第43話 食事会
和やかに食事会が始まったが……席次がおかしい!と声を大にして言いたい。
長方形のテーブルには八名(+ミケ)が座っているのだが、お誕生日席がフランツ様なのはわかる。
それを挟む形で左右に領主夫人のマリー様とルーク様が座るのもわかる。
なぜ、庶民の私がルーク様の隣に座っているのだろうか。
私の隣にミケ、ハワードさんと続く。
反対側は、マリー様の隣にルーク様の妹のステラ様、騎士団長のスベトラさん、奥様のネリンダさんとなっている。
身分から考えれば、私の席にスベトラさんのはず。
なぜ、私は領主一家に囲まれているのだろうか。
◇
私の隣でミケが⦅おいしい、おいしい⦆とパクパク食べている。
フランツ様はミケ用の食事も用意していた。
メニューは、ハワードさんにごちそうになった『鮮魚のムニエル』。
きっと、あのレストランに事前調査が入ったのだろう。
アルクさんに職務質問をされたときに、私たちが食事をしたことを話したからね。
私たちが何を食べたのか、すべて把握されているに違いない。
お貴族様、恐るべし。
「あの……タカナシさんの頭と首に着けられているそれですが、とても可愛いですね」
やや控えめに声をかけてきたのは、ステラ様だ。
赤みがかった金髪に薄紅色の瞳の、お人形さんのように可愛らしい女の子である。
年齢は十歳で、今年、王都にある王立学園に入学されたそう。
今は長期休暇で、領地へ戻られているのだとか。
「ありがとうございます。こちらは、私が自作したものなのです」
「まあ、自作なのですか! どちらかで購入されたものかと思いました」
「趣味で手芸を嗜んでおりまして……ホホホ」
やっぱり、女の子は可愛いものが好きだよね。
ステラ様なら、ヘッドドレスをしたらさらに可愛くなりそうだ。
「もしかして、そちらの従魔がしている首の飾り紐も、あなたのお手製なのかしら?」
今度はステラ様の隣から質問が飛んできた。
マリー様は目の覚めるような赤毛に琥珀色の瞳を持つ、とても二児の母とは思えないほど若々しい女性だ。
「はい、そうです」
「ぜひ、間近で拝見したいのだけれど……」
「マリー、今は食事中だよ。気になるのはわかるが、後にしなさい」
「……申し訳ありませんでした」
フランツ様に注意されるほど、マリー様の食いつきがすごい。
瞳がギラギラと輝いている。
ミケに着せるために急いで作ったレースリボンだけど、これも商品化したら売れそうな雰囲気をひしひしと感じる。
「タカナシ殿、大変申し訳なかったね。マリーもステラも、美しいものや可愛いものには目が無くて」
「いえ、とんでもございません」
「私が入学祝いに髪留めを贈ったときも、大喜びしていたからな……」
ルーク様が苦笑している。
「そうでしたか」
兄妹の微笑ましいエピソードにほっこりしたところで、あれ?と思う。
『十歳の女の子用の髪留めで、学園の入学祝い』
どこかで聞いたことのある話だと。
⦅リサは、ようやく気づいたの? 夫人と娘がしている髪留めは、リサの作品だよ⦆
えっ!?
あまり顔をじろじろ見ては失礼だと目線を上げないようにしていたから、まったく気づかなかった。
⦅ついでに、もうひとつ言うと、商業祭のときに教会で会った女性は、そこにいる騎士団長夫人だったみたいだね⦆
ドイリーを手渡した責任者の人が、スベトラさんの奥様だったんだ!
たしかに、騎士団の奥様や娘さんたちがお手伝いをしていたから、責任者が騎士団長夫人なのは当然か。
私がさりげなく視線を送り髪留めを確認していると、ミケの隣で肩を震わせている人がいる。ハワードさんだ。
今の今まで気づいていなかった鈍感な私を笑っているのだろう。
さっきまで、自分はずっと気配を消して目立たないようにしていたくせに……!
「それにしても、タカナシさんのお手製を贈られる方が本当に羨ましいですわ……ねえ、ハイド殿?」
マリー様の問いかけに不意を突かれたハワードさんが、激しく噎せている。
ハワードさん、私を笑った罰が当たったのですよ……
◇
宿に帰る馬車の中で、ミケはすでに夢の中だ。
デザートまで綺麗に食べつくして、満足そうな顔をしている。
「ハワードさん、今日は本当にありがとうございました」
午前中に宿を出たのに、今はすっかり日が暮れている。
結局、一日付き合わせてしまった。
「俺はただ付き添っていただけだが、君は大変だったな?」
「ふふふ、そうですね……」
食事の後、場所を変えて食後のお茶をいただいたのだが、女性陣から取り囲まれていろいろと聞かれた。
マリー様からは、「(リボンを)商品化する気はないか?」と再三尋ねられ、
ステラ様は、ヘッドドレスとラリエットに興味津々。
私ではなく、フランツ様におねだりをしていた。
ネリンダさんはからは「新しいドイリーがあったらぜひ購入したい」とこっそり言われたのだ。
「君が『匿名手芸作家』であることは、知られなかったようだな?」
「あの状況で知られていたら、どうなっていたのでしょうね……」
「きっと、商業ギルドを通して、強い要望が上がってきただろうな」
「ハハハ……」
領主夫人から詰め寄られるハリーさんとオリビアさんの姿が想像できた。
「でも、ネリンダさんは私が匿名手芸作家だと気づいていると思います」
彼女は、私がシュシュを作っていることを知っているからね。
「知っていて、黙っていてくれるのか……君は、周りの人に恵まれたな」
「そうかもしれません」
馬車が宿に到着した。
ハワードさんにエスコートされ降りると、宿の前にルオンさんが立っていた。
すごく思い詰めたような顔をしている。
レイ君も同様だ。
私たちの留守中に、何かあったのだろうか。
気になったので、私の部屋で話を聞くことにした。
ハワードさんは椅子に、ミケを膝にのせた私はベッドへ腰掛けるが、ルオンさんは立ったままだ。
「どうした? 不測の事態でも起こったのか?」
「……副隊長」
「うん?」
「大変申し訳ありませんでしたー!」
ルオンさんが、いきなりその場に平伏し、レイ君も隣に並んだ。
この世界にも土下座文化があるんだなと、私はどうでもいいことをぼんやりと思った。
◇
結論から言うと、不測の事態は何も起きていなかった。
それなのに、ルオンさんが土下座をした理由。
それは───
「副隊長の指示に従い、俺は町へ買い出しに行っていました。一度宿へ戻り昼食を食べ、小休憩を取ったのですが……」
「……少し休憩を取るつもりが、いつの間にか寝てしまい、気づいたら日が暮れていたというわけか」
「ですので、旅支度はほとんどできておらず……明日の出発は非常に厳しい状況です」
───ついうっかり昼寝をしてしまい、起きたのがさっきだったというわけでした!
「とりあえず、おまえは椅子に座れ。話がしづらい」
「……はい」
ルオンさんは神妙な顔で椅子に座り、レイ君もテーブルの上へ移動した。
レイ君まで反省をしているのは、自分も一緒に寝てしまったからだそうだ。
「済んでしまったことは仕方ない。大事なのは、同じ過ちを二度と繰り返さないことだ」
ハワードさんは、なかなか良いことを言っている。
頭ごなしに叱るのではなく、優しく諭す。
これが、理想の上官の姿なのだろう。
私は部外者なので黙って様子を眺めていたら、ミケが「ニャー」と鳴いた。
そうだね、ミケちゃん。
私もそうしようと思っていたよ。
「えっと、お話し中にすいません。旅支度はしなくても大丈夫ですよ? 明日、私が王都まで送りますから」
「送るって……さすがに、君に面倒をかけるわけにはいかない」
「でも、ハワードさんたちの予定を変更させてしまったのは私ですから。それに、ビューンと行って、ビューンと帰ってくるだけですからね。大した時間はかかりません!」
(ヘリコプターモードの高速バージョンだから)二時間くらいで王都に到着すると伝えたら、ハワードさんは顔を引きつらせ、飛行魔法を知らないルオンさんはポカンとしていたのだった。




