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【第一部完結】レース編みは万能でした~女神の使徒? 私は飼い猫の異世界召喚に巻き込まれた、ただの飼い主ですよ?  作者: ざっきー
第四章 謎の男に勧誘されています

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第42話 褒賞授与


 ナウリム家からの迎えの馬車が、宿の前に到着した。

 御者が扉を開ける。


 ハワードは緊張した様子のリサへ手を差し出すが、リサはその手をじっと見つめたまま動かない。


「どうした? 乗らないのか?」


「あっ、すみません。これが、ラノベでよく登場するエスコートかと観察してしまいました」


「?」


 ラノベとは、なんだ?

 ハワードは首をかしげたが、リサとミケに続いて乗り込む。

 馬車はすぐに動き出した。


「幌馬車と同じように、普通の馬車もゆっくり進むのですね。これは、移動に時間がかかるわけだ……」


「早く走らせると、馬がすぐに疲れてしまうからな」


「そうか、生き物ですもんね」


 あの飛行魔法の速度に慣れていれば、遅く感じるのも無理はない、とハワードは思う。

 それにしても、馬車に一度も乗ったことがないとは。

 ハワードは、リサが幼い頃から飛行魔法を行使していたという事実に驚愕する。


「君が帝国でどんな暮らしをしていたのか、聞いてもいいだろうか?」


「えっと……田舎でずっと祖母と二人暮らしをしていました」


「手芸は、祖母に教えてもらったのか?」


「そうですね」


「その首に掛けている飾り紐も、袖口のも、あと頭のヘッド…も、素晴らしい出来だ」


「ありがとうございます。ヘッドドレスは時間が足りなくて、髪で隠れた部分は紐でごまかしていますけど」


 リサは苦笑した。


 今日のリサは、領主邸を訪問するに相応しい恰好をしている。

 町で買った濃紺のワンピースに、自作の飾りつけを施したらしい。


 首元は金属製の装身具の代わりに、飾り紐を巻いている。

 花も葉も白一色の物だが、とてもおしゃれで可愛らしい。

 裾や袖口も装飾されており、ドレスにも負けない華やかさがある。


 そして、ハワードの目を一番引いたのが、リサが頭に付けているヘッドドレスだった。

 普段は髪を後ろに一つで縛っているリサが、今日は下ろしている。

 それだけで、十分大人っぽく見えた。

 

 リサだけでなく、従魔のミケもおめかしをしている。

 首にはリサが編んだ濃紺のレースリボンが結ばれているのだ。

 それはミケだけでなく、ハワードの髪にも色違いのダークグレーのものが着いていた。


「この髪紐は、俺がもらってしまって、いいのだろうか?」


「はい。ミケは普段は付けませんからね。使ってもらえたら、嬉しいです」


 リサはミケ用に二種類(授与式用・食事会用)用意したのだが、ダークグレーのほうは地味だからと拒否されたらしい。

 リサから「せっかく作ったので、ハワードさんが着けてください」と渡されたものだった。


 リサの膝の上にいるミケが「ニャー」と鳴き、リサが「ふふふ……」と笑う。


「ミケが、⦅こっちのも、良かったらあげるよ。ちょうど、両方とも地毛の紫に合うでしょう?⦆だそうです」


「ハハハ……では、従魔の了承を得たし遠慮なくいただこう」


「ミケのお下がりで、すみません」


 リサは微笑むと、アイテムボックスから道具を取り出して編み物を始めた。

 移動時間にも制作をしなければならないほど、相変わらず注文は殺到している。

 それでも、編み物をしているリサはとても楽しそうだ。

 

 どんなに忙しくても、その場しのぎの適当ではなく一品一品を丁寧に作っているのは、見ていてわかる。

 だからこそ、私利私欲のために作品を利用しようとする貴族に対しては厳しい目を向ける。


 ハワードは自分が貴族家の出自だと告げるときに一瞬躊躇したが、リサから嫌悪を感じられるようなことはなく安堵した。

 どうやら、貴族全般が嫌いなわけではないようだ。

 

 ハワードは、そっと髪紐に触れる。

 リサは知らなかったが、この世界で女性が家族や親戚以外の男性へ手作り品の贈り物をするのには意味があった。


 それは、『愛情の証』。


 女性貴族は意中の相手に刺繍したハンカチを贈り、男性が受け取れば好意を受けたと認識される。

 学園時代、ハワードも女生徒から贈られたことが何度かあったが、一つも受け取ることはなかった。


(彼女がくれたこの髪紐に深い意味はないし、俺が「もらっていいか?」とわざわざ尋ねたことにも深い意味はない……)


 余っていてもったいないから、たまたま近くにいた自分がもらった。

 気に入ったから、念のため確認をした。

 ただ、それだけなのだ。


 二人と一匹を乗せた馬車は、町中をゆっくりと進んでいく。



 ◆◆◆



 領主様のお屋敷は、頑丈そうな城壁に囲まれた城というよりも要塞のような建物だった。

 私が不思議に思っていると、ハワードさんが教えてくれた。

 この地は対帝国を想定したサイエル王国の北方警備の要だから、屋敷も籠城戦を想定して作ってあるのだとか。


 他にも、この世界には魔物の脅威もある。

 備えあれば憂いなしということなのだろう。



 ◇



 私たちを出迎えてくれたのは、なんとルーク様だった。


「リサ、今日はよく来てくれた」


「本日はお招きいただき、ありがとうございます」


「ハハハ、そんなに緊張しなくとも大丈夫だぞ。父上は大らかな人だから、礼儀作法にもうるさくない。安心せよ」


「わかりました」


 ルーク様はそう言うけど、貴族を前に粗相は許されないだろう。

 向こうの世界で学んだ礼儀作法を総動員して、乗り切りたいと思う。


「そちらは、リサと同業の冒険者だと聞いている」


「初めまして。Cランク冒険者のハイドと申します」


「リサの知り合いということは、其方もさぞかし強いのであろうな」


「いえいえ、私などタカナシさんの足元にも及びません」


 ハワードさんが、あの笑顔になっている。

 面倒事に巻き込んで、本当にごめんなさい!と心の中で土下座しておく。



 ルーク様に案内されたのは、小広間のような部屋だった。

 私は部屋の真ん中に立ち、足下にはミケが座っている。

 ハワードさんは、壁側の隅に控えていた。


 扉が開き、執事さんと一緒に男性が入ってくる。

 茶色がかった金髪に赤褐色の瞳の、三十代半ばの中肉中背の男性だ。

 顔はルーク様によく似ている。

 彼が、ご領主様なのだろう。


 ラノベの影響で、辺境伯と聞くと筋肉モリモリの人を想像していた私はちょっと意外に感じた。


「今日は、呼びつけてすまない。私が、領主のフランツ・ナウリムだ」

 

「初めまして、リサ・タカナシと申します。本日はお招きいただき、ありがとうございます」


「我が家へようこそ、タカナシ殿。貴女と会えるのを、非常に楽しみにしていたよ」


 フランツ様は、ニコッと笑った。


 その後、褒章の授与は問題なく終了し、私はひとまず肩の力を抜く。

 それにしても、頂いた褒賞が白金貨二枚(約二百万)だったのにはびっくりした。


 フランツ様から手渡されたのは、見事な木彫りの装飾が施された平たい長方形の箱だった。

 中を開けて見せられたのは、綺麗に並んだ二枚の白金貨だったのだ。

 思わず「ひぇ~」と変な声が出た。



 ◇



 食事の準備が整うまで、応接室で少し休憩をしている。

 私は、出された紅茶を冷めないうちに一口飲む。

 大変香りが良くて、とても美味しいです。


「噂には聞いていたが、ナウリム家の当主は清廉潔白だな。君を取り込もうとする気配がまったくない」


 周囲に防音魔法をかけたハワードさんも、紅茶を飲んでいる。

 ミケにはお水を出してあげた。


「でも、褒賞金を頂きましたよ?」


「あれは、あくまでこれまでの君の働きに対しての褒賞だ。もしそのつもりなら、さらに金を積んでいたか、何かしらの行動を起こしていたと思う」


「ふふふ、それって誰かさんがミケを懐柔するような感じで、ですか?」


「……ハハハ」


 ハワードさんは、強引な勧誘を警戒していたと言う。

 自領のために優秀な人材を取り込もうとするのは、貴族なら誰でもやること。

 しかし、フランツ様にはその気がないと断言した。


「商業ギルドとも良好な関係を築いているようだし、領主の見本とも言うべき人物だな。貴族の権威をやたらと振りかざさないから、下の者が割合自由に活動ができる。君も上から逐一行動を命令されたら、やりにくいだろう?」


「たしかに、そうですね。ある程度は許せますけど、あまりひどいと他所へ移動したくなりますね」


 ルーク様から「空を飛びたい」と言われるくらいは、可愛いものだ。


「『匿名手芸作家』など、他所の領であれば強引に領主のお抱え職人にされていてもおかしくはない」


 フランツ様があの公爵家のような貴族だったら、きっとそうなっていただろう。

 まあ、そのときは他領へ逃げていたけどね。


「だから、君が自由に制作するには、王都よりこの領にいるのが最善なのだろうな……」


 まるで自分に言い聞かせるように、ハワードさんは呟いた。



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