5話 ホムンクルス
今日から週1話更新になります。
前半は「3話」の翌日の出来事です。
『指輪以外ニ肉体モ欲シイデス』
突然精霊魔導核がそんな事を言い出した。
「どう言う事じゃ?」
祖父がそう聞くと
『指輪ダケデハ情報収集量ガ少ナク解析モ必要、受肉出来レバ解決』
と言ってきた。祖父は
「精霊魔導核事受肉は無理じゃの。大き過ぎる」
『指輪ヲ装着出来ル肉体ヲ希望』
祖父の言葉に精霊魔導核が答える...が、それよりも私は
「あのね、精霊魔導核って呼びにくいしアナタのお名前があるなら知りたいな?」
昨日寝る前に聞けなかった事を聞くと
『名付拒否、認知存在確定、我困窮特大、「アナタ」等、代名詞呼求』
「今、名前を付けると不完全な存在になる...と言う事かの?」
精霊魔導核の名付け拒否に祖父が答えると
『概、良』と答えた。
「人造人間かぁ...」呟く祖父に
「ホムンクルスって何?」と私が聞くと
「魔導錬金で作られた人工生命で人間に似せた物の事じゃよ」
と祖父が教えてくれた。
倫理的に良くないのでは?と思い祖父に聞くと
「有りもしない魂を人工的に生み出したり、高知能の魔物を取り込ませ使役するのは禁止されておるよ」
と言い、続けて「今回は器として欲しいと言う事じゃから禁忌に触れる訳では無いが...揃えるには骨が折れるぞぃ」
とも言ってきた。具体的に何が必要か聞いた私は
「それなら一石二鳥の方法を思い付いたわ!!」
と拳を握り締め立ち上がると
「お転婆も程々にしてくれんかの〜ぅ...」
最近癒やしは妹に求め、私のお守りをしている感が強い祖父が嘆いた。
「うお〜い?誰も居ねえのかぁ〜?」
偽親計画が一段落していると店の方で野太い声がする。
皆で行ってみるとそこに居たのは、公国では珍しい普段見ることのない鉱人種だった。
「いらっしゃいませ。本日はどういったご要件でしょうか?」
そう言ってアレクが対応する。因みにサリアは現実逃避中である。
「俺ぁ見ての通りドワーフであちこち見て回ってるんだが、公国に来てからここが初めての大きな街でまとまった公国の通貨が欲しいんだ。」
と言って背負鞄から色々取り出し
「この中で売って一ヶ月分位の価値になるモンはあるかい?」
と聞いてきた。アレクが「拝見します」と言って一つづつ手にとっていく。
「これ、なぁ〜に?」
私は自分の見た目がまだ幼いのを利用して使い方を聞き出そうとしたら
「駄目ですよリア。奥で大人しくしてなさい」
「構わんよ。俺等の作ったモンがお前さん等に理解出来ない事位知ってらぁな」
商売人として真摯に(演技もしてくれ)対応するアレクへ不躾な態度を取るドワーフに、イラっとして私が抗議しようとするとアレクが手で制してきた。
眼の前のドワーフは一通り使い方を相変わらずぶっきらぼうに説明すると
「なるほど、大体理解しました...がここに有る物全部買い取っても一ヶ月分にはなりませんね」
そう言い切ったアレクの言葉に眼の前のドワーフは驚くと共に顔がどんどん赤くなり
「そんな訳あるか!?帝国なら三ヶ月以上は遊べる位価値の有るモンをテメェは買い叩くつもりか?!コッチの足元見るのもいい加減にしやがれ!!」
言葉を荒げるドワーフにアレクは
「ここが帝国なら売れたでしょうね。でもここはあなたがさっき馬鹿にした公国なんですよねぇ...物の価値を偉そうに語るなら場所も考慮しませんと」
ニッコリしながら言うアレク...(私以上に怒った?)そう疑問に感じていると
『アナタヲ侮辱シタカラデハ?』
と指輪に指摘され思わずアレクを見上げると、私の視線に気付いたアレクは
「大丈夫ですよ」
と優しく微笑みながら頭を撫でてきた。それを見たドワーフのおっさんは
「済まねぇ...あちこち行ってるクセに無知を晒してんのは俺の方だったみてぇだな」
そう言って眼の前に出した物を鞄に片付け代わりに銀塊を取り出した。
「ちょっと待って。さっきのクルクル回るの出して」
私の言葉にアレクが何か言おうとしたがそれを遮ってドワーフのおっさんに頂戴のポーズを取り
「アレで扇風機を作るの♪」
と言ってのける。案の定目の前のドワーフは
「センプウキ?何じゃそりゃ?」
聞いてくるドワーフに答えずアレクの方を向きながら私は
「パパ買って〜♪」
とお強請りのポーズを取る。アレクはため息をつき、私の意図を汲み取りドワーフに向き直り買い取りを申し出る。
「先程あのような事を言いましたが...娘が言った物を買い取らせてもらっても良いですか?」
「俺ぁ構わねえが、その【センプウキ】ってのを知りてぇ。公国じゃ普通に有るモンなのかい?」
ドワーフが喰い付いたのを確信し、ほくそ笑む私を見てアレクは
「はぁ〜〜〜〜〜〜」
先程とは比べ物にならない位大きなため息をつき、ドワーフを見据えながら
「あなたも私と同じ穴の狢になるんですね...」
と伝わらない表現を口にした。
「意味が分からねぇんだが...?」
そんなドワーフに私は嬉々として扇風機の仕組みを伝えると
「へぇ〜!?そいつは便利だ!バラト民国に持ってきゃ馬鹿売れしそうだ♪」
悦びながらドワーフは
「そういや自己紹介してねぇな。俺の名はゲビックだ。ヨロシク頼むわ」
そう言ってアレクと私に握手を求めてきた。私は握手しながら
「ヨロシクするなら扇風機を作るのに材料揃える間、公爵家で寝泊まりしない?」
「おっ!?良いのかい旦那?」
私の誘導に嵌ってる事を知らずにアレクを見てくるドワーフに
「構いませんよ。宿泊代は制作費でチャラにしますね」
「ほぉ〜!?商人とは思えない気前の良さだな!娘を溺愛してんのかぁ?」
アレクが気さくに話している事実に気付かず豪快に笑うドワーフに皆が冷たい視線を向ける中、後方に気配を感じ振り返るとサリアが柱から半分顔を出し小声で
「ご愁傷さま」
と言いつつ仲間が出来たと思ったのか小躍りしていたが...置かれた状況が変わらない事に気付いたのだろう。
虚しくなって柱に抱きつき涙を流し始めた。
この話以降【精霊魔導核】を【精霊核】と呼びます。




