『見た目は天使、中身は男子』
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教室の前で、一人きり。
まるで取り残されたみたいに、ぽつんと立ち尽くす。
……この時間、この場に立ってるやつなんて他にいないのは分かってる。分かってるけど、それでも、もし誰かが通りかかったらって思うと……なんだろうな、この、やたらと気まずい感じ。
――何してんの?みたいな目で見られそうだし。いや、絶対見られる。そういう未来が見える。予知能力でも目覚めたのかってくらい、はっきりと。
そしてもう一つ、俺の胃をきりきり削ってくる問題がある。
すでに、俺が「転校生として来る」ってことがクラスにバレてることだ。
廊下の向こうから、こんな声が聞こえてくる。
「どんな子なんだろ~」「可愛いかな?」「ロリっぽかったら最高~」
……ごめんなさい、そんな期待しないでください。
見た目はともかく、中身はゴリゴリの男なんです。
ああもう、転校生ってのはどうしてこう、いちいちしんどいんだろう。
早く中に入りたい。でも入りたくない。
この矛盾が頭の中でぐるぐる回って、落ち着かない。
「おーい、転校生入ってこーい」
先生の軽い声が教室の中から聞こえてきた。
うん、分かってる。分かってるって。でもな、心の準備がまだ――
深呼吸。
それだけして、ドアノブを握る。
……開けると、世界が変わった。
視界の中、全員、女の子。
制服、髪、声――どれを取っても女子校という非日常の空気に満ちていた。
当たり前のはずなのに、どうしてか現実味がない。
ここが俺のこれからの生活の場所、ってだけで、心臓が変なリズムを刻み始める。
俺は、平静を装って一礼し、口を開いた。
「…………一ノ瀬、朱里です。よろしくお願いします。仲良くしてもらえたら、嬉しいです」
声は震えてなかった。笑顔も、まあ及第点だろう。
余計なことを喋るとボロが出る。だから、あくまで丁寧に、シンプルに。
理想は「空気」――それが俺の目標だ。
……だったはずなのに。
「今の子、やばい……!」「声可愛すぎ……!」「天使降臨……!」
――おかしい。空気とは。
こんなに注目を浴びる予定じゃなかった。
あ、沙耶と目が合った――って、無視された。……おおぅ。
「今、私に手を振ってたよね?」「いや、私でしょ?」
このノリ……女子校ってこうなのか。怖い。
「はーい、静かに~。じゃあ、一ノ瀬さんはそこの空いてる席ね~」
先生が示したのは、教壇から見て右奥。
……分かってた。分かってたけど。
その席、沙耶の隣じゃん。
席につく。
気まずい。どうしよう。今謝る? いや、それは唐突すぎて逆に変か。
なら、休み時間に――って思ってた矢先だった。
「引っ越してきたの?」「超かわいい~!」「今日放課後空いてる~?」
うわっ、きた。囲まれた。女子達の社交スキル高すぎない!?
心の準備なんて、間に合うわけがない。
「あ、あの……ははは……」
笑うしかない。というか、誰に何を答えればいいんだ? 誰か助けてくれぇ……!
「ごめんねー。この子、学園案内しなきゃいけないから、借りるね」
――沙耶だ。
また、沙耶が助けてくれた。
「ありがと……。でも、本当に学園案内なんてあるの?」
「あるわけないでしょ。困ってるの、見てられなかっただけ」
その言葉に、胸がじんとした。
「……ありがと」
「それに……あの時のことも、ちゃんと話したかったから」
「あの時?」
「朱里が……守ってくれた時。驚いたけど、嬉しかったよ。なんで、すぐ帰っちゃったの?」
「いや……なんか、気まずくて……。すぐ手が出るとか、男みたいだし。自分でもちょっと嫌で」
本当は“男みたい”どころか、“男”なんだけどね。
「あはは、たしかに見た目とギャップあるよね。でも、私……あれ、かっこいいって思った」
「えっ……」
「見た目すっごく可愛いのに、そういうとこあるのって、ずるいよ」
「ずるいって……」
「うん、ギャップ萌えってやつ? 私、憧れちゃうな~。私も、誰かを助けられるくらい強くなりたい」
……この子、ほんとずるいな。素直にそう思った。
「でも、ありがと。本当に。さっきは、それを言いたかっただけだから」
「うん……」
「それと、学園のことで困ったら、何でも聞いてね。何でも手伝うから」
……なんでもって、それは色々と語弊があるけど!?
「ありがと。頼りにしてる」
「うん、じゃあ――戻ろっか」
沙耶が微笑んだ気がした。
……少しずつ、ちゃんと向き合っていけそうな気がした。
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