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【第一部完結】レース編みは万能でした~女神の使徒? 私は飼い猫の異世界召喚に巻き込まれた、ただの飼い主ですよ?  作者: ざっきー
第四章 謎の男に勧誘されています

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第39話 副隊長と、愉快な部下?


 手芸教室は、基本的に数日に一回程度の開催で、それ以外の日は部屋で制作に励んでいる。


⦅ねえ、リサ。今日あたり、また来るかな?⦆


「ふふふ、どうだろうね?」


 おやつの時間が近づくと、ミケがソワソワし始める。

 最近のお馴染みの光景だ。


⦅あっ、来た!⦆


 ミケの耳がピンと伸び、扉がノックされる。

 やって来たのは、ハワードさんだ。


「今日は、新作のお菓子を持ってきた」


「いつも、ありがとうございます。ミケが、来るのを楽しみにしていました」


「それは、光栄だな」


⦅楽しみにしているのはお菓子であって、ハワードじゃないよ!⦆


 素直じゃないミケに、思わず吹き出してしまう。

 ミケはプイと横を向いたが、箱から小ぶりなカップケーキがたくさん出てくると、もう目が釘付けになっている。


「君の従魔は、なかなか手強(てごわ)いな……」


「ハワードさんは、ミケが何て言ったのかわかったのですか?」


「君の反応で、何となく。『楽しみにしているのは、お菓子のほうだ』とか言ったのだろう?」


「正解です」


 ハワードさんは、二,三日置きにお菓子を差し入れに来る。

 これは、本人が言っていた懐柔作戦の一つだ。

 ミケは否定しているけど、完全に彼の思惑通りになっていると思うのは気のせいだろうか。


 ミケが早く食べたがるので、机の上をさっと片づけてハワードさんに席を勧めた。

 私の膝の上で、ミケはすでに一つ目を食べ終わっている。

  

「君が、手芸教室を始めたと聞いた」


「さすが、情報が早いですね」


 私が手芸教室を始めたことは、(おおやけ)にはされていない。

 希望者が殺到するからと、オリビアさんが言っていた。


「生徒の一人は……例の被害者なのだろう?」


「気になりますか?」


「任務だったとはいえ、俺も加害者側だったからな、気にならないと言えば嘘になる」


「でも、あなたなりに被害者たちを守ろうとしていたのですよね?」


 地下牢の見張り役には女性が配置されていたし、拉致の実行役も自らが行っていた。

 主から、私を殺せ!と命令されたときも反対をしていた。

 もし、あの役目が別の男だったとしたら、被害者たちはどうなっていたのか……考えたくもない。


「…………」


「そういえば、ハワードさんはずっとヘンダームにいて、お仕事は大丈夫なんですか?」


 何となく彼が辛そうに見えたので、話題を変えた。


「そろそろ戻ってこい、と言われる頃だろうな」


「副隊長さんですもんね。上に立つ方は大変だ……」


 私は、自由気ままな『おひとりさま(+ミケ)』で良かった。


 では、私もカップケーキをいただきます。

 パクリと一口。うん、結構甘い。

 宿に紅茶を注文すれば良かった。


「……次は、宿に紅茶を頼んでおくよ」


「な、何で私の考えていることがわかったのですか?」


 もしかして、口に出ていた?


「案外、君たちは分かりやすいのだ。顔や雰囲気に出るからな」


「・・・・・」


 ミケちゃん、これからはお互い気をつけようね。



 ◆◆◆



 リサの部屋を出たハワードは、自分の部屋には戻らず外に出た。

 大通りを外れ人気のない裏通りに入ったところで、頭からローブを被った人物が近づいてきた。


「長期休暇を取って辺境地で何をしているのかと思ったら、女の子と仲良くお茶ですか……我らが副隊長殿は」


「覗き見とは、あまり良い趣味とは言えないな、ルオン」


「ハハハ……俺が見ていることは、わかっていたでしょう?」


 ルオンが腕を出すと、空から黒い鳥が舞い降りてきた。

 これはルオンの従魔である魔鳥のレイだ。

 レイはカラスほどの大きさの魔物で、ハヤブサのように高速で飛ぶことができる。


 ルオンは、レイの目を通して監視できる能力を持っていた。

 ただし、音を拾うことはできない。


「こんな所まで、何をしにきた?」


「殿下に頼まれたんですよ。副隊長が全然帰ってこないから、連れ戻してきてくれって。あと、ついでにナウリム領を偵察です」


「俺は、まだ戻れない」


「あの()が、副隊長が直々に勧誘しにきた隊員候補ですか……。随分とご執心のようですが、たかだかBランクの冒険者なんですよね? 従魔も、ただの白猫だし」


「見た目で判断すると、痛い目を見るぞ」


「フフッ、痛い目なんか見ませんよ」


「少なくとも、おまえたちよりは彼らのほうが遥かに強い。俺は勝てなかった」


「ご冗談でしょう?」


「俺が冗談を言ったことがあるか?」

 

「……ないですね」


「事実だからな」


 ルオンの姿が、フッと消えた。

 ハワードは、大きなため息を吐く。


「簀巻きにされないと、良いが……」


 裏通りの路地に、ハワードのつぶやきだけが残された。



 ◆◆◆



 ハワードさんからもらったカップケーキを、ミケと美味しく頂いた。

 私はもうお腹いっぱいだから夕食はいらないと思ったが、ミケが『おやつは別腹だよ』と言うので、腹ごなしの散歩を兼ねて夕食を買いに出た。


 何を買おうかと市場をぶらぶら歩いていたら、ミケが⦅誰かが、ボクたちの後をつけている⦆と言う。


「ハワードさん、じゃないよね?」


 彼が私たちを尾行する必要は、もうないもんね。


⦅たぶん、魔法使いだよ。従魔が空を飛んでいるから⦆


「空?」


⦅ほら、あそこを飛んでいるね⦆


「う~ん、鳥がたくさんいて、どれかわからない……」


⦅「お~い」って、手を振ってみなよ。反応があるかもしれないよ⦆


 じゃあ、やってみようかな。

 お~い、どちら様ですか~?

 あっ! 一羽がビクッとした。

 あれ? そのまま、どこかへ行っちゃったよ……


⦅……用事があるなら、また向こうから来るんじゃない?⦆


「そうだね」


 さて、夕ごはんを買って帰りますか。



 ◇◇◇



 夕食後少しまったりとしたあと、私は制作の続きを、ミケはベッドでお昼寝ならぬ夕寝をしていたら、扉がノックされた。


 出ると、ハワードさんとローブを着た緑髪の若い男性がいた。


「こんな時間にすまない。ちょっと、お願いしたいことがあるのだが……」


「わかりました。どうぞ、中へ入ってください」

 

 王都で泊まっていた宿と違いこの部屋に応接室はないから、椅子が二脚しかない。

 二人に椅子を勧め、私はベッドに腰掛け話を聞くことにする。

 寝ていたミケはわざわざ起きてきて、私の膝の上に移動した。


「彼は、俺の部下でルオンという。実は、従魔が行方不明になってしまって、君に探索をお願いしたいのだ」


 いなくなったのは、魔鳥のレイ君。

 大事な従魔がいなくなって、ルオンさんはしょんぼりしている。

 聞けば、卵から孵化させて大切に育ててきた大事な家族だという。


「それは、心配ですね」


 もしミケが行方不明になったら、私だって居ても立っても居られない。


「レイ君のにおいの付いたものは、何かお持ちですか?」


「羽根でも、いいのか?」


「大丈夫ですよ」


 さっそく魔法を行使しようとしたら、ミケがむくっと起き上がった。


⦅あの従魔なら、ボクを見て逃げていったよ。ボクが聖獣だと気づいたみたいでね⦆


「あっ……」


 私たちを尾行していたのが、ルオンさんとレイ君だったわけね。


「うん? どうした?」


 ハワードさんが怪訝な顔をしている。

 どうしよう。なんて説明すればいいのだろう。


「えっと……夕方ごろ、ルオンさんとレイ君は私たちを尾行していましたよね?」


「な、なんの話だ?」


 ルオンさんはとぼけたけど、そのまま話を進めますよ。


「それで、ミケを見てレイ君が逃げだしたみたいです」


「レイが、おまえの従魔に負けたというのか?」


「まあ、結果的にはそうなりますね」


 厳密に言えば、勝負もしていないけどね。


「猫を見てレイが逃げるなんて、あり得ない!」


 ミケの見た目はただの白猫だけど聖獣だからね、人が女神様を恐れるのと同じ感覚なのかもしれない。


⦅まったく、世話の焼ける従魔だね……⦆


 ミケが私の膝から下り、窓の縁に飛び乗る。

 窓を開けてあげたら顔を出し、「ニャー!⦅レイ、早く戻ってきてよ!⦆」と鳴いた。

 音は低いけど、遠くまで響き渡るような声だ。


⦅もう少ししたら、ここに来るよ。じゃあ、おやすみ⦆


 スタスタとミケはベッドへ戻り、丸くなってしまった。


「あの……少々お待ちください。レイ君がここに来るそうなので」


「「……えっ?」」


「従魔同士で、会話ができるみたいです。ミケが『レイ、早く戻ってきてよ!』って、呼びかけていました」


 これは上手くごまかすこともできず、私は正直に打ち明けた。


「アハハ! 本当に、君たちは規格外だな……」


「従魔同士で会話ができるって、どうしてわかるんだ? てか、従魔の話していることを、おまえはすべて理解できるのか?」


「えっと……そう…ですね。なんとなく……ですが」


 ルオンさんもレイ君と意思の疎通はできるようだが、すべてではないようだ。


「彼女と従魔の意思の疎通は、完璧だぞ。だから、偵察をさせたら右に出る者はいないだろうな」


「で、でも、副隊長、レイはまだ戻っていません! コイツが、従魔と完璧に意思の疎───」


 その時、窓から飛び込んできたのは黒い鳥…レイ君だった。

 真っすぐルオンさんのもとに向かう。


「おまえ、今までどこに行っていたんだ! 心配させやがって……」


⦅セイジュウサマ オコル。ルオン カテナイ。ハヤク カエロウ!⦆


「わかった、わかった。帰ろうな」


 レイ君の言葉が、本当に何となくでも伝わっているっぽい。

 それにしても、なぜ私まで言葉がわかるのだろうか。


⦅アシ イタイ。チョット キレタ⦆


「うん? どこか、痛いのか?」


 ルオンさんは翼を調べているけど、そこじゃないですよ。


「……脚が、ちょっと切れたそうです」


「おまえに、レイと意思の疎通ができるわけ…あっ、本当だ」


 ルオンさんが脚に手を当てると、柔らかい光が包み込む。


⦅ナオッタ。ルオン アリガト⦆


「おまえ、これからは気を付けろよ?」


⦅ウン⦆


 レイ君が懐いているところを見ると、ルオンさんもそう悪い人ではなさそうだ。

 主従のやり取りが微笑ましくてニコニコしながら眺めていたら、ミケがやって来た。

 レイ君の背筋が、一瞬にしてピンと伸びたような気がする。


⦅一応、言っておくよ。リサに余計なちょっかいを出さなければ、ボクからどうこうするつもりはないからね?⦆


⦅ワ、ワカリマシタ⦆


 人で例えるなら、レイ君は直立不動の姿勢だっただろうね。

 カチンコチンになったレイ君から、ミケが離れていった。


「いま一匹と一羽の間で、どんなやり取りがあったんだ? 君なら、わかるのだろう?」


「副隊長、その前に本当にコイツが理解しているのか、一度試してもいいですか? レイ、何でもいいから、俺のことをこの女へ話してみろ。さっきのは、まぐれだと証明してやる」


⦅ワカッタ。ルオンハ────⦆


 レイ君が一生懸命話してくれたけど……う~ん、コレは他言無用の内容じゃないかな。


「さあ、答えてみろ」


「……上官のハワードさんの前で、良いのですか?」


「構わないぞ」


⦅本人が良いって言ってるんだから、リサが気にする必要はないんじゃない?》


 ミケもそう言うなら、遠慮なく。


「ルオンさんは、上官に叱られたときは決まってある店に行きます」


「!?」


「その店は、王都にある飲み屋さんで、お気に入りの女性…サミーさんに愚痴を言って───」


「うわあ! もういい、止めろ!!」


 ルオンさんの顔は真っ赤だ。

 レイ君に「おまえ、余計な話をするな!」と怒っているけど、レイ君は素知らぬ顔をしている。

 だって、「何でもいいから、俺のことを話してみろ」って言われたから、レイ君は話しただけだもんね。


「……ルオン、納得したか? これは、彼らの実力のほんの一部に過ぎない。おまえでは勝てないと理解しろ」


「……はい」


 ルオンさんが、またしょんぼりしちゃった。

 レイ君、ご主人様を慰めてあげてね。


「俺の部下がすまなかった。それで、どんなやり取りがあった?」


「レイがかなり緊張していたから、何があったのか俺も気になる……」


「えっと、簡単に言ってしまうと、『余計なちょっかいを出してきたら、簀巻きにするぞ!』ってことです」


 話を聞いたハワードさんの顔は強張(こわば)り、ルオンさんは「簀巻き?」と首をかしげている。


「ルオン、上官として忠告する。これは単なる脅しではないから、くれぐれも肝に銘じるように! あと、簀巻きにされても、俺は助けてやらんぞ」


「そんな……部下の窮地を救うのが、上官の務めじゃないですか!」


「この場合は、自業自得だ! 俺は簀巻きにされたくない!!」


 急に、言い争いが始まってしまった。


 まあまあ、二人とも少し落ち着いてください。

 そんな戦々恐々としなくても、悪い人でなければ簀巻きにはしませんよ?




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