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レース編みは万能でした~女神の使徒? 私は飼い猫の異世界召喚に巻き込まれた、ただの飼い主ですよ?  作者: ざっきー
第一章 異世界召喚からの新生活は、波乱の予感

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第6話 領都へ


 白いレースの絨毯が、森の上を飛んでいる。

 乗っているのは三人と一匹だ。

 

 私は膝の上に昼寝中のミケをのせたまま、編み物に集中している。

 マイルさんは固まったまま動かず、ケイティちゃんは目を輝かせながら景色を楽しんでいた。


「マイルさん、絶対に落ちませんから安心してください。それに、高度があるので魔物にも遭遇しませんよ」


 あまり高いところを飛ぶと、慣れていない二人が怖がるかもしれない。

 そう思って、少し高度を下げて木のてっぺんすれすれの場所を飛んでいる。


 ここなら地表の魔物とも遭遇せず、ワイバーンの縄張りも避けられる。

 木々の枝に隠れるので、下から見られる可能性も低いだろう。


「もう、いろいろと凄すぎて……何も反応ができない」


「魔法使いって、本当にすごいですね! 空も飛べるなんて……」


「ケイティ、普通の魔法使いは空なんて飛べない。これは、リサさんだからできることだ」


 今はヘリコプターモードで飛んでいるが、速度は帝国から飛んできた行きの半分くらいに抑えている。

 それでも、森の開けた平地から離陸するときは、未経験のスピードと高さにマイルさんが絶叫していた。

 ケイティちゃんはキャーキャー言いながら喜んでいたけど。


 領都まで半日かかる距離も、一時間かからずに到着できそうだ。



 ◇



 サイエル王国に入国したときと同じように、領都の城壁の手前の森でレースから降り、何事もなかったかのように検問の行列に並ぶ。

 今回はギルドカードがあるから、騎士に止められることなくすんなり領都へ入ることができた。


 ここで、マイルさんたちとはお別れだ。


「リサさんには、いろいろと世話になった。本当にありがとう」


「ありがとうございました。いただいた『シュシュ』、大切に使いますね!」


 ケイティちゃんの髪は、私があげたピンク色のシュシュで束ねられている。

 髪をまとめるのが簡単で、とても可愛いです!と喜んでくれた。


「試験、頑張ってくださいね。あと、移動手段については、どうか内密にお願いします」


「もちろん、誰にも言わない」


「私もです」


 私が人差し指を立てて口に当てると、二人も同じように返してくれたのだった。



 ◇



「ここが、商業ギルドか……」


 冒険者ギルドの堅牢な建物とは異なり、木をふんだんに使ったおしゃれな木造建築だ。

 扉を開けると木の香りが広がる。

 ロビーには商人らしき人たちが大勢いた。

  

 自分たちが少し場違いな雰囲気を感じつつ、受付に進む。


「すみません、商品を売りたいのですが」


「かしこまりました。商業ギルドのご利用は初めてですね? ギルドカードを作成しますので、こちらにご記入をお願いします」


 記入する内容は冒険者ギルドのときと同じで、名前、年齢、職業を書いて提出する。

 ただし、こちらでは名字は名乗らないことにした。

 また貴族と間違われると、いろいろと面倒そうなので。


「リサさん、ですね。ご職業が魔法使いということは、商品はポーションでしょうか?」


「いえ、違います。こちらの小物です」


 カウンターの籠の中に、持ってきた商品を並べる。

 鞄が四つ。髪留めが二つ。シュシュが三つ。


「これは……すべて、リサさんの手作りですか?」


「鞄と髪留めは既製品を加工しています。それ以外はすべて手作りです」


「担当者が参りますので、少々お待ちください」


 案内された個室の椅子に腰を下ろす。

 私の膝に飛び乗ったミケが、いつものように丸くなった。

 頭を撫でていたら、担当者がやってきた。


「お待たせいたしました。サブギルドマスターのオリビアと申します」


「リサです。こちらは従魔のミケです。よろしくお願いします」


 オリビアさんはスーツっぽい服を着こなした、大人の女性だった。

 キャリアウーマン風の、いかにも仕事ができますという雰囲気をひしひしと感じる。

 そんな人に自作品を見てもらうなんて、非常に緊張してしまう。


「拝見します」


 そう言うと、オリビアさんは商品を手に取った。一つ一つを真剣な表情で見ている。

 小花やイチゴのモチーフについて、「見本があれば、他の花や木の実も作れますか?」と訊かれたので、「よほど特殊なものでなければ大丈夫です」と答えておいた。

 

 これは、なかなか好感触かもしれない。


 シュシュを手に取ったオリビアさんが首をかしげる。

 伸ばしたり縮めたりしているので、「中にスライムの皮紐が通っていて、こうやって髪を結びます」と実演を交えて説明をする。


「なるほど! スライムの皮紐にこのような使い方があるとは……これは便利ですね」


「今日持ち込んだ小物は、糸の素材や色を変えるだけで種類を増やせます」


 オリビアさんの反応が良いので、セールスポイントをしっかりとアピールしておく。


 すべての商品を確認したオリビアさんが、おもむろに口を開いた。


「販売価格ですが、小さい鞄が一つ銅貨五枚、大きい鞄が銅貨八枚、髪留めが一つ銀貨一枚、シュシュが一つ銅貨一枚でいかがでしょうか?」


「あの……そんな高値で売れるのでしょうか?」


 私の想定の倍以上の売値だ。

 高く売れるのは嬉しいが、売れなければ意味がない。

 とても強気の値段設定だから不安になる。


「問題ございません。他に類のない商品ですから、即完売となるでしょう」


 サブギルドマスターがここまで断言したのなら、もうお任せするしかない。

 商業ギルドと契約を交わし、手数料やギルド口座についての説明を受けた。

 手数料を差し引いた金額が、口座へ振り込まれるとのこと。

 冒険者ギルドと同様に、商業ギルドであれば国を跨いでも口座から入金・出金ができるようだ。


「出来上がったものから順次納品いただければ、こちらで張り切って売ります! もちろん、新商品も大歓迎です!」


「わかりました。よろしくお願いします」


 私はガツガツ作って、ギルドでガンガン売ってもらおう。

 作りたいものは、まだまだたくさんある。


 売れ筋商品を見極めながら、このヘンダームで頑張ろうと気合いを入れた私だった。



 ◆◆◆



 リサとの商談を終えたオリビアは、その足でギルドマスターの執務室を訪れていた。


 ギルマスのハリーは年配の男性で、この道四十年以上の大ベテランだ。

 そんなハリーの目の前に、オリビアはリサが持ち込んだ商品をすべて並べた。


「いかがでしょうか? 刺繍とは全く異なる技術で、私はこれまで見たことがありません」


「これはすごいな。糸を使用して、立体的な造形を作り出す技術か……」


 ハリーは拡大鏡を手に取り、髪留めの小花やイチゴをじっくりと観察している。


「こちらであれば、ルーク様へ自信を持って提案できると思います」


「マルベリーシルクの糸で製作すれば、十分貴族向けの商品となるな。さらに、販路拡大にも繋がりそうだ……よし! さっそくルーク様へ面会を申し込もう」


 リサの知らないところで、大きな動きが起きていた。




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