かった。その内に、忘年会シーズンとなり、親しい仲間と飲み会に行った。その店には、女子会のグループも居合わせた。そこに、町のチンピラと思しき連中が入ってきた。そして、既に酔っている状態のようで、女性たちにちょっかいを出し始める。女子会の面々は、困った様子で周囲に助けを求めた。見かねた麻奈が翔太に梅酒サワーを飲ませ、赤パンマンに大変身させた。赤パンマンはチンピラどもを簡単にやっつけて、店外に放り出した。その後、二人は結婚して、大学卒業と同時に、近藤探偵事務所を旗揚げする。ある日のこと、事務所で翔太が漫画を描いていると、電話がかかってきて麻奈が応対する。依頼の電話だった。麻奈は翔太に声をかけると共に、クーラーバッグに梅酒サワー缶と保冷剤を詰める。そして、依頼主の家に向かって、二人は事務所を後にした。
2.依頼者
マンションの一室で、翔太と助手の麻奈は依頼者と会った。彼女は愛くるしい顔立ちで、いかにも良家のお嬢様という感じだった。名前を吉田久美子と言い、女子大の文学部英文科の二年生である。彼女の前置きの話から聞き始めた。
「私は英文学専攻で、中でもヘミングウェイに傾倒しています。彼の洗練された、簡潔な文体が大好きです。これまでに原書で、『The sun also rises』や『The old man and the sea』などを読みましたが、小説のテーマ自体が、ヘミングウェイ独特のユニークさがあると思います。横道にそれてごめんなさい。一年生の時から、国立大学の文学同好会に所属していました。去年のこと、同じ同好会の女子学生が一人で夜道を歩いていた時、何者かに殺される事件が起きました。未解決のまま通り魔事件として、片付けられたようです。被害者の女性はとても賢そうな美人の方で、皆にも好かれていただけに、悲しい思いをしました」
ここで、助手の麻奈が口を挟んだ。
「吉田さんは一人住まいのご様子ですが、ご出身地とご実家について、お聞かせ願えませんか」
「はい、出身は静岡県静岡市です。そこで、高校まで過しました。実家は吉田病院という病院を経営していまして、父は医者として、そこの院長を務めて居ります。実は、あのような殺人事件が身近で起きたものですから、両親が心配しましてしばらくの間、同好会の会合に出席することを見合わせるよう、言われていました。最近、何事もないようですので、出席を再開しました」
「それは、ご両親の許可が出たからですか、それとも、ご自身の判断ですか」
と麻奈が尋ねると、久美子はこう続けた。
「実は、両親には内緒で、自分の判断で決めました。ところが、その文学同好会と関係すると思われます事件が起きまして、私は怖い思いをしました」
「怖い思いをした事件と言いますと」
「はい、先日、暗い夜道を歩いていた時のこと、後ろから近付いてきた男が、急に走り出して体当たりしてきて、私は転倒してしまいました。男は黙って走り去っていきました。体当たりされた時の感触では、弾力のある体付きだった気がしますので、太った男と思われます。その時はそれだけで済んで、大した怪我はしませんでした。事件後、周囲に太った男がいないか考えてみたのですが、文学同好会に一人思い当たる男子学生がいました。その男は無口で、目立たない存在でしたので、名前を知りませんし、口を聞いたこともありませんでした。事件後の同好会の会合に出席しましたら、その場に、その太った男も同席していました。じっと私を睨むように見つめているので、私は無視して目線を合わせないようにしていました。怖くなって、それ以来出席していません。両親に相談した所、心配だから護衛の為に、ガードマン役の出来る私立探偵を雇いなさい。そして、外出する時は常に、その探偵さんに見守って貰いなさい、と言われました。以上がお願いする理由です」
「お話はよく分かりました。それでは今後、護衛役を務めさせて頂きます。吉田さんの普段の行動予定を、教えて下さいますか」
と麻奈が続けた。それから、三人は護衛任務予定を、綿密に打ち合わせた。今日は既に、大学の講義を受けた後で、外出する予定はないとのことだったので、翔太と助手の麻奈は、明日から宜しくお願い致しますと言って、その場を辞去した。
3.太った男
その翌日から、麻奈は翔太に、梅酒サワー缶と保冷剤の入ったクーラーバッグを持たせ、久美子の護衛に当たらせた。自分は、大学の講義が終了して、久美子が帰宅の途につくまで、太った男の身元調査を開始した。
男の名前は大河原靖であった。高校時代から、友達付き合いが少なく、ゲームと勉強に明け暮れていた。幸いにして、国立大学の入試に合格したが、それを良いことに、ゲームに没頭する毎日を送っている。友達も、オンラインゲームで知り合ったゲーム仲間だけだった。その内の一人に、女子大生もいるからと誘われて、文学になど全く興味がないのに、靖は文学同好会に入った。女子大生目当てで、動機は不純である。靖の性格は、子供の頃からゲームばかりしてきたので、執着心が強く短絡的で、暴力的な面もあった。ゲームの発想で、欲しい物は攻撃して手に入れるものであった。思うようにいかないと、怒りが爆発して、ゲーム機を投げつけて、壊してしまうことも度々だった。
久美子に対する体当たり事件後の、文学同好会の集まりの際に、靖はじっと彼女を見つめていたが、無視されるし、その後彼女が欠席するようになり、嫌われていることを悟る。彼はゲーム中毒の為に、その感覚が思考を支配していた。従って、現実の世界とゲームの世界が一体化して、区別が付かない状態に陥っていた。自分の手に入らないものと分かると、短絡的かつ暴力的に、久美子を殺すしかないと思い詰めるに至っていた。そのようにして、ターゲットをゲット出来れば、ゲームクリアと同様の、スカッとした気持ちの、達成感が味わえる筈であった。
4.襲われる
ある晩のこと、久美子が友達数人と連れ立って、繁華街を歩いていた。後ろには、アベック連れを装おって、翔太と助手の麻奈が尾行していた。麻奈が翔太にささやく。
「気を付けて。ここで襲って、人混みにまぎれて、逃げる魂胆かもしれないから」
「ああ、分かった。出てくるとしたら、そろそろだな」
と翔太が応じる。その時、黒ずくめの服を着て、マスクとサングラスを掛けた太った男が、横道から出てきた。そして、足早に久美子達一行を追いかけ始めた。
「奴だ」
と叫ぶなり、翔太は梅酒サワーを飲む。盛り上がる筋肉で服が弾け飛んで、赤トランクス姿となる。
「キャア〜、赤パンマンだわあ〜」
と周囲の女性達から、黄色い声援が飛ぶ。赤パンマンが太った男に向かって、両手を額の前でクロスして、
「タァ〜」
と大声を上げて、気ビームアタックを仕掛ける。ここで、気ビームアタックとは、強烈な気を放射するもので、相手は気押されて、一瞬たじろぐ効果がある。気押された男は、一瞬立ち止まった。その隙に乗じて、追いついた赤パンマンは、太った男に体当たりをかますが、男は倒れずに包丁を持って、向かってくる。そして、突き出す包丁を一度はかわすが、二度目に脇腹をかすり、薄っすらと血がにじんだ。その時、周りの女性達が、
「赤パンマン、頑張れ〜」
という声援をしてくれる。それに気を良くした赤パンマンが、三度目の突きに対して、素早く回り込むと手刀を、相手の手首に打ち込む。包丁を叩き落とした。更に連続技で、腹にパンチをめり込ませるが、厚い脂肪層の為に、太った男に対しあまり効果がない。そこで、最後の手段として、相手の弱点である口に、パンチをみまう。ボキッという音がして、前歯が二、三本折れたようである。これで、太った男は口を押さえて、戦意喪失した様子だったので、赤パンマンが足をかけて突き飛ばした。それから、うつ伏せにさせて、腕を背中の上にねじり上げた。これには、男もたまらず、
「参った。降参だ。助けてくれぇ〜」
と涙声になる。赤パンマンがマスクとサングラスを取ると、犯人はやはり大河原靖だった。麻奈に警察を呼んで貰うと、間もなくパトカーが到着して、全員で警察署に向かった。
5.エピローグ
警察署で取り調べを受けた靖は、1年前の例の殺人事件についても自供した。取り調べが終わった後、刑事が来て言うには、吉田久美子さんを二度にわたって襲った、理由の供述が意味不明の為、靖を検察庁に送った後、精神鑑定が必要になるかもしれないという話だった。赤パンマンは、その刑事にねぎらわれると共に、久美子にも怪我なく無事に済んで、問題が解決したことを、丁重に感謝された。そこで、久美子と別れ、二人は住居兼用事務所に戻り、ほっと一息ついた。
それから一週間程後のこと、いつものように、翔太は四コマ漫画を描くことに、没頭していた。そこに、電話が掛かってきた。助手の麻奈が応対する。依頼の電話だった。麻奈は、
「仕事よ、行くわよ」
と翔太に声をかける。クーラーバッグを持った麻奈と、翔太は急いで依頼主の元に駆け付けるべく、事務所を後にした。行くぞ赤パンマン。 完




