第31話 騒動のその後と、深夜の大絶叫
アトリエ・ヴェールの作品は、無事受領された。
職人街へ戻ると、皆が大歓声で父子を迎えたのだった。
◇◇◇
第八隊の捜査によって、これまでの罪がすべて明らかになる。
ゴードンガラス工房の経営陣と襲撃者たちは罪に問われ、工房は廃業となった。
第七隊の隊長は更迭された後、あの茶番劇を演じた壮年の男…伯爵と共に罷免された。
警備隊の隊長が、担当街区での犯罪を見逃していたこと。
ガラス工芸品の展示を担当していた部署の責任者が賄賂をもらい、一つの工房に便宜を図っていたという事実は、王家に少なからず衝撃を与えた。
公爵家の拉致・監禁事件の余波が冷めやらぬ中で発生した今回の不祥事により、騎士団と担当部署には王家から派遣された外部組織の監査が入り、徹底的な内部調査が行われることとなった。
この二つの事件が明るみになるきっかけを作ったのが、同一人物だったことを知る者は誰もいない。
◆◆◆
一仕事を終えた私とミケは、休む間もなく塩漬け依頼に着手した。
残り三つの内の二つはすぐに片づき、採取した薬草と苔の納品も済ませてある。
あとは最後のひとつ、Aランクの依頼をやるだけなのだが……
「『リッチ』って、お化けだよね? 幽霊だよね?」
⦅見た目はボロボロの衣裳を着た骸骨で、死霊のことだね⦆
「やっぱり、ラノベに登場するのと見た目も同じなんだ……」
はっきり言おう。
私はこの手の物全般が苦手である。
それなのに、依頼内容が『廃教会に現れる上位種のリッチの調査』で、しかも、リッチは夜しかいないから深夜に不気味な場所へ行かないといけないなんて、どんな罰ゲーム?
そして、調査する魔物のランクに対して依頼料がびっくりするくらい安いのだ。
たとえリッチを討伐したとしても希少価値のある素材が取れるわけでもないから、皆が受けたがらない理由もよくわかる。
これが、塩漬け依頼となっている原因だった。
⦅討伐自体は簡単だよ。ボクが聖火をえい!えい!って投げたら終了だから⦆
「そうだった! ミケちゃんは聖獣だからね」
最悪の場合、墓場からわらわらと湧いてくる骸骨を捕縛しないといけないと思っていたから、少し気が楽になった。
廃教会がある村は、王都からは馬車で五日ほどかかるらしい。
ギルマスのチャーリーさんによると、これまでリッチによる被害は一切なく、村は『触らぬ神に祟りなし』状態で放置していたものだそうだ。
実害もなく高額な依頼料も払えないため、村としても討伐に関しては消極的とのこと。
そんな理由もあり私も後回しにしていたのだが、様子だけはしっかり確認しておかないとゴーレムエンペラーのような事例もあるからね。
いつものように王都を夜出発して、ビューンとすっと飛ばして翌朝には村へ到着。
ここは人里離れた場所だから、村人たちは自衛のため村全体を塀で囲い、門番を置いていた。
門番さんにギルドで依頼を受けた冒険者だと伝え、村長さんへの取り次ぎをお願いしたのだが……
「せ、聖女様だー!」
と、大声で叫ばれてしまったのだった。
◇
私は聖女ではありません!と何度も否定したが聞いてもらえず、そのまま門番さんの案内で村長宅へ向かう。
途中、沿道に並んだ大人たちからは拝まれ、子供たちからはキラキラした瞳で見つめられ、非常に気まずい思いをするはめになった。
村長さんは、レミーユさんというおばあちゃんだった。
「聖女様、遠路はるばる、ようこそおいでくださいました」
「……あの、先ほどから何度も申し上げているのですが、私は聖女ではなく、ただの魔法使いですよ?」
「あっ、事情を察せず、大変申し訳ございません! では、ここでは『Bランク冒険者のリサさん』ということで周知いたします」
たしかに見た目が変わっているという事情はあるけど、そっちの事情は一切ありません!
「ゼットンさんの仰った通りのリサさんがこの村にいらっしゃったので、ふふふ……村中が興奮しております」
「ゼットンさん?」
「『額に星章のある斑の眷属を連れた方は、今代の聖女様である』と、エルダーリッチのゼットンさんが」
「……はい?」
思いも寄らない話に戸惑っている私の膝の上で、ミケが⦅ゼットンか……⦆と小さく呟いた。
◇
日が暮れるのを待って、私たちは廃教会へ向かった。
廃教会とはいっても村人たちによって建物は修繕されており、見た目は古びた教会といった感じだ。
周囲も綺麗に草が刈られ、手入れが行き届いている。
私は村人全員がエルダーリッチによって洗脳されている可能性を疑ったが、ミケが⦅それは、絶対にないよ⦆と断言。
聖獣であるミケがそう言うのであれば、きっとそうなのだろう。
でも、いくら修繕されたり手入れがされていても、夜の真っ暗な教会は不気味でしかない。
躊躇なくどんどん進んで行くミケにおいていかれないよう、必死で後を追った。
ミケは扉を開けられないから、私が気合を入れて開ける。
ギイという音とともに、扉はすんなりと開く。
途端に、教会内が薄っすらと明るくなった。
「み、ミケちゃん……これ、絶対にいるよね?」
⦅うん、いるよ。だって、あそこに姿が見えているもん⦆
「えっ!?」
ミケの言う通り、祭壇前に影が見える。
大聖堂ほど大きな建物ではないから、入り口からでも姿がはっきりと確認できる。
ボロボロではない綺麗なローブを纏ったおじいさんが立っていた。
⦅やっぱり、ボクの知っているゼットンだったね……⦆
『聖獣ニケ様、お久しぶりでございます。相も変わらず、凛々しいお姿ですな』
⦅ゼットンはだいぶ老けたね。あと、ボクは『ニケ』じゃなくて『ミケ』だから、間違えないでよ⦆
『ハハハ、そう言えばそうでした。マイ様が名付けられた御名前でしたな』
ミケとおじいさんの間で会話が繰り広げられているけど、私はまったくついていけない。
話の内容から察するに、以前からの知り合いっぽい。
悪いエルダーリッチではなさそうだから、緊張を少し解く。
おじいさん…ゼットンさんが、私のほうを向いた。
『こちらの方が、今代の聖女様ですか。うん? 以前お目にかかったような気がいたしますが……はて、どこでだったかな?』
⦅……マイの弟子だったリーサによく似ているんだよ。だからじゃない?⦆
『ああ、たしかにリーサ殿によく似ておられますな。なるほど、それで……』
ポンと手を打ったゼットンさんは、納得したように頷いている。
それにしても、さっきから気になる名前が聞こえるけど、ただの偶然だよね?
そんな、珍しい名でもないし……
⦅リサ、偶然じゃないよ。先代の聖女は、異世界から召喚された人物だった⦆
「えっ?」
⦅聖女の名は、マイ・タカナシ。リサのおばあさんだよ⦆
「・・・・・」
⦅お~い、リサ。 ボクの声が聞こえている?⦆
「え、ええええ~!!!」
深夜の教会に、私の大絶叫が響き渡ったのだった。




