エピローグ:世界を救った者たちの、それぞれの道
「はぁ……終わったわね」
学園の時計台の上で、私たちは夜空を見上げていた。
闇の存在は消え去り、世界は穏やかな光に満ちている。
しかし、その代償として、女神ミレイユの声は、私の脳内から完全に消えていた。
「女神様、お疲れ様でした……」
私は、心の中でそっと呟いた。
ポンコツだったけれど、彼女がいなければ、私たちはこの真実に気づくことも、世界を救うこともできなかっただろう。
隣では、ヴィオレッタが、覚醒したばかりの「闇を打ち払う力」を掌で弄んでいる。
その瞳には、もう迷いも恐怖もない。
「この力……まだ、少し持て余すけれど。もう、隠す必要はないのね」
彼女は、どこか清々しい表情で、夜風に髪をなびかせた。
ルミナは、私たち二人を優しく見守っている。
「ヴィオレッタ様、リーゼロット様。本当に、お疲れ様でした。
世界が平和になって、本当に嬉しいです」
彼女の聖なる光は、以前にも増して輝いているように見えた。
そして、私たちを追って時計台に駆け上がってきたアゼル王子、アラン、レイモンド。彼らは、疲弊しながらも、安堵の表情を浮かべていた。
「リーゼロット、ヴィオレッタ、ルミナ……君たちのおかげだ。本当にありがとう」
アゼル王子が、心からの感謝を込めて言った。
私たちは、その後、学園の異変について、適切な理由をつけて説明した。
真実を公にすることはできない。
しかし、学園長や一部の信頼できる大人たちには、最小限の情報を共有し、協力体制を築いた。
そして、私たちそれぞれの「その後」が始まった。
■◆■ リーゼロット(元悪役令嬢、今世ヒロイン) ■◆■
私は、引き続き「ヒロイン」として、学園生活を送っている。
王子アゼルや他の攻略対象たちからの好意は相変わらずだが、私はもう、ゲームのシナリオに縛られることはない。
前世の悪役令嬢としての知識と、今世のヒロインとしての立場を駆使し、学園や王国の小さな問題解決に奔走する日々だ。
時には、ポンコツ女神ミレイユが残した「世界のバグ」の痕跡を見つけ出し、こっそり修正したりもする。
「ヒロイン」という役割は、私にとって、世界をより良くするための「道具」になった。
そして、何よりも、ヴィオレッタとルミナという、かけがえのない友を得たことが、私の最大の宝物だ。
■◆■ ヴィオレッタ・ノヴァーリス(元悪役令嬢、真の勇者) ■◆■
ヴィオレッタは、学園を卒業した後、表向きは社交界から距離を置き、ノヴァーリス公爵家の領地で静かに暮らしている。
しかし、その裏では、覚醒した「闇を打ち払う力」を制御し、鍛錬を続けている。
彼女は、リーゼロットやルミナ、そしてアゼル王子たちと定期的に連絡を取り合い、世界のどこかで発生する「新たな闇の存在」の残滓や、神様のミスが引き起こした「世界の歪み」による異変を、人知れず解決している。
「悪役令嬢」というレッテルは、彼女にとって、もはや枷ではない。
むしろ、影で世界を救う「真の勇者」としての、誇り高き仮面となったのだ。彼女は、もう独りではない。
■◆■ ルミナ・フィリア(真の聖女) ■◆■
ルミナは、聖女としての務めを果たしながらも、以前よりもずっと人間らしい感情豊かになった。
彼女の「光の力」は、人々の心を癒やすだけでなく、ヴィオレッタの「闇を打ち払う力」を増幅させる、かけがえのない存在だ。
彼女は、ヴィオレッタの秘密を知る数少ない理解者として、定期的にヴィオレッタの元を訪れ、その力をサポートしている。
また、王都で慈善活動に積極的に参加し、その純粋な光で、多くの人々に希望を与えている。
彼女は、リーゼロットとヴィオレッタの、最も純粋な「絆」の象徴だ。
■◆■ アゼル王子(ヒロインを愛する王子) ■◆■
アゼル王子は、世界の危機を経験し、精神的に大きく成長した。
彼は、リーゼロットを深く愛し、彼女の言葉を信じ続ける「正義の王子」であり続けている。
彼は、表向きは王国の政務に励みながら、裏では、リーゼロットやヴィオレッタたちと協力し、世界の異変に対処するための情報収集や、騎士団の派遣などを秘密裏に行っている。
彼にとって、リーゼロットたちは、かけがえのない「同志」であり、この世界の真の守護者たちだ。
■◆■ アラン(公爵令息)とレイモンド(騎士団長) ■◆■
アランとレイモンドもまた、世界の危機を経験し、精神的に一回り大きくなった。
彼らは、リーゼロットへの好意は変わらないものの、彼女が持つ「特別な力」と、ヴィオレッタやルミナとの間に築かれた「特別な絆」を、漠然とではあるが感じ取っている。
彼らは、それぞれの立場で、王国を支え、リーゼロットたちの活動を間接的にサポートしている。
アランは情報収集や財政面で、レイモンドは騎士団を率いて治安維持に努め、世界の平和を守る一助となっている。
彼らは、知らず知らずのうちに、この世界の「真の物語」の一部を担っているのだ。
■◆■ (ポンコツ)女神ミレイユ ■◆■
女神ミレイユは、最後の神力を使い果たし、深い休眠状態に入った。
しかし、彼女の「ミス」によって生まれた世界の歪みは、完全に消え去ったわけではない。
時折、世界のどこかで、小さな「バグ」や「異変」が発生する。
それは、彼女が残した「世界の課題」であり、同時に、リーゼロットたち「三人の勇者」が、これからも世界を守り続けるための「使命」でもある。
いつか、彼女が目覚める日が来るのかは分からない。
しかし、彼女の「ミス」が、結果的にこの世界に、真の勇者たちと、かけがえのない絆を生み出したことは、紛れもない事実だった。