第41話 同伴者
ミケと目が合うと、呆れた顔をしている。
仕方ないなあ…と言いながら動いた。
⦅レイ、正直に答えてね。彼らは、女神の使徒についてどこまで知っているの?⦆
ミケがレイ君に探りを入れてくれる。
その間、私は団子をもぐもぐしながら沈黙を貫く。
レイ君によると、女神の使徒が召喚魔法で現れたことは知っていても、容姿については知らないらしい。
それはホッとした。
⦅モシカシテ セイジュウサマタチガ メガミノシト……⦆
⦅レイ、わかっていると思うけど、もちろん他言無用だよ?⦆
⦅ハイ!⦆
ミケとレイ君が何らかのやり取りをしているのは、ハワードさんたちもわかっている。
さて、どうやってごまかそうかな。
⦅リサ、ある程度情報を出さないと、ルオンはともかくハワードは絶対に納得しないと思うよ? だからね────⦆
ふむふむ、なるほど。
ミケちゃん、大変お世話をかけました。
あとは、私が頑張ります!
「どうか、話してもらえないだろうか?」
「……これは、私が王都の冒険者ギルドで偶然会った知り合いから伝え聞いた話です。だから、情報の真偽は不明ですよ?」
「それでも、構わない」
「女神の使徒が魔法陣を燃やしたのは、帝国が女神様との契約を破ったからだと。あと、神託で『神罰は下らない』と言われたそうです」
「『帝国が契約を破った』と『神罰は下らない』……か」
「副隊長、どっちもまだこちらには届いていない情報ですよ!」
二人が真剣に話し合いを始めた。
ふう……どうやら、何とかごまかせたようだ。
「王都へ戻りましょう! 殿下へ報告をすべきです」
「……わかった。明日準備を整えて、明後日出発しよう」
飛行魔法がある私たちと違って、他の人は移動に時間がかかるからね。
ヘンダームから王都までは馬車で一週間ほどかかるから、事前準備は絶対に必要なのだ。
⦅リサ、ハワードにお願いしなくていいの?⦆
だって、準備で忙しそうだよ?
⦅ルークで、いいの?⦆
うっ、それは……
チラッとハワードさんへ視線を送ると、彼がこちらを見ていた。
「もしや……俺が無理やり情報を聞き出したことで、君に迷惑がかかるのか?」
「えっ?」
「君が困った顔をしているから、気になって……」
「困っているのは、その件ではなくて別件です。ハワードさんにお願いしたいことがあったのですが、お忙しそうなので」
「君からのお願いなんて、珍しいな。俺ができることであれば、協力するぞ」
一応、ダメもとで聞いてみようかな。
「実は、明日領主邸に招待されていまして、そのエスコートをお願いしたかったのです」
「明日? 領主邸に招待?」
急な話で、本当にごめんなさい。
領内でのこれまでの働きに褒賞が出て、さらに、領主一家と騎士団長夫妻が出席する食事会まであるとの話に、ハワードさんが困惑している。
「ハワードさんが騎士団との接触をなるべく避けているのは知っていたので、言い出しにくかったのです。でも、気にしないでください。誰もいなければ、ルーク様がエスコートしてくださるそうですから」
「ルーク様というと、ナウリム家の嫡男だな」
「次期辺境伯様か。でも、堂々と領主邸の中に入れるのはいいですね! 情報を入手しておくのはアリだから、副隊長の代わりに俺が行こうかな……」
たしかに、ルオンさんなら同じ魔法使い仲間だと紹介ができる。
公爵家の件に関わっていないから、騎士団とも面識はないし。
でも……
「もし、知り得た情報を悪用するつもりなら、私が後で成敗しますからね」
「おまえ、そんな怖い顔をするな! ナウリム家が悪いことをしなければ、何もしない!!」
「本当ですね?」
「俺たちを、悪の手先か何かだと思っているだろう? 国や王家に害を及ぼさない限り、俺たちが動くことはないぞ」
「……わかりました。レイ君が⦅ルオン ワルイコト シテナイ!⦆と言うので、それを信じましょう」
「よ、良かった! てか、レイは俺のことを『ルオン』って呼び捨てにしているのか?」
「そうですよ」
ルオンさんはレイ君へ「これからは、ご主人様と呼べ!」と言っているけど、たぶん聞いていないね。
「それで、エスコートの件だが安心しろ。こう見えて俺は男爵家の三男だから、貴族として最低限の礼儀作法は身に着けている」
「確認ですが、ルオンさんって何歳ですか?」
「十九だ」
「では、私の一つ下ですね。了解です」
同伴者の情報はある程度把握していないと、本当に知り合いなのか怪しまれるかもしれないからね。
「おまえ、成人していたのか!? てっきり、十六,七くらいだと思っていた」
「私って、そんなに年下に見えますか?」
「ああ、小柄だから余計にな」
まあ、見えないのは仕方ないか。
ラノベでも、転移者が若く見られるのはよくあるし……
ともかく、同伴者が無事確保できホッと胸を撫で下ろした私だったが、翌朝部屋にやってきた人を見て驚くことになる。
そこにいたのは、ルオンさんじゃなくて正装したハワードさんだった。
◇
「えっと……なぜ、ハワードさんが?」
偽の身分で目立ちたくないって、言ってたよね?
「はっきり言うと、ルオンでは荷が重い。領主の前で本当の身分がバレたら、君にも迷惑がかかるからな。だから、話し合いの結果俺が行くことになった。それに、騎士団には君と一緒にいるところをすでに見られているしな」
そういえば、食事をごちそうになった帰りに、アルクさんたちに職務質問をされたっけ。
「わかりました。では、よろしくお願いします」
「まずは、お互いの情報のすり合わせをしておこう。君は没落した元貴族の末裔で、年は二十歳。帝国出身というのは、公になっているのか?」
「騎士団では、皆さん知っています」
だから、領主様もご存じだろう。
「騎士団も知っていて、帝国の間者だとよく疑われなかったな?」
「最初に疑われましたよ。今は誤解も解けています」
「そうか。では、匿名手芸作家のほうは、どうなんだ?」
「それは、内緒でお願いします」
「了解した。今度は俺の番だな。俺もルオンと同じで……貴族の次男だから、礼儀作法は問題ない。歳は二十五だ」
「えっ、ハワードさんってそんな若かったのですか? てっきり、三十手前くらいだと……」
「……歳より老けているとは、よく言われるぞ」
あっ、ハワードさんがちょっと落ち込んじゃった。
「ふ、普段から、言動が落ち着いているからですよ!」
必死に言い訳を述べる。
これって、フォローになっているかな?
「それで、今日のハワードさんは『Cランク冒険者のハイドさん』なんですよね? 私とは、この宿で知り合ったことになっている」
「その通りだ。だから、俺を『ハワード』と呼ばないよう注意してほしい。君も、ルオンに似て危なっかしいところがあるからな」
「気を付けます」
さっき失言をしちゃったから、本当に気を付けなければ。
心配なのはハワードさんよりも私のほうだね。
ハワードさんの言葉に、ミケが⦅うん、うん⦆と大きく頷いていた。




