第26話 ミケの本領発揮
まるで部屋全体が、地盤沈下が起きたような状況になっていた。
あのまま下にいたら、私たちは地面もろとも落下していたことだろう。
「あ、ありがとうございました。リサさんがいなければ、今ごろは………」
エイラさんの声が震えている。
まだ十七歳の女の子だからね。相当怖かったに違いない。
ミケが「ニャー」と鳴いて、体をエイラさんへ何度も擦り付ける。
それだけで、エイラさんに少し笑顔が戻った。
ミケの癒しの力は、さすがだね。
「……エイラさん、残念ながら安心するのはまだ早いみたいです。あれを見てください」
陥没した地面が、徐々に盛り上がっている。
巨大な手が見え、続いて頭が見えてきた。
上半身だけで、さっきのゴーレムくらいの大きさがある。
「ま、まさか、ゴーレムキング……」
「このために、ゴーレムたちは天井を高くしていたのですね」
どうやってゴーレムキングが誕生したのかは、わからない。
でも、この部屋には生み出せるだけの何かがあり、それを知っていたゴーレムたちが集まって作業を進めていた。
「私たちにとって幸いだったのは、ゴーレムたちが天井を高くしていたこと。あと、衝撃が大きすぎて地盤が崩落したこと。おかげで、天井付近にいれば、とりあえずは安全です」
ゴーレムキングは下半身が埋まった状態なので、今は動くことができない。
でも、必死に脱出しようとしている。
「ミケちゃん、お願い!」
⦅まかせて!⦆
部屋全体に風が巻き起こる。
ミケが強力な風魔法を行使しているのがわかる。
聖火であれば燃やせるかもしれないが、密閉された空間で火気を使用するのは怖い。
ミケがそう判断したのだろう。
風魔法で狙うのは、むき出しになっている魔石だ。
それに気づいたゴーレムキングが手で庇うと、手に大きな穴が開いた。
ミケもこの姿になってから、力がさらに強くなった気がする。
ゴーレムキングの魔石は、四発目でヒビが入り、五発目で砕け散ったのだった。
◇
村に帰りついたときには、もう夕方になっていた。
さすがに疲れたし、お腹も空いた。
けれど……
空が茜色に染まりとても綺麗だな~と、私は現実から目を背けていた。
「そ、村長! ゴーレムキングが出ただと?」
「ゴーレムも、二体どころか六体もいたのか!!」
「こんな大きな魔石を、儂は生まれて初めて見たぞ!!」
村の広場では、村人たちが蜂の巣をつついたように大騒ぎをしていた。
テーブルの上には、傷の無い魔石が六個。バラバラになった魔石が数個置いてある。
子供たちは、広場に並べられた六体のゴーレムを触ったり、突っついたりしている。
しかし、魔石は七体分あるのに、ゴーレムの体は六体しかない。
そう、私はまだキングを出していなかった。
キングを出す前に村人たちが騒ぎだしたため、出すタイミングを完全に見失ってしまった。
でも、このまま隠しているわけにはいかない。
きちんと見せ報告をしなければ。
心の準備ができた私は、口を開く。
「……エイラさん、お願いできますか?」
「……はい」
エイラさんが「みんな、危ないからちょっと下がって!」と声をかける。
安全を確保したところで、躊躇せず一気に出す。
はい、ドン!!!
巨大なゴーレムが姿を現した。
「「「「「「「・・・・・」」」」」」」
誰も、何も反応しない。
うん、予想通りだ。
「えっと……エイラ、これは何かのう?」
「やだなあ、おじいちゃん! なにって、ゴーレムキングだよ」
同じく現実逃避ぎみのエイラさんが、明るく答える。
「なんで下半身だけ、光っておるんだ?」
村長さんの言う通り、ゴーレムキングの下半身はガラスのようにキラキラと光っていた。
なぜなのか、私も理由が知りたい。
キングとの戦いが終わったあと、レースごと地面に下りた。
砕け散った魔石を拾っていたら、何かがきらりと光る。
気になって少し掘ってみたら、キングの下半身の色が違っていたのだった。
「……村長、これは『石英』かもしれんぞ」
「なんじゃと!?」
石英とは、簡単に言ってしまえばガラスの材料になる鉱物のことらしい。
石英の中でも無色透明なものは、『水晶』『クリスタル』と呼ばれているそうだ。
なるほど、だから光っていたんだね。
つまり、あのゴーレムキングは(半分)クリスタルゴーレムだったのだ。
「だったら、ゴーレムキングが出てきたところを採掘してみてください。まだ、石英が埋まっているかもしれませんよ?」
「そうだな、確認は必要だ。早速、明日の朝一番で向かうぞ!」
「「「「「おう!」」」」」
村人たちの顔が、生き生きとしている。
久しぶりの仕事に、みんな嬉しそうだ。
◇
その後の話し合いで、ゴーレムキングの本体以外のものはすべて私の取り分となった。
「……リサさん、本当に良かったのですか? だって、討伐した魔物は討伐者に権利があるはずですよ? だから、キングの本体だって本当は───」
「それだったら、ゴーレムの半分はエイラさんに権利がありますよ? それを私がもらったので、それでいいじゃないですか」
「ただのゴーレムとあのキングでは、価値が違いすぎます!」
「そもそも、キングの石英は鉱山に埋まっていたものですよ。だから、権利は鉱山を所有しているこの村にあります」
「でも、石英はまだ鉱山に埋ま────」
「さらに石英が出るかは、掘ってみなければわかりません」
私は人差し指を口の前に立てる。
「エイラさん、討伐で見たことを吹聴しない。これは、この依頼を受けるときの約束でしたよね?」
実は、探知魔法でまだゴーレムが埋まっていないか念のため確認をしたところ、石英の大きな結晶を見つけてしまったのだ。
鉱山から出た鉱物は持ち帰ったら盗掘という犯罪になるから、土に埋めたままにしてある。
明日は、きっとまた大騒ぎになるだろう。
「あのゴーレムを売れば、採掘作業ができなかった分の穴埋めができるはずです」
「この村のために……リサさん、ありがとうございます」
エイラさんは目に涙を浮かべた。




