『女装でゲーセンに逃げるとか、俺、詰んでない?』
「はぁ~~~……何やってんだ、俺。あ、違った、私か……もう何もかもダメだ……」
帰ればいいのに。さっさと帰ればよかったのに。
でも足は、なぜかゲーセンに向かっていた。脳死で。完全に。どうかしてる。
女装して一人でゲーセンって、冷静に考えたら意味不明すぎる。
けど、そういう問題じゃない。これはストレス発散。無心で遊ぶ。それだけ。
最近稼働したばかりのアーケード格ゲー「道戦6」。
持ちキャラは春。テクキャラで難易度は高め。けど、だからこそ触っていて楽しい。俺は昔からこういうクセのあるキャラが好きだった。
黙々とCPUを狩っていたら——乱入。
相手は鬼。うわ、めんどくさい。相性悪い。でも楽しい。嫌いじゃない。
そして、そこから先は——時間が溶けた。
不幸とか、鬱屈とか、全部、頭から吹き飛ぶぐらいには夢中になって。
たぶん、ここ最近で一番幸せだった。これだからゲームはやめられない。
「君、強いね!」
突然、横から声を掛けられて、ハッと我に返る。
振り返ると、筐体の脇から顔を出す少女。
「そのキャラで鬼に勝ち越せるって、普通にすごくない?良かったらさ、ゲームのこと教えてよ!」
「いやいや……教えるほどの知識はないけど……。十分強かったじゃん、そっちも」
「え~?でも結構荒らし気味に動いたのに、ほとんど返されちゃってさ~。プレッシャーやばかったよ?」
「まぁ、春は対応キャラだし……。とはいえ、そっちの行動も普通に通ってたし。勝負なんて時の運でしょ」
「うそ~、それは謙遜だよ!あ、結構やる人?格ゲー」
「ぼちぼち。いろんなゲームを広く浅く……って感じ?」
「へぇ~!かっこいいじゃん!女子で格ゲーやってる人、珍しいからテンション上がっちゃった。しかも一人で来てるとか、マジレア!」
……ごめん、それ女装してる男です。誰にも言えないやつ。
「確かに。あんまり見ないかもね、女子プレイヤー」
「でしょ!ね、また遊んでよ!別に格ゲーじゃなくてもいいし!」
「……気が向いたらね」
「また待ってるからね~!」
「待ってなくていいよ。偶然だし」
「冷たいな~。あ、そうだ!名前は?私は風間 柚希っていうの!」
「一ノ瀬朱里」
「覚えた!また会おうね、朱里!」
「……またね、柚希」
本当は——。
もう少し、遊んで帰るつもりだった。まだ気持ちの整理なんてついてないし。もうちょっとゲームに没頭して、全部忘れたかったのに。
でも、こういう時って流れで帰らないと間が持たない。そういう空気になってしまった。
仕方ない。今日は大人しく帰ろう。
少しだけ——心が軽くなった気がするから。