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【第一部完結】レース編みは万能でした~女神の使徒? 私は飼い猫の異世界召喚に巻き込まれた、ただの飼い主ですよ?  作者: ざっきー
第五章 帝国へ女神様に会いに行くだけのはずが……

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第46話 王女、襲来


 手芸教室を初めてから、二か月が経った。

 アリスさんもロベルト君もレース編みの腕を上げ、今日ついに二人の作品が商業ギルドから販売されることになった。


 アリスさんは『レースリボン』と、自分でデザインから考えた『ラリエット』。

 そして、『ヘッドドレス』を制作した。


 ロベルト君は、エジング(縁編み)した『ハンカチ』とブレード(テープ状の紐・縁飾り)で装飾を施した『布鞄』。

 レース編みで制作した『付け襟』と『テーブルクロス』だ。


 二人がレース編みで制作した作品を商品化すると決まったときに、私はレース針の製作を工房へお願いすることを決めた。


 オリビアさんに工房を紹介してもらい、糸の太さによって針の使い分けができるように、私物と同じレース針のセットをお願いしたのだ。


 工房から納品された道具を確認する。

 持ち手は木でできており、一本一本に猫の肉球の焼き印が入っている。

 これは、私の手芸教室で学んだ生徒の証だ。


 商品販売のお祝いに、二人へレース針セットをプレゼントする。

 

「これから注文がたくさん入ってきますから、これで制作を頑張ってくださいね!」


「ありがとうございます。でも……売れるでしょうか?」


 アリスさんが不安げに言う。


「売れますよ! オリビアさんも完売すると断言されていましたし、もっと自信を持ってください」


「もし売れなかったら、師であるリサさんにも迷惑が……」


 ロベルト君まで、そんなことを言う。


「売れます! 大丈夫です!!」


 二人も制作者名を明かさず、商業ギルドは『匿名手芸作家の弟子』の作品として売り出すことになった。

 私としては『弟子』という言い方には抵抗があるけど、こっちの世界ではこれが普通とのこと。

 たしかに、聖女だった麻衣おばあちゃんにもお弟子さんがいたみたいだしね。


「作品の一部をマネキンに着せてギルドの一階に展示しているので、人目を引きますよ」


「あの『マネキン』という人形?に服を着せて展示するのは、良いですね」


「身に着けたときの感じが、すごくわかりやすいです!」


 この世界では馴染みのない『ラリエット』『ヘッドドレス』『付け襟』は、こういう風に使います! と説明を兼ねて提案をしている。

 ちなみに、マネキンに見立てている物の中身は、冒険者ギルドで使用している木人形だ。


 それに布を張りシンプルなワンピースを着せて、頭部のない首の部分には布に綿を詰めて頭を作り、ヘッドドレスを被せている。

 首元にはラリエットを巻いた。


 もう一体の方には襟のないワンピースに付け襟を着けて、肩から布鞄をかけている。


 オリビアさんによると注目度は抜群で、マネキン自体の問い合わせもあるのだとか。

 こちらも、いずれ商品化することになりそうとのことだった。



 ◇



 販売開始から半月、私の部屋にはアリスさんとロベルト君が来ていた。

 二人とも疲れた顔をしている。


「作品が売れるのは嬉しいですが、制作が追いつかなくて……」


「町を歩いていると、レースリボンをよく見かけますよ。小さい子が付けていると、可愛いらしくて良いですね」


 アリスさんの作品はリボンが一番人気なのだが、それだけでなく、ラリエットやヘッドドレスを身に着けている人をちょこちょこ見かけるようになってきた。


「僕は、上流階級のお客様が増えてきましたね。応接室のテーブルに敷く用にと、テーブルクロスはすぐに売り切れました。先日はマリー様とステラちゃんのハンカチを制作しましたが、シルクのハンカチにシルク糸でエジングするのは緊張しました。失敗はできないので……」


「ふふふ、こればかりは慣れるしかないですよね。ロベルト君はご親戚でもありますから、身バレしないよう気を遣いますしね」


「父に知られたら、『領主家の専属職人を目指しなさい』と絶対に言われますので」


 ロベルト君が『匿名手芸作家の弟子』と知っているのは、家族ではおばあ様だけだそうだ。

 両親や兄弟は、あくまでも趣味の延長で作品を売っていると思っているらしい。


「私にも、領主家から依頼が来ているのです。シルク糸で編んだレースリボンが欲しいと。父と母がびっくりしていました」


「マリー様は、ミケが着けていたレースリボンに興味津々でしたからね。おそらく、ステラ様からもラリエットとヘッドドレスの注文が入ると思いますよ?」


「た、大変です……」


「アリスさんもロベルト君も、気負わずいつも通りに制作をすれば大丈夫です!」


「はい!」


「頑張ります!」


「ニャー」


「ミケがおやつの時間だと言っているので、お菓子をいただきましょうか」


 私は事前に用意していたお茶菓子をテーブルに並べる。

 疲れたときは甘い物が一番だ。

 忘れずに宿へお願いしておいた紅茶が、ちょうど部屋に届いたのだった。



 ◇◇◇



 数日後、いつものように商業ギルドへ納品に行く。

 二階の個室でオリビアさんと少し世間話をしてから一階へ下りると、受付付近が何やら騒々しい。


「────だから、一本だけでいいのよ。レースリボンを買ったら帰るから」


「申し訳ございませんがレースリボンは人気商品でして、お渡しには時間がかかります」


「それが待てないと言っているのよ! あなたでは話にならないわ。ギルドマスターを呼びなさい!!」


「リリー様、無理を言ってはなりません。どうか諦めてください。これ以上は、お父上にもご迷惑が───」


「学園の休暇が終わったら、ステラがまた新作を身に着けてくるに決まっているわ! このわたくしに、また指をくわえて見ていろと言うの?」


 声を荒げているのは、若い二人の侍女と中年侍女を連れた濃紺髪の女の子だ。

 中年侍女が咎めているが、まったく聞く耳を持たない。


⦅わがままお嬢様が、暴走しているね……⦆


 ミケは、かなり呆れている。

 それにしても「ステラが」って、ナウリム家のステラ様のことかな?


 あの子も、同じ学園の貴族令嬢なのかもしれない。

 納品に関しては領主家でもきちんと順番を守っているのに、どこの誰なのだろう。

 また、面倒事にならないと良いけど……


 心配をしつつ商業ギルドを出ると、目の前の通り沿いに大きな馬車が停まっていた。

 家紋は付いていないけど、周囲には護衛らしき従者が数名控えている。

 うん、やっぱりお貴族様だね。


 触らぬ貴族に(たた)りなしで、関わり合いにならないのが一番だよ。

 前を通り過ぎお昼ご飯を買いに市場へ行こうとしたら、ミケが空を見上げ⦅宿に戻ろう⦆と言う。


「ミケちゃんは、ご飯を食べないの?」


⦅上空にレイがいる。ボクたちに用事があるみたいだね⦆


「レイ君がいるということは、ルオンさんもいるのかな?」


 ひと月前に王都へ帰ったばかりなのに、またヘンダームとはなかなか忙しい。

 急いで宿に戻り、部屋の窓を全開にする。

 すると、カラスのような黒い鳥が入ってきた。

 レイ君だ。


「レイ君、今日はどうしたの? ルオンさんは、一緒じゃないの?」


⦅ルオン イナイ。ハワードト テイコクニ イッテル⦆


 レイ君によると、ルオンさんとハワードさんは任務で帝国に向かっている途中なのだそう。

 レイ君も同行していたのだが、ルオンさんに言われてヘンダームへ戻って来たらしい。


 そういえば、ハワードさんが以前帝国に関して情報収集をしていたね。

 特殊部隊の極秘任務っぽいけど、私たちに行動が筒抜けで問題ないのかな?

 まあ、今更だけど。

 

⦅それで、リサに何の用なの?⦆


⦅セイジュウサマ ジツハ────⦆

 

 休暇中の王女殿下が直轄領の別荘を抜け出しヘンダームに向かっていると、王太子から緊急連絡があった。

 命令を受けたルオンさんがレイ君をヘンダームに戻し遠隔で行方を探していたところ、商業ギルド前に停められた王女の馬車とギルドから出てきた私を見つける。

 私に、商業ギルド内でのことを教えてほしいとのことだった。


⦅あの、わがままお嬢様が王女だったのか⦆


「えっと、ルオンさんにはどうやって伝えたらいいのかな? こっちの声は聞こえないでしょう?」

 

 ルオンさんから遠隔でレイ君に指示を出すことはできても、こちら側の声を聞くことはできないと言っていた。


⦅ルオン ミテル。 カミニ カイテ⦆


 なるほど! 私が紙に書いて、レイ君を通して読んでもらえばいいんだ。

 さっそく、ギルド内で目撃したことを箇条書きにする。

 どうやら、上手く伝わったようだ。


⦅ルオン アリガト。ハワード スマナイ。イッテル⦆


「ふふふ、どういたしまして」


 こちらの声は届かないから、代わりに見えるように手を振っておく。

 これからレイ君は、またルオンさんのところに戻るのだそう。

 ミケいわく⦅レイは高速で飛ぶことができるから、すぐに追いつけるよ⦆とのこと。

 

 レイ君におやつと水を与えてから、窓を開ける。

 元気いっぱいのレイ君は、あっという間に空へ消えていった。

 


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