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女装で女子校に通ってたらモテすぎてヤバい!  作者: 宮原


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『乃愛がやけに甘えてくる午後』

リアクションやブックマークや評価などよければ宜しくお願いします!モチベーションに繋がっています!

見てくださりありがとうございます!

累計ページビュー9000超えてました!皆様読んでいただいてありがとうございます。

これからも頑張ります!

 午後の光が、寮の部屋の床に細く伸びていた。


 カーテンの隙間から差し込むそれは、少し白っぽく、静かな午後の匂いを運んでくる。

 特にやることもない時間だった。


「お姉さま~! 今ちょっといいですか?!」


「うん? いいよ。何かあったの?」


「え、ちょっとなんですかそれ!」


「え、ええ……?」


 ずいぶん仰々しく声をかけてくるものだから、何かあったのかと思って聞いただけなのに、なぜかむっとされてしまった。


「私がお姉さまの部屋に来るの、何か理由がないと駄目なんですか?! ひまり先輩とかだって勝手に入ったりしてるのに!」


「いや、そういうわけじゃないんだけど……」


「じゃあ、なんでなんですか?!」


「ちょっといいですかって言われたから、何か理由があるのかなって思っただけだよ。別に、私の部屋に来るのはいつでもいいから」


「言質取りました! やりました! 朱里お姉さま今言いましたね?! いつでも来ていいって! こ、これからはやりたい放題……!」


 何を企んでいるのかは分からないが、今まで通りのつもりで言っただけだったのだが……。

 といっても、やることなんて限られているだろうし、たぶん大して変わらないだろう。


「で、何かあったわけではなく、適当に来ただけ?」


「そんな言い方ないじゃないですか~! お姉さまに会いたくて来たんですっ!」


 それは似ているようで、少し違うものらしい。


「ありがと。まあ、ゆっくりしていってよ。って言っても、いつもとそんなに変わらないだろうけど」


「それがいいんです! さあさあ、座りましょうよ、お姉さま」


「そ、そうだね?」


 今日の乃愛には、どこかいつもと違う雰囲気を感じていた。

 何が違うのかと問われると、うまく言葉にはできないのだけれど。


 もっとも、同じ人間が毎日同じでいるわけもない。

 「いつも通り」なんてもの自体、たぶん曖昧なものなのだろう。


 乃愛に押されるようにして、テーブルの横に座り込む。


 すると次の瞬間、乃愛が後ろから腕を回して、ぎゅっと抱きしめてきた。


「ど、どうしたの……? 実はほんとに何かあったりした?」


 乃愛の身体の感触が、背中越しに伝わってくる。

 同時に、心配する気持ちも湧いてきて、妙に落ち着かない。


「いえ、ほんとに何にもないですよ。ただ……」


「ただ?」


「したくなったから、してみただけです」


「そ、そっか……」


 き、気まずい……。


 いや、本当に女の子同士だったら、もう少し自然に受け止められるものなのだろうか。心の底からそう思う。


 こういう場面って、漫画なんかではよく見るけれど、抱きしめる側の気持ちばかり描かれがちだ。

 でも、抱きしめられる側というのは、案外どうしていいか分からないものだ。


 一体、どういうポーズを取るのが正解なんだろう。


 結局よく分からないので、絡まっている乃愛の腕を、上からぽんぽんと軽く撫でておいた。


 この前、沙耶が隣に座っていた時も距離が近いとは感じた。

 けれどあれは、勉強を教えてもらうという理由があったから理解できた。


 今回は違う。


 だから余計に戸惑う。


 ぷるるる、と携帯が震えた。

 軽く画面を見ると、クラスメイトからだった。


 このタイミングで出るべきか少し悩んだものの、乃愛が「出ていいですよ」と言うので、そのまま出ることにした。この体勢のままで。


「もしもし……? どうかした? うん。うん。あー……ごめん。また今度でいいかな? うん、ごめんね。はい、ばいばーい」


 今から遊ばないか、という誘いだった。

 何度か誘われているのだが、今のところ断り続けてしまっている。そろそろ一度くらい行っておいた方がいいのかもしれない。


「今の電話、誰からですか、お姉さま」


「クラスメイトの子だよ」


「どういう用件ですか?」


「遊びに行かないかって誘われただけだけど……」


 妙に圧がある。


「ふーん……。そうですか。行かないんですか?」


「え、うん……。今こうやって乃愛と一緒にいるからね」


「私といなかったら行ってました?」


「わ、分かんない……。何度か誘われてたけど、一度も行ったことなかったし……」


「そうですか、そうですか」


 恐る恐る答えるしかない。

 まるで一つ一つの返答を審査されているようだ。入国審査ってこんな感じなのだろうか。


「怒ってる?」


「なんでそう思うんですか?」


「そんな感じがしたから……」


「別に怒ってなどいませんよ」


「そう……」


 怖い怖い。


「お姉さまは転校してきて、今楽しいですか?」


「楽しいかな。少なくとも友達には恵まれてると思うし。乃愛や沙耶やひまりや柚希には、特にお世話になってるし」


「それはよかったです」


「乃愛はどう? 今楽しい?」


「お姉さまもいて、まぁうるさいですがひまり先輩もいて、楽しいです」


「二人が同じ部屋になるって聞いたときは驚いたけどね」


「サプライズです」


「少し焼いちゃったけどな。私が少なくとも乃愛の一番だって思ってたし。隠し事されるなんてさ」


 そう言って、乃愛の腕をそっと解いた。


「え、いや、あ……そういうわけじゃ……」


 思った以上にしょげている乃愛を見て、思わず正面から抱きしめた。


「あっ……ごめんなさい……」


「別に気にしないで。ま、このままも何だし、何か飲みながらでも話そうよ」


「はい……」


 改めて座り直し、落ち着いて話すことにした。


「で、今日はどうしたの? やっぱり、いつもと違う気がするよ」


「それは……お姉さまが廊下でクラスメイトの方と話しているのを見て……」


「まあ、それくらいはあるかな」


「はい……それで、その光景を見ていると、だんだん寂しいというか、悲しいような気持ちになってきて」


「そ、そうなんだ?」


「はい……そのまま、自分でもよく分からないまま、気づいたらさっきみたいになっていました……ごめんなさい」


「別に謝らなくてもいいけど……」


 クラスメイトと話すことなんて、いくらでもある。

 問題はそれ自体じゃなくて、たぶん最後の引き金になったということなのだろう。


 そもそもの原因は分からない。

 でも、乃愛自身がかなり戸惑っているのは伝わってくる。


 なら、今は不安を取り除くことの方が大事だろう。


「何か不安にさせたみたいでごめんね?」


「ごめんなさい……私を嫌いにならないでください……」


「ええぇ……? そ、そんな大事な話だったっけ……? 大丈夫、大丈夫だよ。嫌いになんてならないし、むしろ私の方こそ乃愛に嫌われないか心配なくらいだよ」


「私がお姉さまを嫌いになるはずなんてないです……」


「なら、私も同じ。安心して」


「は、はい……」


 なんとか涙ぐんでいる乃愛を落ち着かせることができた。

 思ったより、大事だったらしい。


「私はこう見えても、乃愛が思ってるより乃愛に助けられてるよ」


「私がお姉さまをですか……? 逆ならまだしも、私は何も出来てないです……」


「そんなことないよ。むしろ、私の方が何もしてないくらい。だから、乃愛には感謝してる」


「ほんとですか……?」


「うん。まあ、やってる側って案外分からないものじゃない? だからこそ、相手の言葉を素直に聞くのも悪くないんじゃないかな」


「そういうものなんですか……?」


「私も分かんないけどね。そう思う方が、自分にとって都合がいいからかな」


「なるほど……」


「自分勝手な考え方かもしれないけどね。まあ、それで苦しむよりはましじゃないかな」


「今すぐには難しくても、そう出来るように頑張ってみます……!」


 頑張らなくてもいい方法を言ったつもりだったのだけれど、意図は少し違って伝わったらしい。

 まあ、そのうちうまくいけばいい。


「また助けられてしまいました……」


「お互い様だよ。私はこうやって乃愛と話してるだけでも楽しいし」


「私もです! お姉さまと一緒にいる時が一番幸せです!」


「なら、もう少し話していかない?」


「喜んでです!」


 そうして、二人でしばらく話し込んだ。


 窓の外をみると、さっきまで白かった光が少しだけ柔らかい色に変わっていた。

 帰り際、乃愛がふと立ち止まる。

「お姉さま」

「うん?」

 少しだけ迷うようにしてから、乃愛は小さく笑った。

「ずっと私だけのお姉さまでいてくださいね」

 冗談みたいな言い方だった。


 けれど、ドアを出る直前まで、乃愛はずっと袖を掴んだまま離してくれなかった。

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