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【第一部完結】レース編みは万能でした~女神の使徒? 私は飼い猫の異世界召喚に巻き込まれた、ただの飼い主ですよ?  作者: ざっきー
第五章 帝国へ女神様に会いに行くだけのはずが……

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第48話 臨時手芸教室


「何か、良い知恵はないだろうか? 領主家の顔を立てつつ、王女殿下の要望も多少満たせるような案が」


「商業ギルドとしても、今回の対応には(きゅう)しておりまして……」


 私の部屋には、ギルマスのハリーさんとオリビアさんがいた。



 ◇



 レイ君を送り出した私たちは、改めて昼食を買いに出かけた。

 部屋で食事を取ったあと私は制作作業を、ミケはお昼寝をしていたら来客が。

 やって来たのが、商業ギルドのお二人だったというわけだ。


 用件は、やはり例の件だった。

 他領の貴族令嬢らしき人物の対応に困っているとの商業ギルドからの知らせに、領主家がすぐに動いた。

 マリー様とステラ様がギルドへ赴いたところ、その人物が王女殿下であると発覚。

 ナウリム家が預かる形でひとまずお帰りいただいたが、レースリボンを手に入れるまでは絶対に帰らないと王女殿下が言い張っているとのこと。


 商業ギルドとしては、どんな立場の者であっても特例は作らない方針なのだとか。

 これについては、領主家も同様の考えとのこと。

 たしかに、ナウリム家の皆さまはきちんと順番を守られているからね。


 でも、王女殿下はそうではないようだ。

 まあ、生まれた時から周囲が自分に合わせるのが当然という生活をしていただろうから、我が儘になってしまうのは仕方のないことかもしれないけど。


 ただ、このままでは王女殿下がいつまで経っても王都へ帰らない。

 領主家を巻き込んでしまった商業ギルドとしても、この事態をどうにかしたいのだろう。


「確認ですが、『特例は作らない』ということは、アリスさんへレースリボンをお願いすることはしないとの認識でいいですか?」


「はい。前例を作ってしまうのは避けたいです」


 一度でもやってしまうと、他でもやらないといけなくなるからね。

 この対応は当然と言える。


⦅本当に、人は面倒な(しがらみ)が多いねえ……⦆


 私の膝の上にいるミケが、大きな欠伸をした。


 要求されているレースリボンは渡せないから、代わりに別の物を渡すとか?

 売り物ではない物で私がいま持っている物といえば、余り毛糸で作ったモコモコシュシュの三号と四号くらいしか……と考えたところで、良いアイデアが(ひらめ)いた。

 

 『物』をあげるのではなく『体験』をしてもらう。

 髪飾りを自分で作ってもらえばいいのだと。

 これなら、ハリーさんの言う『王女殿下の要望も多少満たせる』し、ナウリム家のステラ様も一緒なら『領主家の顔を立て』られるのでは?

 

 二人へ私の思い付きを話したところ、ハリーさんは「王女殿下に手芸を……」と躊躇したが、オリビアさんは「刺繍と同じですから、良いと思います!」と。

 最終的に、領主家からの承諾を得て、私の要望も盛り込んだ臨時手芸教室が開催されることが決まったのだった。



 ◇



 翌日、商業ギルドの一室に現れたのは二人の貴族令嬢。リリアーナ殿下とステラ様だ。

 部屋で出迎えたのは、オリビアさんとフードですっぽりと顔を隠した私。

 そう、私は匿名手芸作家として正体を隠しているのだ。

 だから、ミケは部屋でお留守番をしている。


 お貴族様、特に王女殿下に対して不敬と言われるかもしれないが、これが臨時手芸教室を開催する条件だから、もしダメだったら私は協力できないと要望を述べておいた。


 ステラ様は「やりたいです!」と即決され、フランツ様の許可もすぐにもらえたそうだ。

 ただ、リリアーナ殿下のほうは従者内で難色を示す者もいたのだとか。

 いくら商業ギルドが身元を保証していても、正体不明の人物を王族へ接近させるのは、ちょっとどころかかなり問題がある。

 今日来るかどうかは、最後までわからなかった。

 

「ふ~ん、あなたが匿名手芸作家なのね……」


「お初にお目にかかります、王女殿下」


「本来であれば、王族を前にして顔を隠すなんて有り得ないことだけど、あなたの技術の高さに免じて今回だけは許してあげるわ」


「寛大な御心に感謝いたします」


 さすが、王家のお姫様って感じだね。

 でも、まだ十二歳の女の子だから、小学生だと思えば可愛いものだ。


「あの、匿名手芸作家さん、母やわたくしの髪留めを素敵に作ってくださってありがとうございました。母もわたくしも、毎日身に着けております」


「ステラ様、ありがとうございます。気に入ってくださったのであれば、制作者としてこんなに嬉しいことはございません」


 ああ、やっぱりステラ様は素直で可愛いね。

 癒されるよ。


 では、あまり時間もないことだし、始めますか。

 今日、二人に作ってもらうのは指編みのシュシュだ。

 これなら、初心者でも今日一日で完成させることができるからね。


 オリビアさんに用意してもらった高級毛糸六個をテーブルに出す。

 ヤギに似た魔物の毛で作られた毛糸と、ウサギに似た魔物の毛で作られた毛糸。

 どちらも、上流階級向けの衣料品や小物に使用されるものだ。


 とにかく手触りが良いヤギ毛糸は、白と黒と銀色。

 キラキラと光って見えるウサギ毛糸は、白と黒とこげ茶色がある。

 それぞれ好きな色を選んでもらい、さっそく編み始めてもらおう。

 両者の間に私が座り、左右の様子を見ながら自分も編んでいく。

 

 リリアーナ殿下もステラ様も、刺繍はしたことがあっても編み物は経験がないという。

 悪戦苦闘している主を、付き添ってきた従者たちがハラハラしながら見守っている。

 王家とナウリム家の侍女さんから「私も、編み方を覚えてもいいでしょうか?」と聞かれたので「構いませんよ」と伝えた。

 別に編み方は秘伝でも何でもないので、覚えて家で好きなように作ってほしい。

 

 それなりに心得のある方たちだったのか、私の編み方を見てすぐに理解し主へ助言をしている。

 うん、侍女の鏡だね。


「あなたが簡単に編んでいるから、わたくしにもできると思っていたけど、仕上がりが全然違うわ」

 

 リリアーナ殿下のシュシュは、全体的にギュッと縮まっている。

 これは、緩めではなくキチキチに編んでしまったからだろう。

 

「何度か練習をすれば、王女殿下もすぐに上達されますよ」


 すぐに飽きて投げ出すかな?と思っていたけど、リリアーナ殿下は意外にも真剣に取り組んでいた。

 ステラ様も頑張った。

 私の「緩く編みましょう」の言葉をきちんと守り、ふんわりとしたシュシュに仕上がっている。


「これは、他の糸で作ることもできるのですか?」


「できます。ただ、指編みですので太い糸をお勧めしておりますが」


「その……シルクの毛糸を製作し、それで作ることも可能ですか?」


「可能です。単色ではなく様々な色を組み合わせて毛糸を作れば、より華やかなシュシュになるでしょうね。ただ、かなり高額にはなるかと……」


 マルベリーシルク糸って、本当に高いからね。

 私の何気ない言葉に、オリビアさんがピクッと反応した。


「ステラ様、よろしければ商業ギルドで『マルベリーシルクの毛糸』と『マルベリーシルクのシュシュ』の試作品を作りまして、お屋敷へ持参いたしますが?」


「ぜひ、お願いします! 父へは、わたくしのほうから話を通しておきますので」


「かしこまりました」


 は、話が早い!

 これは、すぐにでも商品化されそうだ。

 値段は、一体いくらになるのだろうか。

 

「……ステラ、毛糸とシュシュが商品化されたらわたくしも買います。それくらいは、融通してくれるわよね?」


「もちろんでございます」


 リリアーナ殿下も、行動が早い!!

 お貴族様は、お子様方もすごい!!!

 まあ、事前予約くらいなら商業ギルドも許してくれるよね。


 こうして、臨時手芸教室は無事終わりを迎えたのだった。




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