6話 国家権力万歳
「へぇ〜!これが公都かぁ」
公都に着くとドワーフが物珍しそうにキョロキョロ周りを見渡しだした。
しばらくして一通り見たのか馬車の中に戻り
「やっぱ蒸気機関が無いおかげか都であっても空が綺麗で、空気も淀んで無くていいねぇ♪」
と誰に聞かせるでもなく喋っているので私は
「帝国は違うの?」
と聞くと「雨が降ると洗濯物が臭くなる」
と言い「急に振られたらやり直しですぅ」
それを聞いたクレアがイヤイヤしながらゴチる。どうやら洗濯し直す所を想像したみたいだ。
「まぁ俺が居たエッセランは工業都市だったからな。だが帝都ベルンもクランと比べられたら臭いだろうな」
ゲビックの物言いにどう言う事かと首を傾げていると
「帝国では生活排水を下水として川に流してるんだが、都市部だと人が多過ぎるせいで臭ぇんだよ」
と説明してくれた。
「ひょっとして...街の地下に下水道を通して集約する形で、処理せず川に流してるの?」
恐る恐る聞くとゲビックは
「結果的に集約されてるなぁ...処理ってのはどういう事だ?」
と聞き返してきたのだが...私は頭を抱えながらその危うさを答えると
「五年位前から流行り出した病が、収まらないどころか少しづつ拡散してるのはそのせいなのか?」
「病気だけじゃなくてネズミも増えてない?」
質問に質問で返すと「増えてるかもな」と言うので私は
「詳しくは答えられないけど...ネズミの駆除と下水処理をしないとそのうち疫病になるわよ?」
そう答えた私にゲビックは
「だったら俺ぁコッチに来といて正解だった訳だ!」
と言って大声で笑いだした。
「他人事みたいに言うけど家族とか心配じゃないの?」
少し呆れながら尋ねると
「ドワーフは子育て以外で群れないからなぁ」
と言ってきたので思わず「だから少ないんじゃないの?」
と漏れ出た言葉に「ちげぇねぇ」と言って笑った。
(これも種族の違いか?)と思っているとアレクが「着きましたよ」と声を掛けてきた。
公爵家の出入り業者用通用口から入ったせいか、ゲビックはまだ何も気付かずのんびりしている。
馬車を納品用家屋前に付け皆で降りるとゲビックは
「ここはなんだ?商会の裏口にしては質素だが...それにさっきまで町中だったのにここは何処だ?」
と言ってキョロキョロする。公爵家の街側は庭園が拡がり誰が見てもお屋敷だと分かるが、裏側は木々に囲まれ奥の方は鉱山に直結している為一見しただけでは何が何だか分からないだろう。
「ゲビックはその辺で適当に座っといて」
屋内に入り皆が思い思いに散って行く中、私はゲビックにそう言いながら自分の部屋にクレアを伴い入る。
着替え終わった私と使用人姿のクレアが部屋から出て、改めてゲビックの前に立つとアレクが
「本日の目録で御座います」
恭しく差し出しクレアが慣れた手付きで受け取る。何事か分からず立ち竦むゲビックの前で
「大儀である」と私が言うとアレクは「有難き御言葉」と儀礼する。
流石にこのやり取りを見て気付けない筈はなく、呆気にとられるゲビックに着いてくるよう伝えクレアが屋敷へ続く扉を開く。
そこに居た騎士服に身を包んだアヴェイルとカーウィンが一礼し、屋敷まで案内するがゲビックは終始キョロキョロしていた。
屋敷に入り応接室でゲビックを待たせ、私は祖父の元に行き事の顛末を伝えると
「我が孫ながらなんという事を...」
祖父は頭を抱えたが私は「許可は得たわ!」と力強く訴える。
「異種族である事を考慮しとらんじゃろ?」
祖父はそう言って頭を掻きながら
「取り敢えず、まずは合うてみるかの」
と言って立ち上がった。
「お主がゲビックとか言うドワーフ技師かの?」
祖父の言葉にゲビックは「はい!そうで御座います!」と緊張しながら答えた。
「儂の名はヴェルノア=クランドール、家督は息子に譲った今は隠居爺じゃ。そこまで緊張せんで良いぞ」
「は、はい」そう言われても無理そうなゲビックに私も改めて名乗る。
「僕の名はセシル=クランドールと言います。先程は偽名で失礼しました」
言われたゲビックは声音で今気付いたようだ。目を白黒させている。
祖父に座るよう促されぎこちなく座りながら、勧められたお茶を震える手でカップを持ちすすってしまう。
「さて...孫からはセンプウキ?とやらを作ると聞いたが、お主...ここにどの位の期間滞在するつもりじゃ?」
「そ、それは特に考えておりません」
祖父に聞かれゲビックは予想通りの言葉を口にした!
「期間が決まっていない?それは年単位でも公国に滞在出来ると言う事ですか?」
私の言葉にゲビックは
「そ、そうですね。明らかに環境変化を起こし、未知の病を流行らすような帝国にはしばらく近寄りたくないですね」
そう答えたゲビックに私は「それなら我が公爵家に仕えてみませんか?」と言ってみた。
祖父は驚いていたがゲビックは「良いんですかい?!」とまさかの乗り気だった。
しかも「うおぉぉぉぉーーー−−−!!まさかの宮仕えだぜぇーー−−!!」
喜ぶというより明らかに(しかも雇うでなく士官だと正しく理解して)悦んでいる姿を見て
「早まったかな?」と敬語も忘れて燥いでいるゲビックを見て思ったが
「リアよ、良かったな」と祖父が言ってきた為、私は「そうね」と答えるしか無かった。
こちらの気も知らず「国家権力万歳!!!」と言い出したゲビックを見て祖父が今頃(アレ?)と首を傾げたが、まぁなるようになるだろう。
実際蓋を開けてみると一旦下がった私の予想を大きく超えるどころか、ホムンクルス作製にも大きく貢献するのだった。
酸性雨で濡れると臭いだけでなく服の繊維とか傷むらしいです。




