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【第一部完結】レース編みは万能でした~女神の使徒? 私は飼い猫の異世界召喚に巻き込まれた、ただの飼い主ですよ?  作者: ざっきー
第三章 王都へ行くことになりました

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第23話 王都門での出会い


 誘拐事件は、無事に解決した。

 被害女性たちは解放され、それぞれの家族のもとへ帰ることができた。


 ランディさんが、その後の経緯を簡単にまとめた書簡を宿へ送ってくれた。

 それによると、主犯たちは王都へ護送され法の裁きを受けるという。

 領主様が公爵家と交渉し、女性たちへ十分な慰謝料が支払われるとのこと。


 でも、受けた心の傷はすぐには完治しない。

 時間をかけて、少しずつ癒していくしかないのだ。



 ◇◇◇


 

「ミケちゃん、どうしよう。姿が戻らないよ……」


 洗面所の鏡の前で、私は半泣きになっていた。

 ミケに姿を戻してもらおうとするが、一向に戻らない。


⦅たぶん、リサが魔力を暴走させそうになった影響だと思う。それで、これからどうする? ボクは三毛猫のままでも構わないけど……⦆


「ミケちゃんはそれでもいいかもしれないけど、私は困るよ! だって、この世界の変身魔法って髪色しか変えられないんでしょう?」


 真っ黒だった瞳が茶色になっている。

 髪を黒にしたとしても、明らかに以前とは違う顔だ。

 そんなの、絶対に怪しまれる。

 それに、誘拐事件で顔を見られているから、別荘を破壊したのが私たちだと騎士団へバレてしまう。

 それは困る。非常に困る。


⦅じゃあ、女神様に会いに行くしかないね。直々に、姿を戻してもらうんだ⦆


「商業祭のときに行った、あの教会へ行くの?」


⦅あそこでは無理だよ。この国だと、王都の大聖堂でしか女神様と会えないから⦆


「女神様には、すぐに会えるのかな? 商品の納品があるから、あまり時間がかかるのはちょっと……」


 国の中心部よりやや南寄りにある王都までは飛行魔法で行くから、移動にそれほど時間はかからないはず。


⦅女神様も忙しいから、すぐに会えるとは限らないよ? とりあえず、契約した分の納品を済ませてから行ったほうが良いと思う⦆


「そうだね、商売は信用で成り立っているんだから、きちんと約束は守らないとね」


 まずは、オリビアさんへ手紙を書く。

 急用で王都へ行くことになったので、新規の受付を一時停止してほしいこと。

 納期の迫っている契約分は、納品を済ませてから旅立つこともしっかりと伝えておく。


 現在は、商業ギルドがかなり余裕を持って納期を組んでくれているので、とりあえず直近の分だけを編んでいけば問題なし。

 残りは、移動時間や王都の宿でするつもりだ。


 いよいよ本腰を入れて技術の普及に務めないと、このままだと非常にマズい。

 王都から帰ったら、手芸教室の開催に向けて動き出そうと決意した私だった。



 ◇



 宿に引きこもること二週間。

 昼食も夕食も宿へお願いして、本当に一歩も外に出なかった

 おかげで、私は納期が迫る分の制作を終えることができた。


 さすがに納品は自分で持ち込まなければならないので、ローブのフードを目深に被り出かける。ミケは、もちろんお留守番だ。

 オリビアさんへは、顔を隠している理由を「転んで顔にケガをした痕が(上級ポーションを飲んでも)まだ残っているから」と苦しい言い訳を述べておいた。


 三か月ほど暮らした宿に、ひとまず別れを告げる。

 もし誰か訪ねてきたら、仕事で王都へ行っていると伝えてもらうことにした。


 従業員さんたちは「無事に、ヘンダームへ戻ってきてくださいね!」と言って別れを惜しんでくれた。

 この世界では、旅の途中で命を落とす者も多い。

 今生の別れとならないよう、私も気を付けようと思う。


 

 ◇◇◇



 王都までは、ヘリコプターモードで向かう。

 帝国から飛んできた一般道を走る程度の速度ではなく、高速道路を走行しているくらいのスピードを出してみた。

 馬車で向かえば一週間の旅路を、二時間ほどで到着したのだった。


 王都は人が多いため、検問にはかなりの時間がかかる。

 いまは行列に並んでいるのだが、ミケは私が肩から掛けたベビースリングのなかにいた。

 ベビースリングとは、赤ちゃんを抱っこする抱っこ紐のこと。

 それを、あの肌触りの良い魔物ヤギの高級毛糸で編んでみた。


 肩掛けの部分と縁だけは丈夫な布にしているが、ミケは軽いのでそれほど強度は必要ない。

 万が一落ちても自分で着地できるし、とは本人の談。

 メッシュ生地みたいで、通気性も良さそうだ。


 私たちの行列の横を、何台もの馬車が忙しなく通り過ぎていく。

 王都の門には、お貴族様専用の出入り口があるのだとか。

 でも、庶民は並んでひたすら待つのみ。


 ボーっと待っていても暇だし小腹がすいたから、おやつを食べることにした。

 私は立ったまま。ミケは寝転がったまま。

 二人とも行儀が悪いが、他にすることがないので仕方ないのだ。

 

 自分たちに言い訳をしながら、道中で立ち寄った町で購入したクッキーをもぐもぐする。

 木のコップに水を用意するのも忘れない。もちろんミケ用の水も。

 

⦅リサ、あとどれくらいかかりそう?⦆


「う~ん、まだ入り口が見えないから、結構かかりそうだね」


 こんなに時間がかかるのなら、お昼ごはんも用意しておくべきだった。


⦅水のお替りをちょうだい。クッキーを食べたら喉が渇いた⦆


「はいはい、ちょっと待ってね」


 ミケの水入れに蛇口模様のついた小さなレースを被せると、すぐに水で満たされる。

 ベビースリングから顔を出しミケが水を飲んでいると、「あの、ちょっといいですか?」と前の人から声をかけられた。

 私たちの前に並んでいるのは幌馬車で、後ろの荷台から若い男性が顔を出していた。


「なんでしょう?」


「もし水が余分にあったら、分けてもらえないでしょうか?」


「構いませんよ」


「子供らが、喉が渇いたと言って全部飲んでしまって。少しだけ分けてもらえたら、ありがたいです」


 男性が後ろの幌を上げると、荷台に二人の子供たちと女性がいた。


「よろしかったら、中で座って待ちませんか? まだまだ入場には時間がかかりますので」


 女性に手招きをされた。

 見たところ、商売をしている一家のようだ。

 荷台には、商品と思わしき荷物も積まれている。

 幌の中は見通しがよく、周囲の人の目もある。


 あの誘拐事件があったせいで、平和ボケしていた私も多少警戒心を持つようになった。

 他人を疑いの目で見るのは心苦しいが、自衛のためには仕方ないと割り切るしかない。


 私の見立てでは、彼らは良い人たちに見える。

 ミケも⦅何かあっても、ボクがいるから大丈夫!⦆と言っている。


「あの、従魔もいるのですが……」


「魔法使いの方ですものね。私たちは大丈夫ですよ」


「では、失礼します」


 待ちくたびれたこともあり、お言葉に甘えることにした。



 ◇



 子供たちは、ベビースリングの中にいるミケに興味津々だ。


「おねえさん、ネコちゃんをさわってもいい?」


 尋ねてきたのは、小学一年生くらいの女の子だ。名前はサラちゃん。

 ミケが「ニャー⦅いいよ⦆」と鳴く。


「どうぞ、優しく触れてあげてね」


「……ぼくも」


 後ろから、弟のケンタくんが小さな手を出してきた。

 歳は三歳くらいだろうか。

 おそるおそる触る仕草が、サラちゃんとは対照的だ。


「リサさん、こちらへ水をお願いできますか?」


「わかりました」


 ミケをベビースリングごと下ろし、父親のトムさんが出してきた小さな水瓶へ水魔法で一杯にする。


「まさか! 水魔法で水を入れていたのですか。大変申し訳ないが、いま私が支払えるのはこれしかないのです」


 差し出されたのは、銅貨一枚だった。

 たぶん、お金はいらないと言っても話が進まなくなるので、私はアイテムボックスから鉄貨九枚をお釣りとして返す。


「これだと、水代がたった鉄貨一枚になりますが?」


「ええ、それで結構ですよ」


 本当なら、ただであげてもいい水なのだ。

 鉄貨一枚が大体百円くらいだから、水のペットボトル代として換算してみた。


「トム、さすがにその金額では……」


 横で見ていた奥さんのマリアさんが口を開く。

 マリアさんによると、水魔法で生成された水は不純物がなく美味しいため、王都では高値で取引されているという。

 見た目から私が魔法使いだとわかっていたトムさんだったが、水はアイテムボックスに収納していると思っていたらしい。


「う~ん、困ったぞ」


「本当に、お代はこれだけで十分ですよ?」


「しかし……」


「だったら、わたしのたからものを、おねえさんにあげる!」


 サラちゃんが布にくるんである物を見せてくれた。

 中に入っていたのは、様々な色ガラスの小さな欠片だ。

 周囲は尖っておらず、すべて丸くなっているようだ。

 よく見ると、小さな気泡の跡なのか所々穴が開いている。

 まるで、ビーズみたいだ。


「こ、これ、欲しいです!!」


 思わず叫んでしまった。

 この世界でビーズに似た物が手に入るなんて、嬉しい!


「こんなもので良ければ、うちの工房にたくさんありますよ」


「あるだけ買います!」

 

 トムさんの家は、王都の職人街でガラス工房を営んでいた。




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