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【第一部完結】レース編みは万能でした~女神の使徒? 私は飼い猫の異世界召喚に巻き込まれた、ただの飼い主ですよ?  作者: ざっきー
第五章 帝国へ女神様に会いに行くだけのはずが……

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第55話 対面


 デール帝国の皇太子であるツァーリ・デールは、夜明け前に寝所に届いた宰相グラハムからの極秘情報を受け、今か今かと夜が明けるのを寝台の中で待っていた。


 目はすっかり覚め、眠れそうにない。

 今すぐにでも駆けつけたい。

 しかし、目立つ行動を取れば、皇兄派に気づかれるかもしれない。

  

 はやる気持ちを抑え、いつも通りの時間に起き、身支度を整え、朝食を食べる。

 そして、執務室でグラハムが来るのを待つ。

 定刻に、普段と何ら変わりない様子で彼は現れた。


 今日のツァーリの予定は帝都内の視察で、皇帝に代わって町の現状を確認するためのものだ。

 これは数日前から決まっており、十歳の皇太子に宰相のグラハムが付き添うことも予定通り。

 用意された馬車で、護衛兵に守られながら二人は出発した。


「グラハム、聖女様が現れたというのは本当なのか?」


 馬車が動き出すなり、待ちきれずツァーリは口を開く。

 寝所で聞いたのは、奈落の森に聖女が現れ魔物を殲滅。

 指揮官の懇願に応え、帝都へ来るとのことだった。


「深夜、当家に指揮官からの書状を持った早馬が来ました。明日の朝、聖女様を帝都の大聖堂へお連れするので馬車の手配を願いたいと」


「その者は、信用できるのか?」


「指揮官は、皇帝陛下に忠誠を誓う信頼のおける者です。それを受け、内密に馬車を手配いたしました。殿下へは事後報告となってしまったことは、大変申し訳ございません」


「そんなことは構わぬ。それで、いま大聖堂へ向かっているのだな?」


「はい。大聖堂へ行くのは聖女様の要望と聞いておりますが、目的までは不明です」


「百年前のように、我が国に力を貸してくださる方であれば良いのだが……とにかく、伯父上たちが屋敷に引きこもっていて幸いであった」


「そうですね。ただ、すぐに噂は耳に入るでしょう。おそらくは時間の問題かと思います」


 二人は大聖堂へ着いたが、聖女はまだ到着していなかった。

 グラハムは衛兵に指示を出し、大聖堂の前を封鎖させる。

 それから中へ入り大司教へ説明を始めたのだが、驚くべきことに大司教は聖女がこちらに来ることを知っていた。


「今朝、神託を受けたのでございます。『そちらに聖女が行く』と。それで、本日の予定を変更し待っておりました」


「なんと! では、もはや疑う余地はないな。何としても、助力をいただけるようお願いをしなければ……」


 国の現状をどのように伝えれば良いか。

 ツァーリが頭を悩ませていると、聖女が到着したとの知らせが入る。

 立ち上がり出迎えた三人の前に現れたのは、頭から外套を被り斑猫を抱っこした小柄な人物だった。


「聖女様、お初にお目にかかります。私はデール帝国で宰相を務めております、グラハムと申します」


 まずは、グラハムが口火を切る。


「こちらは、デール帝国のツァーリ・デール皇太子殿下。そして、エンゲル大司教様です」


「初めまして、聖女様。私はツァーリ・デールと申します」


 ツァーリは、指先を真っすぐにのばした右手をさっと胸に当て、帝国式の挨拶をする。

 これは、ツァーリが聖女を自分と同格、もしくはそれ以上と見なしている証でもある。


「エンゲルでございます。お目にかかれて、光栄でございます」


「皆さま、初めまして。わたくしはミサと申します。こちらは、従魔のリケです」


 被りを取った聖女は、亜麻色髪に茶色の瞳を持つ若い女性だった。


「大変失礼とは存じますが、あまり顔を晒したくないものですから……」


 そう言うと、ミサはすぐに外套で顔を隠してしまった。

 

「あの、聖女様、つかぬ事をお尋ねしますが……そちらは、聖獣様でしょうか?」


「はい、そうです」


「そうですか! やはり、聖獣様は額に星章があるのですね!! いやはや、長生きはするものですな」


 エンゲルが、飛び上がらんとばかりに喜んでいる。

 ツァーリも、百年前に聖女とともに現れた『聖獣ニケ』のことは知っていた。

 この大聖堂に飾られているステンドグラスにも、額に星章が描かれている。


 ミサに抱っこされているリケは、眠っているのか目を閉じピクリとも動かない。


 『斑の眷属を従えし黒髪の乙女────』

 今代は亜麻色髪だが、斑の眷属を従える者は聖女である。


 伝承は本当だった。

 ツァーリはエンゲルのように感情を(おもて)に出すことはないが、内心は興奮していた。


「聖女様、大変恐れ入りますが、この大聖堂へはどのような目的でいらっしゃったのでしょうか?」


 グラハムが話を進め、ツァーリも今からが正念場だと気を引き締める。

 聖女の目的を確認し、国の安定に助力を願う。

 何としても、自分が成し遂げなければならない。


「わたくしは────」


 聖女が口を開いたときだった。「ニャー」と声が聞こえた。

 リケが目を開け、ツァーリを見ている。


「わたくしは、国の民へ女神様の意向を伝えるために参りましたが……」


「ニャー」


「どうやら、その前にやらなければならないことが、あるようです。そうですよね、ツァーリ殿下?」

 

「やらなければ、ならないこと?」


「大掃除です」


 首をかしげるツァーリの前で、聖女は口元に笑みを浮かべた。




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