第28話 品評会
冒険者ギルドのチャーリーさんからお願いされた『塩漬け(不人気)依頼』は、全部で四件あった。
Cランクが一件と、Bランクが二件。
そして、なぜかAランクが一件入っていた。
私専用の受付担当になったサブギルドマスターによると、「タカナシ殿の実力は、すでにAランクに達しているから」とのこと。
「(成りかけだったとはいえ)ゴーレムエンペラーを単独で討伐できる方が、Bランクなわけがないですよ……ハハハ」と苦笑されてしまう。
エンペラーに止めを刺したのはミケなんです!と声を大にして言いたい。
しかし、本当のことは言えない。
ミケいわく⦅従魔の手柄も、主の手柄になるのは普通のことだよ⦆なんだとか。
でも、ミケは従魔じゃないし聖獣だからね……
それでも、私がまだAランクになれないのは、冒険者としての活動期間が短いから。
登録してから一年経てば、晴れてAランク冒険者なれるそうだ。
宿へ帰る前に、大聖堂へ寄ってみた。
まだ女神様は不在だったため、滞在期間の延長が決定。
もし来週も会えなければ、一度ヘンダームへ戻ることも検討しなければならない。
塩漬け依頼は、遠方の森へビューンと飛んでオークジェネラル他数体を討伐する件だけすぐに終わらせておいた。
人的被害が出る前で、本当に良かったと思う。
それ以外は、用事が済んでから。
先に約束していた品評会があるからね。
それが終わったら、高い山の頂上までグイーンと上がってプチプチと薬草の採取をしたり、谷底にヒュンと下りて、そこだけに生えている珍しい苔を採取する予定だ。
ただ、Aランクのだけはちょっとアレな依頼のため、最後にしてある。
◇◇◇
中央広場には仮設のテントが設けられ、ガラスの工芸品が並べられていた。
出品されているのは、花瓶、グラス、絵皿など。
ガラスの工芸品と一括りに言っても、表面に色で絵付けがしてあるもの、細かい線や点で模様や絵が彫られたもの、砂を吹き付け模様を浮き上がらせるものなど様々ある。
一つ一つを時間をかけて丁寧に見ていると、ある作品に目が留まる。
それは、小さな花瓶に活けられた、ガラスで立体的に作られたマーガレットの花束だった。
花の色は白とピンクで葉は緑、どちらも見事に再現されている。
作品自体は手のひらサイズくらいの小さなものだが、それが却って可愛らしさを強調していた。
制作した工房名は、『アトリエ・ヴェール』。
トムさんのお店だった。
⦅なんか、リサの作品に雰囲気が似ているかも⦆
「立体的なところが、かな?」
平面的に花を模した作品はあったけど、実物に近い形で立体的に再現されているものは他に見当たらない。
独自性があるのは、ポイントが高いのではないだろうか。
テントを出ると、大勢の人だかりが見える。
その中に、見知った顔を見つけた。
「マリアさん、サラちゃん、ケンタくん、こんにちは」
「リサさん、見に来てくださったのですね」
「おねえさんとミケだ!」
「ミケ……」
トムさんの奥さんのマリアさんと、子供たちだった。
サラちゃんの帽子とケンタくんの鞄には、それぞれ花と猫のモチーフが付いていた。
「これから、審査結果の発表なんです」
「父さんがお花を作って、じいじの花びんにかざったから、きっとゆうしょうよ!」
「私もそう思うよ。すごく可愛かったもんね」
順位は、五位から発表された。
名前を呼ばれた工房主夫妻が、抱き合って喜んでいる。
その真ん中に女の子が挟まっていて、仲の良い家族にほっこりした。
「第四位、ゴードンガラス工房!」
五位の発表のときは大歓声が起こったのに、なぜか今はザワザワとしている。
周囲の人たちが「マズいことになったな」とか「また、誰か狙われるぞ……」などとコソコソ話をしている。
⦅誰かが狙われるなんて、不穏な話だね……⦆
「ホントだね」
マリアさんは表情を曇らせていた。
「では、続いて第三位。ロッテン・マルク工房!」
パチパチと拍手が沸き起こり、皆が「良かった」「大店で良かった」と安堵する様子が見える。
この反応の違いは、一体なんだろう?
「第二位、アトリエ・ヴェール!」
「やったー! 父さんたちが、二位よ!!」
「やった……」
トムさんたちは惜しくも二位だった。
⦅ボクは、一位だと思ったんだけど⦆
「私もだよ」
だけど、準優勝だもんね。
とにかく、お祝いだ!
「マリアさん、おめで……」
マリアさんの顔は顔面蒼白だった。
そういえば、拍手もざわめきも何もない。
サラちゃんとケンタくんだけが喜ぶなか、周囲の人たちが憐れむような顔で壇上のトムさん父子とマリアさんたちを見つめていた。
◇
アトリエ・ヴェールは、しんと静まり返っていた。
嬉しくてはしゃぎ疲れた子供たちは夕食も食べずに寝てしまい、マリアさんが寝室へ連れていった。
普通なら家族でお祝いをしてもおかしくないはずなのに、大人たちはずっと暗く沈んだ表情のまま。
「……リサさん、どうして我々がこんな様子なのか、不思議に思っているだろう?」
テルさんの問いかけに、私はうなずく。
「品評会のときから、ずっと気になっていました」
二位に選ばれたのに、喜びよりも悲しみの方が強く感じた。
「部外者の私が尋ねて良い事なのかわかりませんが、なにか事情でもあるのでしょうか?」
テルさんが、息子のトムさんの方を見る。
少し迷った様子だったが、トムさんは口を開いた。
「品評会で選ばれた作品が王城に展示されることは以前お話しましたが、王城までは自分たちで運ばなければいけない習わしなのです」
きちんと正装して持参する。
これは、昔から行われている伝統行事とのこと。
「王城へ着くまでに自分の作品を無くしたり壊してしまうと、当然ながら資格を失います。そして、代わりに次点が繰り上がるのです」
「四位の作品ということですね」
「王城に飾られるのは、工房にとっては名誉あることです。そして、もし王族の方々の目に留まれば、献上という栄誉を賜るかもしれない」
「それは、夢がありますね」
「……だからこそ、悪いことを考える奴が現れるのだ。作品を盗んだり壊そうとする輩がな」
テルさんが、苦しげにつぶやく。
なるほど、ようやく話が見えてきた。
「それをするのが、四位になった工房というわけですか……」
「リサさんも、ご存じでしたか」
「はい、周囲の方が話をされているのが耳に入りましたので」
トムさんによると、ゴードンガラス工房は昔から黒い噂の絶えない工房で、ガラス工芸組合内でも問題になっているとのこと。
腕の良い職人を罠に嵌めて借金を背負わせ、無理やり作品を作らせる。
他にも、過重労働や賃金の未払いなど問題だらけ。
組合としては除名したいのだが、ある理由がありゴードンガラス工房へ下手に手出しができないそうだ。
「ゴードンガラス工房が品評会で四位になった年は、一位から三位の工房の一つが何かしらの妨害を受けるのです。そして、狙われるのは家族経営の小さな工房ばかりです。大手の工房は、道中しっかりと護衛がつきますので狙いにくいのです」
今年の一位と三位の工房はそれに該当するため、家族経営のトムさんたちが狙われるのは確実と見られる。
だから、周囲の人たちがあんな表情をしていたのだ。
「そこまでわかっているのに、騎士団に動いてもらうことはできないのですか?」
「襲撃者たちは、捕らえられてもすぐに釈放されてしまうのです。おそらく貴族だと思いますが、町の警備担当者にゴードンガラス工房の協力者がいるのではないかと言われています」
また、悪徳お貴族様か。
誘拐事件では無関係な人たちが巻き込まれたけど、ここでも同じようなことが起きている。
本当に許せない。
⦅リサ、また魔力を暴走しかけないようにね!⦆
大丈夫だよ、ミケちゃん。
罪のない人たちを巻き込まないで、悪人だけを懲らしめるにはどうすればいいのか、冷静に考えているから。
「過去には、ケガを負わされた者もいます。ならず者たちを雇って、道中で物取りに見せかけて襲うのが奴らの常套手段ですから」
「その人たちを一人残らず捕えて、別の担当者に突き出すのはどうでしょう?」
「やってみないとわからないですね。ただ、それをするには腕利きの護衛を大勢雇う必要がありますが、そんな大金が我が家には……」
「それは、私に任せてもらえませんか?」
町の騎士団で、懐柔も買収もされていないところはあるのだろうか?
上手くいけば、襲撃者とその貴族を同時に懲らしめることができるかもしれないのに。
まあ、もしダメでも、とにかく無事にトムさんと作品を王城まで届ければ、こちらの勝ちだ。
私は静かに闘志を燃やしていた。




