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トンチキ異世界の短編集

古の聖具は初期iPhoneでした

異世界でもWi-Fiは繋がる、のゆるい続きみたいな感じです。


「聖女様。どうかご覧ください」


わけもわからないまま突然召喚された私はぽかんとした顔で祭壇の前に座り込んでいた。

いまだ状況が飲み込めない私の前に、大司祭らしき男が厳かに差し出したのは…見慣れた形の黒い長方形だった。


「……えっ」

思わず声が漏れた。


「こちらは古の大聖女様が用いておられたとされる聖なる石板でございます」


 ……いや、どう見てもiPhone。それも初期型。小さいな。


「え、聖なる石板って、これ、iPhoneですよね!?しかも古の…って」


周囲の兵士や神官たちは真剣そのもので、誰も突っ込まない。


私はただ一人「古いっちゃ古いけどせいぜい2010年代のやつだって!」と心の中で叫ぶしかなかった。


ーーーー



「長き年月の間に、石板は沈黙してしまいました。しかし……」

大司祭が横に置かれた細い紐のようなものを示す。


 ……Lightningケーブルじゃん。


「この石板の尾が戻りし時、再び聖なる光を宿すと伝えられております」


「え…ただの充電…ケーブル……」


呟いたが、誰も聞いちゃいねぇ。

兵士が恭しく赤く輝く石――魔石を持ってきたので受け取り繋いでみる。


しばらくしてリンゴマークが出てきた。


「光った……!」「聖女様がお命を吹き込まれた!」

ざわめく広間をよそに、私は心臓が跳ねるのを感じた。






やがて画面が立ち上がり、見覚えのあるアイコンが並ぶ。その中にひとつ、メッセージアプリが開きっぱなしになっていた。

震える指でタップすると、日本語が表示された。

そこには…



「帰ろうと思って色々試したけどダメだったわ。でも意外と楽しくやってます。これを見れるって事はあなたも日本から迷い込んだのかしら?大変だったわね、お疲れ様。ちなみにネット環境だけは抜群よ。検索はできるわよ。発信はできないけど。そこそこ楽しくやっていけると思うわ。」


思わず笑ってしまった。

これを書いた人――つまりこのiPhoneの持ち主は、私と同じ日本人だ。

そしてこの異世界に召喚された“前任者”でもある。






私は周囲に気づかれないよう、こっそり画面を操作した。

すると、メモアプリにひっそりと残された文章を見つける。タイトル項目に


「誰もいないときに読んでね。」

とあったのでこっそりと読んでみる。



「私はこの世界で多分今も生きています。エルフの森を通ったせいで、時空がずれているみたいで、なんか1年が50年くらいになるみたい。くわしく調べてないからわからないんだけど、みんなには「古の聖女」と思われているけれど、実際にはそんな昔じゃないの。気楽に生計を立てる術を見つけたから大丈夫よ。もし面倒くさくなって逃げたくなったら……位置情報を共有できるようにしてあるから探しに来て。私、スマホ二台もちしてたのよね。」


私は思わず固まった。


「……え、まじで今も生きてるの?」


画面の隅で、「現在地を共有しました」という通知が点滅している。





「聖女様が神託を受けておられる……!」

周囲は私の沈黙を勝手に解釈し、ひざまずく。


私は思わずiPhoneを抱きしめ、空を見上げた。


さて、どうしようかな。


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