『初日から気まずい再会とやる気ゼロの先生に囲まれて』
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「ふーっ……なんとかお姉さまを無事に学園まで案内できましたっ!ここは当然、褒めていただけますよねっ!」
俺の横で胸を張る乃愛。うん、そのキラキラした笑顔、眩しい。日差しよりも眩しい。
「えーっと、ありがとう。助かったよ」
「わーいっ!」
満面の笑み。素直か。お前は素直か。
まぁ、ここまではよく頑張ってくれたし、褒めてやるべきだろう。俺も大人だ。
「本当にありがと。おかげで安心して初登校できたよ」
「はいっ!では!」
乃愛はぴしっと姿勢を正して、頭を下げ──
「頭を、撫でてくださいっ!」
「は?」
「褒める=撫で撫で、ですっ。先輩は私のお姉さま!、なのでっ!」
何その謎理論。新手の宗教?いや違う、これは信仰じゃなくて……ただの甘えじゃねーか!
「……はいはい、よく頑張りました」
結局、頭をぽんぽんしてやると乃愛はめっちゃ嬉しそうに頷いて、名残惜しそうに俺の元を去っていった。
──さて、こっからが本番だ。
女子校。圧倒的女子率。四方八方女子。360度女子。
心を強く持て、俺。今日からここが俺の戦場なんだ。
そんなことをぼんやり考えながら、俺は職員室の扉をそっと開けた。
……まあ、当然ながら“都合よく声を掛けてくれる誰か”なんているはずもなく。
開けたところで世界は何も変わらないし、俺の困惑が消えるわけでもない。
職員室には先生らしき人たち、ちらほら生徒も見える。でも、探してる相手の見た目すら知らない。
正直、男子校だったら大声出して名前呼ぶくらい、なんてことない。いや、普通にやってた。
けど、ここは“お嬢様校”――少なくともそれっぽい空気の中に俺は立ってる。
しかも俺は今、見た目だけはどこからどう見ても“女子”だ。
そんなヤツが「○○先生いらっしゃいますかーっ!!」とか叫んだら、もうそれは学園デビューの黒歴史ルート確定。
お嬢様像に反する。完全に反する。絶対にやらない。いや、やれない。無理。
――というわけで。
俺は今、完全に迷子でウロウロしてる不審者に成り下がってる。
むしろ大声出して先生呼ぶ方がマシだったんじゃね?っていう葛藤を抱えつつ、声を出す勇気もない俺に救いの手は──
「……あれ? 朱里?」
聞き覚えのある声が俺の耳を打った。思わず反応する。
救いの女神が来たか!?と視線を向けると、そこには──
「沙耶……?」
最悪な意味で、心臓が跳ねた。
――いや、待て。まさか、なんでここで出会うんだ。てか、よりによって今!?
驚きと気まずさが同時に襲ってくる。俺、あの時……ちゃんと別れた記憶がない。
あれ以来、一生会わない覚悟でいたのに。完全に過去の人扱いしてたのに。
「うちの生徒だったんだね……。見たことなかったから、気づかなかった」
「……転校生なんだ。今日が初登校日。知らなくて当然だよ」
まるで何事もなかったように、当たり前の口調で答える俺。
平然を装ってるけど、内心は爆発寸前。マジで心臓がギリギリのラインを歩いてる。
「それもそっか。どしたの? 困りごと?」
「先生を探してるんだけど……見た目が分からなくて」
「あー、名前は?」
「綾小路しの先生って人」
「──マジ?」
「……え?」
「それ、うちの担任だよ。てか、もしかして同じクラスかもねー。まだ分かんないけど」
「…………え?」
なんだこの展開。
想像していたどんな最悪よりも、ちょっとリアルで、ちょっと笑えない。
「私も用事あるし、先生呼んでくるよ。待ってて」
「ありがと……」
――また、助けられた。沙耶にはいつも、そうだ。
「君が転校生ね。理事長から話は聞いてる。私は綾小路しの。2年C組の担任。まー、ダイジョブだと思うけど問題は起こさないようにね」
ふにゃっとした口調と、やる気が空に溶けていきそうな眼差し。
ツインテール、グレージュの髪、鋭すぎる三白眼に、微妙にギャルみのある見た目。
でもどこか儚げで、妙に浮世離れしている印象を受けた。
……率直に言って、最初は生徒かと思った。教師オーラ皆無。むしろ制服着てたら完全に生徒枠。
「気をつけます。今日はどうしたら……?」
「んー? えーとね、まあ、適当に過ごしといてー?」
「て、適当に……」
「うん」
「ちょっと、先生。真面目に言ってあげてください。転校初日なんですから」
沙耶がフォローに入る。ありがたい……!
「多分このまま先生といて、時間が来たら教室で紹介って流れになると思うよ」
「じゃ、それで~」
……先生、適当すぎない? 本当に先生?
「わかりました。沙耶さんありがとう」
「気にしないで。それじゃ、クラスでまた会おうねー」
肩越しに軽く手を振って、沙耶はスタスタと去っていった。
「……また後で」
聞こえるか聞こえないかの声で呟く。
目を戻すと、先生がイスにだらんと座ってこちらを見ている。というより、半分見てない。
この人、想像以上に……適当の化身だ。
「まー、分からない事あったら、あいつに聞いとけ。知り合いなんだろ? 親睦も深めて、一石二鳥、めでたしめでたし」
「……はぁ。そうですね。先生には聞かない方が?」
「出来ればなー。面倒だし」
即答かよ。
「先生、それでよく教師やれてますね……」
「だろー? こー見えて、ちゃんと頑張ってんのよ? 生徒の悩みも聞いたり聞かなかったり、自分の仕事もやったりやらなかったり~」
「教師って、楽しいですか?」
「ははっ。極稀にね。とっても大変な中で、たまーに訪れるその瞬間がある。それがあるから続けてる……って感じかな。ま、誰かにオススメはできないけどねー。どの仕事もそうかもだけど」
この人、ヘラヘラしてるようで案外、核心突いてくる。
「先生の負担にならないように頑張りたいと思います。何か困ってたら、俺にできることなら助けますので」
「自分から不幸に巻き込まれたいタイプ? 生徒はそんなこと気にしないで、適当にがんばれー。良き青春を~」
まったく油断ならない人だ。でも、ちょっとだけ好きかも。こういう大人。
「頑張ります」
「うむ」
そんなやり取りの中、予鈴が鳴る。
「んじゃ、ぼちぼち教室向かうかー。軽く自己紹介、考えといてー。最初が肝心だからねー」
ファイルをパタパタと仰ぎながら立ち上がる先生。
「自信はないですが……頑張ります!」
「ま、せいぜいスベらないように~」
スベるなって、それが一番難しいんだよ。
でも俺のミッションは、目立たず、騒がず、気配を殺して空気になること。
目立たない。それが俺の戦い方だ。
……よし、決めた。絶対に空気になってやる。
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ダウナーなやる気のない先生が好きでした