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プロローグ カグサメ・レイラ 

「"傭われ"」

金により依頼を受け、仕事を行う何でも屋達の通称。

傭兵統括組織"ギルド"を通じて派遣され、A~Fまでのランクで評価される。

  ──────────────────

      カグサメ・レイラ 11:00

        荒廃都市 森林地帯

  ──────────────────


「──だからさぁ、やっぱりアレは無いって本当にぃ」


通信回線から女の声が聞こえる。

明るく朗らかな声……俺の相棒の声だ。


俺は今、"依頼"の指定ポイントに到着するまで、人型駆動兵器"ヴァリアント・ドール(通称:VD)"に乗り込み、VDごとドローンで輸送されている最中だった。

眼下には、木や植物といった緑色達が、アスファルトや廃墟となったビルを侵食し、鳥や鹿といった野生動物がその中を練り歩く……そんな景色が広がっている。


その流れる景色を尻目に行うのは、いつものしょーもない雑談。

…………聞いていてとても心地が良い。リラックス出来る。


「……なぁ、聞いてた?」


「……あぁ聞いてたよ」


俺は相棒に返事する。


「最高難易度を最強武器で無双してやるって息巻いてたら、まさかのラスボスが武器関係ないイベント戦だったせいで結局クソムズくなった…って話だろ?」


「お前今日ずっとその話してんぞ……」


「いやマジで、一回やってみたらわかっから。ラスボスでいきなり激ムズの音ゲーやらされるとかあり得ないから!マジで!」


「というか何で一ミスしただけで即死しなきゃいけないのよもぉぉぉぉ!」


「あーはいはい…………どうでも良いけど…」


「えっ今どうでも良いっつった?」


「…………そろそろ着くぞ」


「……あぁ……りょーかい」


そうこうしている内に、降下ポイントに到着したようだ。


相棒が、かけている眼鏡の位置を直した。


着地に備える。


「……気を付けてね。レイラ」


「……分かってるさ。オーカ」


俺はポケットから飴を1本取り出す。


そして包装を口で引き剥がし……


……包装の取れた飴を咥えた。


「仕事の時間だ」


  ──────────────────

      カグサメ・レイラ 同刻

  荒廃都市 森林地帯 ラストガイズ本拠地付近

  ──────────────────


「……おーっ、これはずいぶん派手にやってんなぁ」


降下ポイントから少し進んだ先、俺は荒廃都市の森林地帯にある、とある"ジャンカーズ"の拠点を望める場所に到達する。


遠目に見えたそこは既にジャンカーズ達が争う戦場だった。

大量の歩行型戦車"ウォーカー"が入り乱れて戦い、さながら銃声と爆発のカーニバルだ。


今回の依頼は、ごくありふれたものだ。

荒廃都市を中心に活動するならず者達、ジャンカーズ。

ソイツら同士の抗争に手を貸して欲しいというものだ。


「クライアントは……アレか」


今回の場合はジャンカーズグループ"ラストガイズ"からの救難要請。

ここは奴らの本拠地だが、どうやらかなり押され気味らしい。


オーカから通信が入る。


「もしもーし、レイラ」


「今スキャンしたところ、もうだいぶ本拠地内部に入り込んでる奴らが居るっぽいね」


「まずはソイツらから掃除しようか」


オペレーター役のオーカがマークした敵の位置がHUDのレーダーに表示される。

数は10体程。とっととやっちまおう。


「了解」


本拠地に向けて俺はVDを走らせた。


  ──────────────────

      カグサメ・レイラ 同刻

      ラストガイズ本拠地内部

  ──────────────────


本拠地に入り込むと、すぐに標的の姿が目に入る。

二足タイプ、最もオーソドックスなタイプのウォーカーだ。非戦闘員が隠れているシェルターへ銃口を向けている。


クライアントを殺られる訳にはいかない。俺は素早く標的へ駆け出し……

背部のブレードをしっかりと引き抜いた。


日本刀型の刀身。その刃にあたる部分が、翡翠の光に染まっていく。


俺は手に持ったその"プラズマブレード"を……


標的に、振り下ろした──


──ズシャァッ!


融解した鋼鉄が赤い一本線を引く。


じきにその線は2つに分かたれ……


ウォーカーを、真っ二つに両断した。


「まずは1体」


そう呟くと、クライアントに通信を入れる。


「……依頼の確認だ」


「依頼内容は本拠地の防衛及び敵ジャンカーズの排除」


「報酬は基本報酬が10000ミダス。ウォーカー1体につき1500ミダスのボーナスだ」


「……問題無いな?」


クライアントから返信が入る。


「あぁ、問題無いぜ、"傭われ"さん」


「"クラスA"のお手前、拝見させて貰おう」


HUDを見ると、ここから近い地点に3体標的が居るようだ。

次はそこへ向かって駆け出した。



………………



…………ポイントに着くと、3体の敵ウォーカーが無造作に拠点を攻撃していた。

無防備なことだ。まずは一番近いのから素早く切り捨てていった。


お仲間が真っ二つにされてようやく気付いたのか、残りの2体がこちらに銃口を向ける。しかし……


「遅い」


俺はブーストを吹かして素早く2体に近寄ると、そのまま1発も撃たせる事なく2体とも纏めて切り捨てた。


さて、次は……


次の標的の元への移動中、回線が混線したのか敵ジャンカーズの通信が聞こえてきた。


「──れだ……!」


「"傭われ"だ!ラストガイズの奴ら、"傭われ"を呼びやがった!」


「何だと!?クラスは!?」


「Aだ……!アイツ、最近Aになったっていうあの……!」


「クソォ……この成金共がァ……!」


「やむを得ん、"戦車"だ!"戦車"を出せ!」


「あの成金のクソ共を、纏めて轢き殺してやれ!!!」


………戦車とは、ずいぶん豪勢なおもてなしだな……


俺はオーカに通信を入れる。


「おい、聞いてたか?」


「えー、あたしも出なきゃダメぇ?」


「戦車位レイラ一人でなんとかなるでしょー?」


「いや、まぁ、俺一人でもなんとかなるけどよぉ……」


「……お前だっていっぱしの"傭われ"なんだ、こういうとこで経験積んだ方が良いんじゃねぇのか?」


「……だいたいお前、実力的にはランクB行けるのに未だにランクCなのって───」


「あー、わかった。わかったってもー……」


オーカはため息混じりに準備を始めたようだ。


……さて、もうすぐ──


「うわああああ!」


そこで、物陰から敵ウォーカーが飛び出してきた。

ひたすらにバルカンを乱射しながら突っ込んでくる。


奇襲のつもりか?……甘いな。


俺はその弾丸の雨を難なく躱す。

そして左手で腰からハンドガンを抜き、敵ウォーカーのバルカン目掛けて2発撃った。


「あぁ…!武装が……!」


武装を壊されて怯んだようだ。その隙を逃さず素早く刈り取る。


……そうこうしている内に増援が寄ってきたようだ。

5体。残りの本拠地に入り込んだ奴ら全員が、辺りを取り囲むようにレーダーを埋める。


良いね。わざわざ出向かなくて済む。

まずは……アイツを"使おう"。


俺は最も他の仲間から外れた1体に向かって詰め寄り、背後に回った。


確実に無力化するために、そして、"殺してしまわないように"、ジェネレータだけを上手いこと潰しておく。


すると他の敵ウォーカーが姿を現した……だが、撃ってくる様子は無い。

それもそうだ、なんせ俺が盾にしているのは、お前等のお仲間なのだから。


しかし"ここ"ではその迷いが死を招くものだ。


俺はすかさずハンドガンを数発、最も左に居た敵ウォーカーに倒れるまでブチ込む。

その後に続き、すぐ隣に居た奴目掛けてマガジンの残りの弾を使って正確に武装や関節を撃ち抜いて無力化する。


「……うっ、撃てっ、撃てぇぇぇっ!」


「ま、待ってくれ……!」


冷静と言うべきかただの自棄と言うべきか、残りの2体が一斉に弾丸の雨を降らせる。


「あああああっ──!!」


しかし当然俺には殆ど当たらない。


代わりに俺の盾が穴だらけになった。


……あーあー、カワイソーに……


俺はそんな事は気にも留めず、盾と一緒に2体に向かって距離を詰め、そのうちの1体をブレードで貫く。


そして貫いたブレードを捻り込み、思いっきり横に薙いだ。

その勢いでもう1体も横一文字に両断される。


……ウォーカーの残骸の、崩れ落ちる音。


世界に、静寂が訪れた。


これで、10体。


クライアントから通信が入る。


「よくやってくれたな」


「まだ外にも何体か居る。引き続き仕事を続けてくれ。ここはもう大丈夫だろう」


「……いや、まだだ」


俺は音響センサーがもう1体の反応を捉えた事に気付いた。


……今更来たのか。

位置はすぐ後ろだ。俺は振り向いて銃を構え────


──その時、一つの轟音が響き渡った。


馴染みのある轟音だ。


方角は俺が来た方向。一つの閃光が流れ星の様に飛んでくると……


……目の前に居たウォーカーに当たり、それをド派手にフッ飛ばした。


"めまい"がするような衝撃。


その後に残っていたのは、上半身の消し飛んだウォーカーだけだった。


……俺は、その元凶へと通信を入れる。


「よぉ、早かったな」


「……オーカ」


俺が来た方角の空を見ると、VDが1体見えた。

輸送用のコンテナヘリの中に乗り込みながら、"ヘビースナイパーライフル"を構えている。


「……んふふ~、いやぁ~相変わらずあたしの狙撃は冴えてるねぇ~」


馴染みのある声だ。戦場の中であっても心が安らぐ。


「お前、相変わらず"それ"好きだなぁ?」


「ん~?良いでしょあたしの"ディズィー"ちゃん」


「やっぱり、火力こそ正義!ってね」


「……お前、あの"おっさん"に毒されてきてねぇか?」


「まぁ良いけど、それ、結構弾代かかるんだ。……外すなよ?」


「……だーれに言ってんの。しゃあ行こー!」


俺は本拠地周辺の敵を掃討しに行った。


  ──────────────────

   数日前 カグサメ・レイラ 13:00

      ラストガイズ本拠地付近

  ──────────────────


廃ビルの立ち並ぶ森の中を駆けながら、目についた標的を1体1体排除していく。

上空に居るオーカによるスポッティングのお陰で索敵も楽だ。


撃って、切って、撃って、切って。

時たまウォーカーが勢いよく爆ぜる。オーカの狙撃だ。


そうして順調に掃除を進めて行くと……


「レイラレイラ、来た!来たよ!」


オーカから通信だ。


「6時の方角……戦車だ!」


オーカのVDのカメラ越しに、俺もそれを視認した。


VDを遥かに越える巨体に、多種多様の火器、そしてブ厚い装甲を身に纏った、"動く火力支援基地"。

間違いない。戦車だ。


ジャンカーズ製だけあって、見た目は少し小汚なくみすぼらしいが、決して侮ってはいけない。

事実、ソイツは周囲に居る俺の味方のウォーカー達を薙ぎ倒しながら、本拠地へ向け前進している。


「さーて、本日の主役のご登場だ」


「準備は良いか?オーカ」


「オッケー……で、あたしはまずどうしようか?」


オーカへ軽く指示をする。


「まずは向かって右側のバルカンやら火砲やらを幾つか撃ち落としてくれるか?」


「俺がそこから張り付く。できたらそんときにでも俺を通して、火器管制システムをハッキングしてくれ」


俺は懐の"ハンドグレネード"を確認する。


ファイアーワークス製の特別な奴だ。ハンドグレネードとは名ばかりのデカさだが、威力は折り紙付き。


……持ってきて良かった。


「あ、一応言うけど、不用意に近寄んなよ?分かってるとは思うが……」


「りょーかい。じゃあ……」


「ああ……行くぞ!」


俺はついさっきまで咥えていた飴を噛み砕くと、戦車の右側へVDを走らせる。



………………



「轢き殺せェ!撃ち殺せェ!あのクソ成金の羽虫共は皆殺しだァァ!」


……しばらく走ったとこで、戦車を目視した。凄まじい程の弾幕をバラ撒いている。

流石にアレを喰らえばVDなんて一瞬で御陀仏だろう。俺の様な軽量級なんて特にだ。


「リーダー!VDだ!あそこに"傭われ"が居る!」


「何だとォ?……集中砲火だッ!蜂の巣にしろォ!」


「……こりゃマズい」


あの凄まじい弾丸の雨が、俺に向けられた。

俺は廃ビルの陰に隠れて、戦車からの射線を切る。


「リーダー!ヤツが見えません!」


「全くちょこまかと……聞いてるかァ!?犬共ォ!」


「あの"傭われ"を引きずり出せェ!なんとしてもだ!」


戦車に随伴する敵ウォーカーが、こちらに集中する。


全く面倒極まり無いな……


俺はビルからビルへ、戦車からの射線を最大限注意しつつ動き、ウォーカーを撃破する。

……ウォーカーの相手をしつつも、時折戦車に対しての"挑発"も忘れない。


「あッッのクソボケがァァァ……!!!」


「殺す……!!ブッ殺す……!!!」


……そうだ。それで良い。

こっちに意識が集中しているなら……


そう思った矢先、"ディズィー"の銃声が何度か聞こえてくる。

どうやらちゃんと全部当てたらしい。戦車の武装が何個か爆ぜて落ちるのを確認した。


「何だァ!?もう1体だとォ!?」


「う、上です!あのコンテナヘリにもう1体"傭われ"がいます!」


オーカがやってくれたようだ。このチャンスは逃さない。


「チイッ……!あ、あのクソヘリを……」


「リーダー!"ヤツ"が……!」


俺はブーストを吹かして"戦車"へ特攻を開始した。


「ど、どちらを撃てば……!」


「クソォ……!!!」


「ち……地上に居る奴だ!アイツを早く……!!」


まだ多少の武装は残っていたが、この程度なら充分避けられる。


「ダメです……!弾幕足りません!」


……よし、今だ……!


ある程度近づけたのを確認すると、俺は"戦車"の上側に飛び付き、ブレードを勢いよく突き立てる。


「張り付かれましたァ……!」


「どうにかして振り落とせェ!」


「ど、どうにかって……!」


……が、流石に硬い。


これだけでは致命打にはならなそうだ。


「犬共は何をやってるんだァ……!!!」


流石にこれ以上は危険と判断し、一旦離れようと思ったその時だった。


「……なんだ?」


……あれ程辺りに弾丸をバラ撒いていた"戦車"が、突然沈黙してしまった。


オーカの通信が入る。


「今だっ!」


「……!ナイスだオーカ!」


どうやらハッキングに成功したらしい。流石だ相棒。


俺はさっきブレードを突き立てて出来た装甲の穴を更に広げる。

そして、懐からハンドグレネードを取り出すと……


装甲の穴へ、勢いよく突っ込んだ!


急いでその場を離れる。その後に訪れたのは───


──刹那の静寂。


──眩い閃光。


──凄まじい衝撃。


……戦車が、轟音と共に、吹き飛んだ。


機体のあちこちから火を吹き出し、炎上している。


……しばらくして、敵ジャンカーズの通信が聞こえてきた。


「───戦車が…………落ちた……」


「……撤退。撤退だ……!」


「もしまだ生きてる奴が居るなら…今すぐ撤退しろ……!」


「戦車が……戦車が落ちた!」


「リーダーが……やられた!!」


「俺達の負けだ!撤退しろ!」


「繰り返す──!」


オーカが喋りかける。


「ふー、終わった終わった~」


「どんなもんよあたしのハッキングは~」


俺は返事をする。


「ああ、相変わらず凄ぇよお前は」


「んふふ~でしょ~でしょ~」


「なんてったって、あの一瞬で火器管制システムどころか"メインシステムも含めた全システムを掌握しちゃったんだからね~"」


「あー凄ぇすげ……はっ?」


「ん?」


「お前今なんつった?」


「え?いや……」


「"火器管制システムだけじゃなくて、メインシステムを含めた全システムを完全掌握出来た"……って……言ったけど……」


「…………それさ」


「"わざわざ撃沈しなくても良かった"って事じゃあ……」


「…………あ」


「…………」


「…………」


「…………てへ」


「………………」


「…………帰るか」


クライアントから通信だ。


「ブラボー、ブラボー」


「流石クラスAだ。高い金を払うに値するぜ」


俺は報酬の清算を行う。


「……今回の報酬だが……」


「まず、ウォーカー30体で45000ミダス。」


「あの戦車は……そうだな。20000ミダスってとこか」


「基本報酬の10000ミダスと合わせて75000ミダスだ」


「支払いは期日までに済ませろよ。……せっかくのクライアントをハジきたくはないからな」


「……ああ、それで良い」


「今日は助かったぜ。"灰色の狼(セリィヴォルク)"さんよ」


オーカの乗るコンテナヘリが着陸してくる。

それに乗って、俺もその場を後にした。


………俺の名はカグサメ・レイラ。クラスAの"傭われ"。コールサイン、セリィヴォルク。


「仕事、完了だ」


……これが俺の……"傭われ"の日常だ。



………………



……俺は今、コンテナヘリの副操縦席の上で新しい飴を転がしてのんびりしていた。

操縦席にはオーカが座っている。といっても、ヘリは今オートパイロット状態なので、彼女も操縦桿から手を離しゆったりしているが。


そうしてしばらくすると、いつの間にか辺りの景色には灰色と錆色が広がってきた。

どうやら森林地帯を抜け、市街地帯に入ったらしい。


「"荒廃都市"ねぇ……」


荒廃都市。

それは、かつて栄えた国の夢の跡地。曰くその国は"神の叡知"を得たのだという。

当時の技術レベルを遥かに越える技術の数々。それは正に世界をも掴む事の出来る力であった。


しかし、強すぎる力を得た者というのは、得てして驕り、破滅してしまうものだ。


今から50年以上前。その国は突如滅んだ。他でもない、神の叡知そのものの手によって。


……ふと、真下の景色に目を向ける。

なにやらパチパチと光る閃光が見えたからだ。


「……おっ、相変わらずやってんな……」


そこに見えたのは、ジャンカーズ達だ。何かに向けて銃を撃っている。

彼らが行っているのは狩りだ。しかし標的は野生動物ではない。


彼らの銃口の先に居る者。それは──


「"アニマータ"かぁ……あたし達も昔ちょっとだけ狩った事あったよね」


「ああ……足元見られて安く買い叩かれたけどな」


アニマータ。かつて栄えた国の、最も象徴的な神の叡知。

それは人間大のサイズの、動く機械人形だ。人格を有し、感情を有し、自立し思考して会話が出来る知性を有する、機械の人形。


「せめてカタコトでも話せるヤツが居れば、そりゃあもう高値で売れたんだが」


しかし、今存在するアニマータと言えば、どれもこれも壊れてガラクタになったものか、人格らしい人格を失ってただひたすらに人間を襲うだけのものしかない。


人格を持ったロボット……なんて、最早夢物語の域だ。


「にしても、人格持ったロボットかぁ……夢、あるよなぁ……」


「そういやアニマータ関連の技術って完全にロストしちゃったんだっけ。本当に今の技術でも直せないの?アレ」


オーカが虚空を指で弾きながらそう訊いてくる。


「ああ。少なくとも俺は直せたなんて話は聞いた事がない。……ま、正直アニマータの技術はロストしたままにした方が良いと思うがな……」


「どーして?リアル青ダヌキとか欲しくないの?」


「あ、青……?…………いやそれはともかく……」


俺は前に放り出した足を引っ込めて体を起こし、咥えていた飴でオーカを指した。


「だってお前、人格を持ったロボットだぜ?絶対面倒な事になんだろ」


「面倒?」


「人らしい機械なんて歪なもん、どー扱えってんだよ。人か?機械か?……もし機械の人権を認めろなんて事になったらアホらしいぞ?」


「機械ってのは結局道具だ。道具なんぞに意志持たれちゃあ、たまったもんじゃねぇよ」


「んー……ま、それもそうかぁ……別に今の時代わざわざアレ作る必要なんかないもんねぇ…………あむっ」


突然、指で挟んでいた棒の感触が消えた。


「あっ、おい……」


「んふふ、もーらひ」


どうやらオーカに飴を持っていかれてしまったらしい。


「それ、食いかけだぞ」


「ひってふ」


「…………」


俺はポケットから新しい飴を取り出した。リンゴ味だった。


「……それに、もしかしたら昔のこの国だって、それで滅んだのかもしんねぇしな」


  ──────────────────

   数日前 カグサメ・レイラ 同刻

第6開発都市 スラム地区 ウーシェンズ・バベル

  ──────────────────


俺等が今向かっている所は、自宅ではない。

強いて言うなら"仲間"が居る所だろうか。


ここは第6開発都市。かの大企業"エクセラ・メカニクス"管轄の都市で、荒廃都市の南東側にある街だ。

煌びやかなビル群の立ち並ぶ"開発地区"、荒廃都市らしさを存分に残す"スラム地区"の二つの地区が同居する歪な街。


そのスラム地区にそびえ立つのが、この超巨大集合建造物"ウーシェンズ・バベル"。

違法建築を超えた違法建築の積み重ねにより、外観はさながらビルを積みまくったかの様な異様さであり、そして内部はまさにコンクリートの大迷宮だ。


俺達はそんな混沌とした建物の中を、上へ下へ、右へ左へひたすら歩いていた。


しばらくすると、紫のネオンが妖しく光る看板が特徴の、こんな薄汚い建物には到底似つかわしくない小綺麗なバーが現れる。


"レイヴンズネスト"。


俺はそのドアを開く。


「……ったっだいま~~!」


オーカがそう言いながら入っていく。


"鈍色"の左腕を元気良く振りながら。


……………


左腕……


「お~、オーカちゃん。お帰り~」


カウンターの奥のマスターがタバコを吹かしつつ返事を返す。


オールバック風の茶髪に、サスペンダーの付いた小綺麗なシャツスタイルの長身痩躯の男。


"ラーヴェ・フォン・レーツェルハフト"。


このバーのマスターであり、そして俺達を"傭われ"として勧誘し、また"傭われ"に必要な事を教えてくれた人だ。

……実の所、素性はよくわかんないが、少なくとも信用は出来る。


……ヤニ臭ェけど。


俺達はカウンターの席に座る。


「マスター、いつもの~」


「はいはい……あんたは?」


「俺もいつもので良い……なぁ、ところで……」


俺はマスターへ質問する。


「"おっさん"はまだ来てないのか?」


「え?ジモちゃん?……多分もうすぐ来るわよ。」


マスターがそう言うや否や、力強い足音を踏み鳴らし、一人の大男が入ってくる。


褐色の肌に、刺青入りのスキンヘッドと真っ黒なサングラス。

そしてサイボーグ化されたその両腕。


"ジモーニオ・デ・アルメイロ"。…これは本名じゃない。コールサインだ。

武器商人としての顔を持つ"傭われ"で、俺達は弾丸や装備の調達をこいつから行っている。


ジモーニオは入店するや否や、力強い声を響かせる。


「……お、なんだボウズ共、来てたのかァ?」


「よお、"おっさん"」


俺はポケットからスマホを取り出すと、それを振りながら言う。


「……今回使った弾薬だ。送っておいたから、補充頼むぞ。」


「ハッ、毎度。……で?どうだった?」


……質問の意図はわかってる。しかしあえて聞き返してみた。


「……何の話だ?」


「……"本日のオススメ"だよ。」


「使ったんだろォ?あのグレネード……」


「あぁ……それは……」


「あー!あれ凄かったねぇー!」


オーカが割り込む。


「いやー、ジャンカーズ製とは言えよ?まさか戦車をやれちゃうとはねぇ」


「あぁ。手っ取り早く済んだ」


「ガハハそーかそーか。そいつぁあの花火師共も喜ぶだろうよ」


「……ところでよォ、ラーヴェ。"あの女"は?」


「そろそろコレ、メンテナンスしてェんだが……」


ジモーニオは両腕を叩きながら言った。


「……ロマちゃんならもう寝ちゃったわよ。……叩き起こそうなんて考えないでよ?」


「あー、わーッてるわーッてる……」


メンテナンス……そうだ。オーカの左腕も、そろそろメンテナンスしなきゃだったっけ……


「……にしてもさぁ~」


そんな事を考えていたら、酒をちびちび舐めながらオーカが話を振ってくる。


「最近多くない?ジャンカーズ達のわちゃわちゃ……」


「……あぁー……言われてみれば……」


「そういえば、ここんとこジャンカーズグループが内ゲバ起こして崩壊するみたいな話よく聞くな」


「……まぁ俺達にとっちゃ儲けになるんだ」


「ちっちゃいことは気にするなってな」


「アハッ、まーそんなもんだよねぇー。……さてと……」


オーカはグラスの酒を飲み終えると、席を立つ。


「……帰ろっか。ご飯食べよ?」


「そうだな。……じゃ、マスター。また」


「は~い、またね」


俺達は家に帰る事にした。


  ──────────────────

   数日前 カグサメ・レイラ 20:30

      第6開発都市 開発地区 自宅

  ──────────────────


「ふぅ。ごちそうさま」


「んふふ~、美味しかった?」


「ああ。旨かった」


俺達は開発地区にある家に帰り、晩飯を食っていた。


……まぁ家っつっても、建物のほとんどがVDとかコンテナヘリを格納する為の倉庫だから"家"と呼べるスペースはかなり狭いが……


それでも、俺達にとっちゃ居心地が良い。


確かに今ならもっと広い家にも住めるだろう。


それでも俺達はこれが良いのだ。互いの距離をとても近くに感じられる、この狭さが。


「…………」


オーカが満面の笑みで俺の顔をじっと見る。


「…………なんだよ」


「………いやぁ、いつも美味しそーに食べてくれてうれしーなーって」


「……そーか」


「うん、そう」


「…………」


……彼女をじっと見つめる。


編まれた美しい"藍色の髪"。


"多機能タクティカルグラス"の奥から覗く"琥珀色の瞳"。


そして頬杖をつくその左腕は……"鈍色の義手"だ。


……カグサメ・オーカ。


俺に名前をつけた人。


俺を助けてくれた人。


俺に安らぎをくれた人。


俺の大切な、大切な相棒。


彼女とならば、この無言の時間ですら、無限に過ごせる気がする。


そうしてまったりしていると……


「あ」


突然オーカが動き出す。


「そーだよ、まだラスボス倒してなかったんだった!」


バタバタとパソコンの置いてあるデスクに駆け出すとそのままゲームを起動した。


「しゃー……ぶっ飛ばしたらぁよぉ……ぶっ飛ばしたらぁよぉっ!」


「覚悟しやがれファッキンクソ音ゲー!」


……賑やかなもんだ。


……俺もVDの整備でもすっかな。


  ──────────────────

   数日前 カグサメ・レイラ 23:15

      第6開発都市 開発地区 自宅

  ──────────────────


……整備を終えてベッドでゴロゴロしていると、ずっとPCに齧りついていた彼女がようやく席を立った。


「はいクソー!クソクソのクソボスー!」


「8時間もてこずらせやがってー!バーカバーカ!」


彼女はそのままの勢いでベッドヘダイブしてくる。


「あ~……もう疲れた~……」


「……何で小技みたいな攻撃一回引っ掛かるだけでそのままハメ殺されなきゃならないのさ~……」


「……お疲れさん」


「ん~…………もう寝ようか」


「そうだな」


オーカは部屋を暗くすると、"いつものように"俺の懐へと潜り込む。


……俺の胸に、オーカが顔をうずめる。


俺は深く息を吸い込んだ。


……とてもいい匂いがする。心から安心できる匂いだ。


オーカの鼓動を感じる。オーカが側に居る。


ここが俺の帰るべき場所なんだと、そう、強く思える。


「おやすみ、オーカ」


「おやすみ、レイラ」


"ごく当たり前の、俺の日常"。


その1ページが、過ぎていった。


【カグサメ・レイラ】

コールサイン:セリィヴォルク

クラス:A

若くしてクラスAに上り詰めた凄腕の"傭われ"。黒髪のボサボサ頭で、右目が若干隠れている男性。

受けられる仕事の幅は広いが、特に潜入任務や要人の暗殺、誘拐等を最も得意としており、とある童謡に準えて灰色の狼(セリィヴォルク)と呼ばれる由縁となった。

棒付きのキャンディを咥えている事が多い。タバコが嫌い。

【搭乗VD】

機体銘:月影

重量:軽量級

エクセラ製とカグヅチ製の軽量ボディパーツで構成されたVD。非常に軽装で、レイラ本人の戦闘スタイルをフルで活かせるように、運動性能を重視した構成となっている。

銃による牽制を行いつつ、一瞬の隙を突いて強力なプラズマブレードによる一撃必殺を狙うのが基本戦術。


腕部武器1:「BHG65 ナインティーンイレブン」

バーセル製ハンドガン。シンプルな構造で扱いやすく高火力、そして安価。バーセル社のロングセラー。


近接武器:「KGPBD-20/MOD 月光」

カグヅチ製ブラズマブレードを元にレイラが改造を加えた特別なプラズマブレード。

日本刀型のフォルムをしており、元より高かった出力を更に向上。近接武器としては正に最強と言える火力を持つ。

ブレード本体に軽量化を施した分エネルギーが尽きるのも早く、連続使用可能時間は一分と持たない。なので頻繁に鞘に納めて充電しなくてはならない。

装備負荷もかなり高くジェネレータのエネルギー容量を凄まじく圧迫するため、これを装備するとその他の武器はほぼ装備出来なくなる。


特殊武装:「FWHGL62 フォルティッシモ」

ファイアーワークス製ハンドグレネード。

ハンドグレネードと言うにはかなりデカい代物だが、爆発力は同カテゴリとしては最強。


【カグサメ・オーカ】

コールサイン:グリッチボックス

クラス:C

レイラのパートナー。万能タクティカルグラスと左腕の義手がトレードマークの若い女性。料理が上手い。

藍色の髪を三つ編みにして1本に纏めている。

オペレーターとしてレイラのサポートを行う他、自らも僚機として出撃し仕事を行う事がある。

狙撃とハッキングの腕だけならAクラス相当。


【搭乗VD】

機体銘:玉兎

重量:軽量級

ボディパーツの構成はレイラのVDと同じくエクセラ製やカグヅチ製のパーツを使用したほぼ同じ構成だが、ヘッドパーツが狙撃に適したモデルに差し替えられていたり、追加装甲により機動性を落として防御力を上げている等の差異がみられる。

自身又はレイラのVDの一定範囲内、そしてライフルの特殊弾であるトラッカー弾を当てた標的をハッキングする事が出来る。


頭部「KGHD-7F タカノメ」

カグヅチ製軽量頭部。フェイスカバーを展開することで長距離狙撃に適したカメラへと変化する。


腕部武器1:「BHSR15 ディズィー」

炸薬を詰めた弾丸を発射出来る武器であるヘビースナイパーライフルの1つ。バーセル社製の単発式。

一発毎にリロードが必要だが火力の高さは据え置き、同カテゴリとしてはかなり軽量で精度はものすごく高く、更に炸裂弾以外にも徹甲弾やその他特殊弾丸がそのまま使用可能である。


腕部武器2:「BHG65 ナインティーンイレブン」

バーセル製ハンドガン。シンプルな構造で扱いやすく高火力、そして安価。バーセル社のロングセラー。


肩部装備「EXC/SRD-079 カナリア」

索敵力を強化するエクセラ製追加レーダー。検知範囲が広い。


近接装備「EXC/WBD-185 メイフライ」

エクセラ製ブレード。ナイフタイプで取り回しが良く切れ味に優れる。

左腕に仕込まれたワイヤーと接続されており、ムチのように振るったり高速で射出して装甲を貫いたり出来る。

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