『女装してるだけなのに、“お姉さま~♡”って後輩が懐いてくる』
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初登校の日。天気は見事なまでの土砂降り。笑っちゃうほどに不運のスタートだ。
荷物はすでに寮へ送ってあるし、女装に必要なアイテムも理事長から支給されたカードで揃えられるらしい。曰く、「履歴はちゃんと見てるから、無駄遣いはほどほどにな?」とのこと。
趣味の漫画やゲームにちょっと使うくらいなら、目をつぶってくれるらしい。優しいようで、見張られてる感がすごい。
今日から、寮生活。初めての一人暮らし。おまけに女装付き。
正直、緊張しかしない。
家を出て初めて気づいた。自分の事情を知ってる人が近くにいるって、どれだけ心強かったんだって。
今、この街で事情を知ってるのは理事長だけ。でもしょっちゅう会うわけでもないし、めちゃくちゃ親しいわけでもない。困ったときには頼れるけど、それだけだ。
それでも――我ながら、よくここまでやったと思う。
準備期間も短かったし、人との関わりも最低限だった。それが幸か不幸かはわからないけど、ここまでやれたのは自分を褒めていい気がする。
「じゃ、女装して街に出て?」って言われたくらいじゃ、もう恥ずかしさはあまり感じない。そういうのは、とっくに朝飯前になった。
……でも、だからって油断していいわけじゃない。
寮の部屋は安全圏かもしれないけど、家ほどではない。バレたら終わり。マジで終わり。ゲームでいうところの一発ゲームオーバー。
バレないように、悔いのないように、俺は全力で“女子”を演じきるしかない。
それが、俺にできる唯一の戦い方だ。
――とか言ってたら、トイレに行きたくなってきた。なんで今?って思うけど、多分、緊張のせいだ。
女子トイレって、今でも罪悪感と恐怖がブレンドされた最凶スポットだと思ってる。できれば行きたくないが、そうもいかない。
時間には余裕があるし、どこかで済ませるか……そんなことを考えていたときだった。
ふと顔を上げると、視界に一人の少女が映った。
制服は自分と同じ――緋桜女学園のものだ。だから、彼女も生徒だってことはすぐにわかった。
ただ、気になるのはその雰囲気。
暗くて、虚ろで、どこか影のように見える。
理由もなく、目が離せなかった。
意識していなかった足が、自然とその子に向かって動き出す。
「……大丈夫? 何か困ってる?」
声をかけると、少女はびくりと肩を揺らして、こちらをまじまじと見つめてきた。
「え、誰……?」
ちょっと警戒してる。けど、無理もない。俺だって、自分が女子だと思われてるって前提で会話してるわけだから、気を抜いたらボロが出る。
「同じ学校の子かなって。……緋桜女学園の生徒だよね?」
「はい。あなたも……?」
「うん。今日から転入なんだ。初登校ってやつ」
「雨の中、大変ですね」
「ほんとそれ。最悪なスタートだよ」
そう言って少女を見てみると、彼女の服がしっとりと濡れていることに気づく。
「……傘、忘れた?」
「そんな感じです」
「入る? こっち」
「え……?」
少しの間、躊躇うような沈黙が流れる。
少女は戸惑った顔で、俺を見つめた。
「いいんですか? ……こんな、よく知らない相手に」
「私は気にするけど? 嫌なら傘、貸すだけでもいいよ。予備のが――」
そこまで言いかけて、ハッとする。
……持ってないんだった。傘、一本だけだった。
「少し変じゃないですか?」
「何が?」
「もし本当に予備があるなら、最初から『傘貸すよ』って言うと思うんですけど……」
……鋭い。
バレてる。明らかに、傘は一本しかないことが。
これは……もう、押し切るしかない。
「本当はね、傘貸すってだけでも良かったんだけど……実は、今日からこの学校に転入してきて、友達が一人もいないんだ。だから、君が一緒にいてくれたら嬉しいなって、ちょっと期待しちゃってさ」
「……なるほど」
半信半疑って顔だけど、完全に拒否はされてない。
「助けようとしたのも、もちろんある。でも、同時に――友達ができたらいいなって思った。下心があった。ごめんね」
「そんな正直な人、初めて見ました。……じゃあ、そのご厚意、ありがたく受け取らせてもらいます」
「よかった」
少女が、俺の傘の中に入ってくる。
間近で見ると、華奢で小さくて、まるで小動物みたいだった。
「じゃ、行こうか」
「ありがとうございます」
「ところでさ、一つ聞きたいことがあるんだけど……」
「はい?」
「学校って、どこにあるの?」
「――え?」
少女が、信じられないものを見る目でこちらを見た。
「それも知らずに歩いてたんですか?」
「いや、ほら。近くまで来たらわかるかなーって思って……ダメだったね!」
「……本気で心配になります。えっと、お名前を伺っても?」
「一ノ瀬朱里、二年生。なんて呼んでもらっても大丈夫」
「ほんとですか?」
なぜか疑いのまなざし。え、なんで?
「好きに呼んでいいよ?」
「では、朱里お姉さまと呼ばせていただきます!」
「え、朱里お姉さま……?」
なんだこの文化……良家の女子校って、もしかしてこういうのがデフォなの?
全然わからないけど、断るのも怖いので受け入れることにした。
「お姉さまってことは、一年生?」
「はい! 私、高坂乃愛と申します!」
「じゃあ、高坂さん。学校まで案内してもらって――」
「嫌です!」
「えっ……?」
想定外すぎて、言葉が出てこなかった。
「え、なんか悪いこと言った?」
「はい」
「……」
言われた。ズバッと。女子って難しい。
「……なにがダメだった?」
「乃愛って呼んでください! 私が朱里お姉さまと呼んでいるのに、高坂さん呼びでは壁を感じてしまいます! 友達って、もっと親しげに呼ぶものですよね?」
なるほど。確かにそうかも。
仲良くなろうとしてくれてる子に壁作るのは、確かにちょっと失礼かも。
「じゃあ、乃愛って呼ぶね」
「はい、お姉さま♡」
出会ってからのテンション差が激しすぎる。
さっきと同一人物とは思えない。
「お姉さま、もっと中に入らないと濡れてしまいますよ? 私に気を使わなくて大丈夫です!」
「そ、そう?」
乃愛がぐいっと寄ってきて、傘の中心に収まるように立つ。
距離が近い。妹かってくらい小さい。そして、――胸が……でかい。
(落ち着け、俺……)
あくまで“女の子”として、普通に過ごす。それが、俺の使命。
色々と気になるけど、理性を総動員してスルーするしかない。
「大丈夫? 濡れてない?」
「全然大丈夫です!」
「それならよかった」
「ほんとは少し濡れてますけど」
「えっ!? 大丈夫!? こっちもっと来て!」
俺は傘をぐいっと乃愛寄りに傾ける。
「も~、冗談ですよ、お姉さま~♡気にしすぎ!」
そんな事を言われながら手を繋がれた。
……ほんと、乃愛のテンションについていけない……
「学園までの案内は、私に任せてください!」
「た、頼りにしてる……」
「――で、今どこでしたっけ? 私たち今、どこに向かって歩いてるんでしたっけ?」
「…………」
登校初日、学園にたどり着けるかすら怪しかった、トイレに間に合うのかも果たして。
読んでくださった方ありがとうございます!
昔は貧乳が好きでしたが、後輩のロリ巨乳って魅力的ですよね。
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