4話 リア=クードル爆誕
「惚けて」と読む事が多いかと思いますが「惚けて」にルビ振ってます。
「アレク〜」
屋敷の裏口から厨房にやって来た出入りの商人に私は声を掛け歩み寄る。
「これは殿下、ご機嫌麗しゅう御座います」
恭しくお辞儀してきたアレクに小声で
(リアって呼んでね。パパ♪)
と囁くと
(本当にやるんですか?)
とアレクはかがみ込みながら小声で聞き返して来た。
そんなアレクに私は無言で距離を取って振り返り片目を瞑るとアレクは片手で額を抑え天を仰いだ。
ガラガラガラガラ...
「お尻が痛くなるわね」
馬車に揺られながら車窓の外で歩いているお付きの二人を眺めていても気は紛れなさそうだ。
「それなら代わるかい?お嬢」
「馬鹿も休み休み言え!ずっと脳筋だな!お前は!!」
「馬鹿って言うな!アベルって呼べよ。カイン」
相変わらずお決まりのやり取りをしている二人に
「二人共あまり目立っちゃ駄目ですよぅ」
とクレアが言うとそれを聞いたアレクが
「どちらにしろ目立つからいっそこの方が...」
と顔を引き攣らせながらボソボソこぼした。
まぁ普通の貴族が商人に偽装しているより、貴族らしくない振る舞いの方がバレにくいと判断したのだろう。
「いつも苦労かけるねぃ、おとっつぁん」
「それは言わない約束でしょ」
私のおふざけにクレアが答えアレクは珍妙な顔をする。
「...それ...やらないと駄目ですか?」
「「ダメ〜♪」」
と声を揃えて言うと
「はぁ〜〜〜〜」
と特大のため息をついたアレクに私達は声を揃えて笑った。
馬車の外ではアヴェイルが
「中は楽しそう」
と羨ましげに言い、それを見たカーウィンが
「やれやれ」
と嘆いていた。
「確認取れました。クードル商会の皆様、お通り下さい」
丁寧な門番に促され隣接都市インバスの門をくぐり、無事商会の支店に到着する。
「やっと着いたぁ〜」
馬車を降り大きく伸びをしながら周りを見ていると、皆も思い思いに身体をほぐしている...そこに店の奥から一人の女性が出てきて
「お疲れ様です。旦那様」
と言って出迎えた。
「ただいま、サリア」
と言ったアレクに合わせ
「ただいま、ママ♪」
と言って私は店の奥に駆け込む。
ママと呼ばれた女性は
「はぃ?」
と素頓狂な声を出しアレクと私を見比べる。
アレクはサリアの手を取り店の奥に入った私を追いかけながら
「何の説明もなくそんな事言ったら彼女が混乱するでしょう!!」
と言って来たので私は
「そのまま手を繋いで神殿に行けば半分は本当になるじゃない♪」
と言ってあげたらアレクは「あっ!!」と言って手を離し顔を赤くした。一方サリアは
「嫌ですよぅ!旦那様の事、尊敬はしてますケド優柔不断な男は苦労すると母に言われ育ちましたからお断りします!」
………ドサッ………
崩れ落ち四つん這いになるアレクに私以外の三人がそっと背に手を置き私を見ながら「お疲れ様でした」と憐れんだ。
私は後頭部を掻きながら「失敗しちゃった♪」と惚けてみたが...
アレクは恨めしそうに睨め付け従者達は首を横に振っていた。
私は深々と頭を下げ「ごめんなさい」と真摯に謝るしか無かった。
「公女殿下!?」
鬘を外し白金髪が露わになるとサリアが私だと気付いた。
「2年前に偶然出会っただけなのに、良く覚えていましたね」
普段交流のない人に公女殿下と呼ばれた事で口調が貴族になってしまったが、なぜ私が此処に来たか説明するには丁度良かったのでこのまま話す事にした。
大まかにはアレクに説明させ私は不足があれば補完する程度に抑える。
内容としては要約すると
1.私がお忍びで外出する時に隠れ蓑が必要
2.上記を満たすのにアレクセイ(パパ)サリア(ママ)私(二人の娘)の設定でヨロシク♪
...って事である。
「...って事である。じゃ無いですよう!!何かあっても責任取れませんよう...」
勢い良く反論しながらツッコミを入れ、後半泣きが入る辺りクレアに似ている。いや平民でコレは才能有りでは...?
「何の才能か分かりませんが嬉しくないです。普通に怖いですぅ」
...声に出てたみたい...あと単に敬語に不慣れだからかと納得しつつ
「そこまで怖がる事無いわよ。私がお忍びで視察してる時にどうしても大人の手が必要になったら、その時だけ助けてくれたら良いから。勿論報酬は出すわ」
私の言葉に「報酬...ですか?」とサリアの顔色が変わった。
具体的にどれくらいか聞いて来たので答えたら「安ッ!?」即答してきた。
「仕方ないでしょ!貴族と言えど子供で普段外に出る習慣が無いのに資金繰りなんて不可能よ!!」
「仮にも公女殿下が報酬なんて事口にしたらソレナリの額期待するわよ!」
「平民が貴族に恩を売れるなんて滅多にない名誉な事なのよ!」
「名誉で腹は膨れません!!」
「そこまでーーーーーーーーーー!!!」
私とサリアの不毛な言い争いにアレクが待ったをかけた。
「サリア(不敬罪)怖くないの?」
アレクの言葉に
「何がですか!」
と恐怖心と共に疑問符すら忘れている彼女にその場に居る全員が
「「「「「不敬罪」」」」」
と声を揃えて言うと
「怖いですーーーーーぅーーー−−−…」
頭を抱えしゃがみ込みながら顔を青くして、後半消え入る声で叫んでいた。
当然サリアが親子計画に賛同したのは言うまでもない。
10歳となり今まで以上に動き辛くなる為、ストレス発散に外出用の身分が欲しかったのだがこれで確保出来た。
『ヨカッタですね』
精霊魔導核が魔力回路を使って語りかけてきた。
『そうだけど...アナタの為でもあるんだからね!』
他人事のように言ってきたのでそう念話を送ると
『有難うゴザイマス』
とやはり薄い感情で念話が返って来た。
まぁ...これで私が【リア=クードル】として動けるようになったので良しとしよう。
これから男装する事で自分が女性である事を忘れない為にも...
クードル商会は表向き公爵家のお抱え商人です。




