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レース編みは万能でした~女神の使徒? 私は飼い猫の異世界召喚に巻き込まれた、ただの飼い主ですよ?  作者: ざっきー
第二章 スローライフを送りたいだけなのに……

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第21話 これは、正当防衛です!


 しばらくして、全員で地下牢を出される。

 同じ階にある作業場のようなところへ移動した。

 中には作業台と椅子が置かれ、糸や毛糸の他に、編み棒などの道具が並んでいる。


「はい、では今日も頑張りましょう」


 抑揚のない淡々としたしゃべり方で、私を誘拐した使用人の男がパンパンと手を叩く。

 女性たちは無言で席に着くと、すぐさま作業を始めた。

 見本として置かれているのは、私が作ったさまざまな作品だ。

 鞄に髪留め、シュシュやボトルケース、コサージュまである。


 周りを観察していると、皆が作品を再現しようと奮闘している。

 その中で、若い女性に目が留まる。

 彼女は太い毛糸を出し、指でシュシュを編み始めたのだ。


 ギルドで見せられたあの商品が、こんな風に作られていたなんて。

 女性たちを、華やかに、美しく、可愛く見せるため、笑顔にするために作った小物たちが、女性たちを苦しめることになるなんて。

 思ってもいなかった。


 私が呆然と立ち尽くしていると、部屋に誰かが入ってきた。

 地下牢で見張りをしていた女を伴っているのは、豪華なドレスをまとった若い女だ。


「ハロルド、これが新入りね?」


「はい」


「そこのおまえは、アレが作れるのかしら?」


 指されたのは、もちろん私の作品たちだ。


「……作れません」


 本当は作れるけどね。


「はあ……また外れじゃない。ハロルド、いつになったら見つかるのよ?」


「お言葉ですが、このヘンダームにどれだけ住民がいると思っているのですか? 髪留めを特別注文で手に入れたいのであれば、ギルド経由で申し込んでください」


「納品までに三か月もかかると言われたのよ? そんなに待てるわけがないわ! 来月の舞踏会で、どうしても身に着けたいのよ!! わたくしを馬鹿にする女たちへ、見せつけてやるの!」


 『待てないから』『見せつけたいから』

 そんな理由で、関係のない人たちが誘拐され監禁されている。

 この事実に(いきどおり)りを覚える。

 行き場のない気持ちが急速に膨れ上がった。


「最近は、騎士団にも目を付けられております。少しは自重してください」


「まったく、忌々しいわ……本人でなくとも、多少は使いものになるかと様子を見てきたけど、時間の無駄ね」


 主の女は、若い女性が編み上げたシュシュを乱暴に取り上げた。


「わたくしが欲しいのは、こんな庶民向けのゴミではなく、わたくしに相応しい一品なのよ!」


 主の女は、シュシュを見張りの女へ投げつける。


「わたくしはいらないから、あげる」


「ありがとうございます!」


 見張りの女は、すぐに懐にしまう。

 自分で使わず、内緒であの店に売りにいっているのだろう。


 私の中で、何かがプツンと切れたような気がした。

 ああ、もうダメだ。

 我慢の限界かもしれない。


 彼女が一生懸命作ったシュシュを、ゴミだのなんだの、もうたくさんだ。

 作り手の心を踏みにじる行為にうんざりする。

 悲しい。悔しい。何より許せない。


 沸々と怒りがこみ上げる。

 頭に血が上る。

 手が震える。


 気づくと、使用人の男が驚いたような顔で私の方を見ていた。

 部屋がミシミシと地震のように揺れ、遥か遠くで周囲がざわざわとしている

 経験したことのない、とても不思議な感覚だ。

 全能感で、今なら何でもやれそうな気がした。


 そのとき、「ニャー」とミケの声が聞こえた。

 『リサ、魔力が暴走しかけているよ!』と。


 熱くなった頭が、一瞬にして冷えた。

 私は大きく深呼吸をする。

 落ち着け、落ち着け。

 被害者を巻き込むようなことは、絶対にダメだ。

 加害者を裁くのは私ではない。この国の法の下で裁きを受けさせるのだから。


「……あの、質問があるのですが?」


 私は、男へ向かって手を挙げた。


「な、なんだ?」


「このお屋敷の主の方は、こちらの作品の作者を探しているそうですね?」

 

「ニャー」


「それがどうした」


「話を聞いている限りでは、ご自分専用の物を作らせるおつもりのようですが?」


「そうだとしても、おまえには関係ない」


「ニャー」


 ミケちゃん、心配しなくても大丈夫だよ。

 私はもう冷静だから。


「フフッ、まさかとは思いますが……ご自分に似合うと思われているのでしょうか?」


「……何が言いたい?」


 私は、男から主の女へ顔を向けた。

 正面から見据える。


「はっきり申し上げますと、あなたには絶対に似合いません」


「なんですって!」


「心の汚れた方に着けてもらいたくないと、髪留めたちも思っていると思いますよ? 身の程を知れ!とね」


 私の突然の暴言に使用人は唖然とし、女性たちからは声にならない悲鳴が上がった。


「口を慎みなさい!」


「本当のことを言って、何が悪いのですか?」

 

「黙れ! わたくしを誰だと思っている?」


「あなたがどこの誰であろうと、一切興味はありません」


 公爵夫人だろうと、公爵令嬢だろうと、どうでもいい。

 頭は冷えたけど腹は立っているので、言いたいことはすべて言わせてもらう。

 ついでに、(あお)るだけ煽っておく。これは単なる腹いせだけどね。


「ハロルド、この女を殺してちょうだい!!」


「しかし、さすがに殺しは……」


 人攫いも大概だと思うけど、殺しに手を染めることを躊躇するくらいの良心は彼に残っているらしい。


「役に立たない男ね! いいわ、外の者たちに()らせるから!」


 ああ、主のほうはやっぱりこういう人なんだ。

 だったら、こちらも遠慮なくやらせてもらおう。


「いま、私を殺すと言いましたね? 正当防衛が成立しましたので、反撃させてもらいます」


「はあっ? 何を言って──」


「特大のものを、いきま~す!!」


⦅発射!⦆


 私の合図に、ミケが応える。

 ドカン!と大きな音がして、再び地面が揺れる。

 天井や壁に大きな穴が開いたが、破片は誰にも当たらないし鼓膜も破れない。

 ミケが同時に風魔法で周囲を覆ったから。


「さあ、皆さん。今のうちに逃げましょう!」


 唖然・呆然としている女二人と使用人を置いて、私たちは上階へ駆け出す。

 一階には爆音で駆けつけた男たちが集まっていたが、ミケが次々に排除していく。

 ミケは姿を見せていないから、周りは私が魔法を発動していると思っているはず。


 庭に出ると、門付近に騎士団の姿が見えた。柵越しにこちらを窺っている。

 大きな爆発音がしたから、様子を見に来たのだろう。

 気づいてもらえて、良かった!

 この為に、ミケにド派手にやってもらったのだから。


「皆さん、騎士団の方々に助けてもらいましょう!」 


 私は手を振り、大声を出す。


「助けてくださ~い! 攫われて、ここに監禁されていました!!」


「団長! 行方不明になったと届け出が出されている女性たちです!」


「よし、すぐに保護するんだ!!」


 ランディさんだけでなく、スベトラさんもいた。

 ここまでやったら、あとは騎士団へお任せだ。


 騎士たちが門をこじ開け、続々と公爵家の別荘へなだれ込む。

 安堵と疲労で座り込んだ女性たちを、女性騎士たちが守っている。


 現場が騒然とするなか、私は野次馬に紛れてミケと共にそっと姿を消したのだった。




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