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レース編みは万能でした~女神の使徒? 私は飼い猫の異世界召喚に巻き込まれた、ただの飼い主ですよ?  作者: ざっきー
第二章 スローライフを送りたいだけなのに……

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第15話 めぐり逢い?


 商業祭の日、ルークは朝から町の視察に出ていた。

 

 警備体制は万全か。

 町の治安は守られているか。

 人が大勢集まる場所では、犯罪も起きやすい。

 ルークは領主代行として目を光らせていた。


 町の広場へ移動し、商業ギルドの仮設店舗を覗く。

 商業祭のときは各店が新商品を売り出す。

 いま領都では、どのような商品が売られているのか。

 市井の状況を把握することも、ルークの務めだった。


 ギルマスのハリーの案内で、商品を一通り見終える。


「そういえば、例の制作者の新商品はないのか?」


「大変申し訳ございません。酒造店との共同商品があったのですが、すぐに売り切れてしまいまして……」


「どのような商品だったのだ?」


「ボトルカバーでございます」


「ボトルカバーか……さぞかし、見事な出来だったのだろうな」


 ぜひ見てみたかったと、ルークは残念に思った。


「只今、マルベリーシルク糸で制作する贈答用のボトルカバーの見本品を依頼しておりますので、出来上がり次第すぐに持参いたします」


「それは楽しみだ。よろしく頼む!」


「かしこまりました」



 ルークが次に向かったのは、教会だった。

 もう販売終了間近で、客もほとんどいない。

 

「皆、今日はご苦労だった。例年通り、売れ残ったものはすべて買い取ろう」


「ルーク様、ありがとうございます。今年は飛び入りで商品を提供くださった方がいて、例年以上の売り上げがございました」


「そうか、それは何よりだったな」


 この売り場の責任者である騎士団長スベトラの妻の話に、ルークも笑顔を見せる。

 ルークが買い取ったものは、すべて孤児院へ寄付される

 そのまま子供たちのものになるのだ。

 それを見越して、ここに提供される商品は子供が使えるハンカチや袋、お菓子などが多い。


「何を提供されたのだ?」


「花瓶やコップの下に敷く、小さめの敷物です。ただ、非常に精工な作りでしたので思い切って高値を付けたのですが、完売しました」


「それは、見てみたかったな」


「よろしければ、ご覧になられますか? 一つだけ形が大きく一番高額でしたので、最後まで売れ残っておりました。それを、わたくしが買い取らせていただきました」


 見せられたのは、掌よりひと回りほど大きいサイズの敷物。

 形は丸で、細かな花柄の模様が美しいものだった。

 中央部分と縁だけ糸の色が変えてあり、物の下に敷いてしまうのがもったいないと思えるほどの出来栄えだ。


「これは見事だな」


「はい。サイドテーブルに飾るのが楽しみです」


 そう言って、スベトラの妻は微笑んだ。



 ルークが最後に訪れたのは、騎士団本部だった。

 何事もなく無事商業祭を終えることができたのは、騎士たちの働きのおかげ。

 それを労うためだ。


 いつものように、建物に横付けされた馬車から降りる。

 ふと目に飛び込んできたのは、ローブを羽織った黒髪の魔法使いらしき女と白の従魔。

 すぐに、(くだん)のBランク冒険者だと直感した。

 

 道を開けた女の前に立ちふさがる。


「リサ、ようやく会えたな」


 願ってもない邂逅に、心が弾んだ。



 ◆◆◆



 私はまだ、騎士団本部にいた。

 事情聴取を終えて宿に帰れるはずだったのに、どうしてだろう。

 誰か理由を教えてほしい。


 騎士団の食堂で夕食を食べながら、向かい側に座る美少年をチラチラと眺める。

 彼はルークと名乗ってくれたが、騎士ではないらしい。

 正体は一切不明だ。

 

 身につけている服は、上質な布で作られた仕立ての良い物。

 髪は綺麗に整えられている。

 食事をする姿もかなり品がある。


 こんな彼が、ただの人であるはずがない。

 絶対にお貴族様のお坊ちゃんだ。

 私は確信していた。


「別に取って食ったりはしないから、そう警戒をするな」


「……はい」


 警戒をするなと言われても、相手がお貴族様だから絶対に無理!と心の中だけで叫んでおく。


 夕食の時間だから騎士たちが続々とご飯を食べに集まってくるが、誰も私たちのそばには近寄ってこない。

 この一角だけが、がらんとしている。

 唯一の例外は騎士団長のスベトラさんで、彼だけは私たちの隣のテーブルにいた。

 ただし、ご飯は食べていないけど。


「リサは、特殊な魔法を使うそうだな? 中でも、飛行魔法が行使できると聞いている」


 さすが、お貴族様は情報収集能力が高い。

 私のことは何でも知っていそうだ。


「はい、その通りです」


 隠しても意味はなさそうなので、正直に認める。


「その魔法を、私に見せてくれないか?」


「わかりました」


 お貴族様に逆らうと面倒なことになる。

 これもラノベのお約束展開。

 だから私は、できる限り要望にはすべて応じるつもりだ。


「ミケちゃん、食事中にごめんね」


「ニャー」


 隣の椅子の上で食事をしているミケが⦅仕方ないな⦆と言っている。

 私はカトラリーを置いた。


「フィレレース、飛行!」


 座布団くらいの大きさのレースが、ご飯ごとミケを乗せたまま浮上する。

 テーブルの上を一周して、また椅子に戻った。

 遠巻きに見ていた騎士たちは、ざわざわとしている。

 スベトラさんは口がポカンと開いたままだ。


「す、すごいな! ぜひ、私も空を飛んでみたいのだが?」


「えっと、それは……」


 チラッとスベトラさんを見ると、目が合う。小さく首を横に振っている。

 うん、これはやったらダメなやつだ。


「狭い建物内では危険ですので、申し訳ございませんが……」


 一応、それらしい理由を述べておく。

 これで納得してくれれば、いいのだけれど。


「であれば、外なら問題はないな」


 うん、わかっていた。

 やっぱり、こういう展開になるよね……。


「今日は時間も遅いゆえ、明日以降であれば───」


「おそれながらルーク様、空を飛ぶのは大変危険な行為でございます。御身に万が一のことがあれば、フランツ様に顔向けができません。何卒、お考え直しを!」


 スベトラさん、頑張ってお坊ちゃんを説得してください。


「では、事前に父上から許可をもらう。万が一のことがあっても、おまえたちの(とが)にはならぬよう念書も(したた)める。これで良かろう?」


「…………」


 スベトラさんが黙ってしまった。

 どうやら、彼の説得に失敗した模様。


「そうだ、来週ヘンダーム郊外で新人たちの演習があるな。私も視察をする予定だから、ちょうど良い。リサは冒険者ギルドへ指名依頼を出しておくから、よろしく頼む」


「わかりました」


 予定があっという間に決まる。

 そもそもの話、お貴族様の言うことに庶民が反対できるわけがない。

 粛々と首を縦に振るのみだ。

 

 悲愴感を漂わせるスベトラさんとは対照的に、ルーク様はニコニコ顔である。

 ともかく、ようやく解放されそうだ。

 

 長い一日が終わり、早く宿でのんびりしたい私だった。




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