『乃愛がやけに甘えてくる午後』
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午後の光が、寮の部屋の床に細く伸びていた。
カーテンの隙間から差し込むそれは、少し白っぽく、静かな午後の匂いを運んでくる。
特にやることもない時間だった。
「お姉さま~! 今ちょっといいですか?!」
「うん? いいよ。何かあったの?」
「え、ちょっとなんですかそれ!」
「え、ええ……?」
ずいぶん仰々しく声をかけてくるものだから、何かあったのかと思って聞いただけなのに、なぜかむっとされてしまった。
「私がお姉さまの部屋に来るの、何か理由がないと駄目なんですか?! ひまり先輩とかだって勝手に入ったりしてるのに!」
「いや、そういうわけじゃないんだけど……」
「じゃあ、なんでなんですか?!」
「ちょっといいですかって言われたから、何か理由があるのかなって思っただけだよ。別に、私の部屋に来るのはいつでもいいから」
「言質取りました! やりました! 朱里お姉さま今言いましたね?! いつでも来ていいって! こ、これからはやりたい放題……!」
何を企んでいるのかは分からないが、今まで通りのつもりで言っただけだったのだが……。
といっても、やることなんて限られているだろうし、たぶん大して変わらないだろう。
「で、何かあったわけではなく、適当に来ただけ?」
「そんな言い方ないじゃないですか~! お姉さまに会いたくて来たんですっ!」
それは似ているようで、少し違うものらしい。
「ありがと。まあ、ゆっくりしていってよ。って言っても、いつもとそんなに変わらないだろうけど」
「それがいいんです! さあさあ、座りましょうよ、お姉さま」
「そ、そうだね?」
今日の乃愛には、どこかいつもと違う雰囲気を感じていた。
何が違うのかと問われると、うまく言葉にはできないのだけれど。
もっとも、同じ人間が毎日同じでいるわけもない。
「いつも通り」なんてもの自体、たぶん曖昧なものなのだろう。
乃愛に押されるようにして、テーブルの横に座り込む。
すると次の瞬間、乃愛が後ろから腕を回して、ぎゅっと抱きしめてきた。
「ど、どうしたの……? 実はほんとに何かあったりした?」
乃愛の身体の感触が、背中越しに伝わってくる。
同時に、心配する気持ちも湧いてきて、妙に落ち着かない。
「いえ、ほんとに何にもないですよ。ただ……」
「ただ?」
「したくなったから、してみただけです」
「そ、そっか……」
き、気まずい……。
いや、本当に女の子同士だったら、もう少し自然に受け止められるものなのだろうか。心の底からそう思う。
こういう場面って、漫画なんかではよく見るけれど、抱きしめる側の気持ちばかり描かれがちだ。
でも、抱きしめられる側というのは、案外どうしていいか分からないものだ。
一体、どういうポーズを取るのが正解なんだろう。
結局よく分からないので、絡まっている乃愛の腕を、上からぽんぽんと軽く撫でておいた。
この前、沙耶が隣に座っていた時も距離が近いとは感じた。
けれどあれは、勉強を教えてもらうという理由があったから理解できた。
今回は違う。
だから余計に戸惑う。
ぷるるる、と携帯が震えた。
軽く画面を見ると、クラスメイトからだった。
このタイミングで出るべきか少し悩んだものの、乃愛が「出ていいですよ」と言うので、そのまま出ることにした。この体勢のままで。
「もしもし……? どうかした? うん。うん。あー……ごめん。また今度でいいかな? うん、ごめんね。はい、ばいばーい」
今から遊ばないか、という誘いだった。
何度か誘われているのだが、今のところ断り続けてしまっている。そろそろ一度くらい行っておいた方がいいのかもしれない。
「今の電話、誰からですか、お姉さま」
「クラスメイトの子だよ」
「どういう用件ですか?」
「遊びに行かないかって誘われただけだけど……」
妙に圧がある。
「ふーん……。そうですか。行かないんですか?」
「え、うん……。今こうやって乃愛と一緒にいるからね」
「私といなかったら行ってました?」
「わ、分かんない……。何度か誘われてたけど、一度も行ったことなかったし……」
「そうですか、そうですか」
恐る恐る答えるしかない。
まるで一つ一つの返答を審査されているようだ。入国審査ってこんな感じなのだろうか。
「怒ってる?」
「なんでそう思うんですか?」
「そんな感じがしたから……」
「別に怒ってなどいませんよ」
「そう……」
怖い怖い。
「お姉さまは転校してきて、今楽しいですか?」
「楽しいかな。少なくとも友達には恵まれてると思うし。乃愛や沙耶やひまりや柚希には、特にお世話になってるし」
「それはよかったです」
「乃愛はどう? 今楽しい?」
「お姉さまもいて、まぁうるさいですがひまり先輩もいて、楽しいです」
「二人が同じ部屋になるって聞いたときは驚いたけどね」
「サプライズです」
「少し焼いちゃったけどな。私が少なくとも乃愛の一番だって思ってたし。隠し事されるなんてさ」
そう言って、乃愛の腕をそっと解いた。
「え、いや、あ……そういうわけじゃ……」
思った以上にしょげている乃愛を見て、思わず正面から抱きしめた。
「あっ……ごめんなさい……」
「別に気にしないで。ま、このままも何だし、何か飲みながらでも話そうよ」
「はい……」
改めて座り直し、落ち着いて話すことにした。
「で、今日はどうしたの? やっぱり、いつもと違う気がするよ」
「それは……お姉さまが廊下でクラスメイトの方と話しているのを見て……」
「まあ、それくらいはあるかな」
「はい……それで、その光景を見ていると、だんだん寂しいというか、悲しいような気持ちになってきて」
「そ、そうなんだ?」
「はい……そのまま、自分でもよく分からないまま、気づいたらさっきみたいになっていました……ごめんなさい」
「別に謝らなくてもいいけど……」
クラスメイトと話すことなんて、いくらでもある。
問題はそれ自体じゃなくて、たぶん最後の引き金になったということなのだろう。
そもそもの原因は分からない。
でも、乃愛自身がかなり戸惑っているのは伝わってくる。
なら、今は不安を取り除くことの方が大事だろう。
「何か不安にさせたみたいでごめんね?」
「ごめんなさい……私を嫌いにならないでください……」
「ええぇ……? そ、そんな大事な話だったっけ……? 大丈夫、大丈夫だよ。嫌いになんてならないし、むしろ私の方こそ乃愛に嫌われないか心配なくらいだよ」
「私がお姉さまを嫌いになるはずなんてないです……」
「なら、私も同じ。安心して」
「は、はい……」
なんとか涙ぐんでいる乃愛を落ち着かせることができた。
思ったより、大事だったらしい。
「私はこう見えても、乃愛が思ってるより乃愛に助けられてるよ」
「私がお姉さまをですか……? 逆ならまだしも、私は何も出来てないです……」
「そんなことないよ。むしろ、私の方が何もしてないくらい。だから、乃愛には感謝してる」
「ほんとですか……?」
「うん。まあ、やってる側って案外分からないものじゃない? だからこそ、相手の言葉を素直に聞くのも悪くないんじゃないかな」
「そういうものなんですか……?」
「私も分かんないけどね。そう思う方が、自分にとって都合がいいからかな」
「なるほど……」
「自分勝手な考え方かもしれないけどね。まあ、それで苦しむよりはましじゃないかな」
「今すぐには難しくても、そう出来るように頑張ってみます……!」
頑張らなくてもいい方法を言ったつもりだったのだけれど、意図は少し違って伝わったらしい。
まあ、そのうちうまくいけばいい。
「また助けられてしまいました……」
「お互い様だよ。私はこうやって乃愛と話してるだけでも楽しいし」
「私もです! お姉さまと一緒にいる時が一番幸せです!」
「なら、もう少し話していかない?」
「喜んでです!」
そうして、二人でしばらく話し込んだ。
窓の外をみると、さっきまで白かった光が少しだけ柔らかい色に変わっていた。
帰り際、乃愛がふと立ち止まる。
「お姉さま」
「うん?」
少しだけ迷うようにしてから、乃愛は小さく笑った。
「ずっと私だけのお姉さまでいてくださいね」
冗談みたいな言い方だった。
けれど、ドアを出る直前まで、乃愛はずっと袖を掴んだまま離してくれなかった。
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