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レース編みは万能でした~女神の使徒? 私は飼い猫の異世界召喚に巻き込まれた、ただの飼い主ですよ?  作者: ざっきー
第一章 異世界召喚からの新生活は、波乱の予感

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第8話 領主邸では……


 ナウリム辺境伯領は、サイエル王国の北方警備を担っている。

 

 ここ数十年は周辺国との関係は良好で、戦争は起きていない。

 目下、注視しているのは大陸一の大国、デール帝国の動向である。

 幸い、サイエル王国とデール帝国の間には三つの国が挟まっているため、これまで侵略行為は受けていない。

 それでも、ある日突然周辺国を併呑(へいどん)し、サイエル王国へ侵攻をかけてくるかもしれない。

 その懸念は、常に付きまとっていた。


 皮肉な話だが、デール帝国に対抗するために周辺国が結束を強め、不要な戦争を回避していることで平和が保たれているのだった。



 ◇◇◇



 時は、リサが領都ヘンダームへ来た日に遡る。



 ナウリム領騎士団団長のスベトラは、トンポイの部下からの報告に頭を悩ませていた。


 屈強な大男であるスベトラの年は四十過ぎ。

 それでも、まだまだ若い騎士たちに後れを取るようなことはない。

 愛用している大剣…の木剣を振り回し、日々後進の指導に情熱を注いでいた。

 

 そんな彼を悩ませるのは、いま魔道具で届いたばかりの報告だ。

 それによると、昨日入国した監視対象者が空を飛び、ヘンダームへ向かったのではないかとのこと。


「どういうことだ?」


『監視をしていた部下の話では、例の魔法で作り出した白い布に乗り空へ飛び立ったと。それは馬よりも速く、あっという間に姿が見えなくなったそうです。監視対象者のこれまでの言動と向かった方角的に、まず間違いなくそちらへ向かったと思われます』


 報告者のニックは警備隊の副隊長を務めている。

 部下からの信頼も厚く、真面目な男だ。

 人が空を飛ぶなど荒唐無稽(こうとうむけい)な話だが、報告をしている本人の声も当惑しているのがわかる。

 虚偽の話ではないと確信できた。


『ヘンダームでは、商業ギルドを訪れるはずです。報告は以上です』


「ご苦労だった」


 それでは失礼します、と言って通話は切れた。

 通信室を出たスベトラは、部下へ検問の警備強化と商業ギルドの監視を命じる。

 白い従魔を連れた黒髪の女魔法使いが現れたら、すぐに報告するようにと。

 スベトラは騎士団本部を出て、領主邸へ報告に向かう。

 

 監視対象者は、リサ・タカナシという名の魔法使いで二十歳。

 ミケという従魔がおり、ワイバーンを十体も討伐した実力者である。

 トンポイの冒険者ギルドではギルマスのユーリ直々に実力を見極められ、Fランクから異例のCランク冒険者となった者。


 リサは、白い布を出す奇妙な魔法をあちらこちらで披露している。

 ギルドの訓練場で網状の布に捕らわれたAランク冒険者のユーリは身動きがとれず、強力な拘束の魔法と考えられる。

 しかし、扉のように立てられた布は盾として機能し防御魔法にもなった。


 ところが、馬車の乗車場では布に巻かれた少女の病気が治ったとのこと。

 つまりは、治癒魔法の使い手でもある。

 そして、さらには飛行魔法が使用でき、治療した少女と入団試験を受けるというその兄を連れ領都へ向かっているという。

 この兄妹に関しては、別途接触をはかる予定となっている。


(自身だけでなく他の者も飛行魔法で運ぶことができ、アイテムボックス持ちでもある。もし本当にデール帝国の間者だったら、洒落にならんぞ……)


 空を飛んでの人や物資の輸送は、すなわち、空からも大規模攻撃ができるということ。

 一個隊の戦力にも匹敵する実力者に太刀打ちできる者が、この騎士団にどれほど居るのか。

 国同士の戦争経験がなく、魔物や盗賊団相手にしか戦闘をしたことのない者が多い。

 平和自体は喜ばしいことだが、危機感のない若手たちをこれを機に鍛え直す必要がある。


 スベトラがつらつらと考え事をしている間に、領主の執務室へ着いた。

 ドアをノックし、許可を得て入室する。


「いま、父上は来客中だ。用件ならば、私が代わりに聞こう」


 部屋には、嫡男であるルーク・ナウリムがいた。

 歳は十四で、領主である父親似の金髪・緑眼の美少年だ。

 昨年王立学園を卒業した彼は、跡取り教育の真っ最中である。


「昨日報告しました監視対象者が、ヘンダームへ向かっているそうです。来訪の目的は、商業ギルドへの商品の持ち込みと聞いております。部下たちには、検問の警備強化、及び商業ギルドの監視をすでに命じてあります」


「奇妙な魔法を使う、Cランク冒険者の魔法使いの女だったな。トンポイを朝出発したのであれば、到着は早くとも夕刻になるか……」


「いえ、早ければすでに着いている可能性も……馬車ではなく、飛行魔法を行使し空を飛んだと報告がありましたので」


「飛行魔法だと!? 王立学園では『飛行魔法は魔力の消費が激しく、行使できる者はいない』と学んだぞ」


 スベトラの言葉に、ルークは大きく目を見開いた。


「ですが、これは純然たる事実です」


「ハハハ、どのような者か俄然興味が湧いてきた」


「報告を聞く限りでは、事情聴取に素直に応じたり、病気の少女を治癒魔法で助けたりしているようです。ですが、正体がはっきりしておりません。危険ですので、絶対に接触されないようお願いいたします」


「もちろん承知している。しかし、商業ギルドへ依頼した件の進捗状況を()()確認する必要があるのだ。急ぎの案件ゆえ、私がこれから出向くのは仕方があるまい?」


「ルーク様!」


 普段は品行方正で、下の者に対しても温厚で穏やかな性格の持ち主。

 理不尽な言動も我が儘も言わず次期領主の鏡とも言うべきルークだが 一つだけ欠点がある。

 その悪い癖が出たと、スベトラは小さくため息をついた。


 ルークは幼い頃から好奇心旺盛なところがある。

 興味を持ったものに対してはとことん追求し、満足するまで止めることはない。

 監視対象者本人と接触するまでは、絶対に諦めないだろう。


 領主の来客はまだ終わらないのか。息子の暴走を止められるのは父しかいない。

 どうにかして、時間稼ぎをしなければ。

 スベトラが頭を捻らせていると、侍女が来客を告げにきた。


「商業ギルドのハリー殿が、ルーク様への面会を求めております。ご提案できる商品を持参したとのことです」

 

「ルーク様、行き違いにならず良かったですね。では、私はこれで失礼いたします」


 憮然とした表情のルークへ辞去の挨拶をし、スベトラは騎士団本部へと戻った。

 

 部下から監視対象者がヘンダームへ入り商業ギルドへ向かったとの報告を受け、さっそく商業ギルドへリサの情報開示を求める。

 しかし、商売上の守秘義務を理由に拒否されたのだった。





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