『沙耶と二人の勉強会!』
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「沙耶~、勉強教えて……」
「また分かんない所あったの?」
「うん……」
“また”というほど軽い話でもない。
というか、分からない所ばかりだ。
沙耶には普段からちょこちょこ聞いてはいるけれど、何でもかんでも聞いているわけじゃない。
結局、自分でやらないと身につかないし。
それでも、分からない所が一気に増えた時は聞くようにしていた。
分からない部分の許容量が増えすぎると、二度と追いつけなくなりそうだからだ。
そうなれば、この学園に居続けることも難しくなるし、何より不自然に見える。
そんなわけで、今まで真面目に向き合ってこなかった勉強に、今は自分なりに向き合っている。
前の学校では、あまり通わなくてもそこそこ成績が良かったんだけどな、なんて思ったりもする。
「しょうがない。放課後、朱里の部屋でいい?」
「お願いします……」
「他の人に聞かれるより、その方がいいでしょ」
さらっと言われたその一言が、妙に胸に残る。
「ほんと、しょうがないんだから」
沙耶には、完全にダメな子だと思われていそうだ。
実際そうだから仕方ないんだけど、それでも手を煩わせないようにはなりたい。
「そんな悲しそうな顔しないでよ。なんか私が責めてるみたいじゃん」
「え、そんな顔してた……?」
「してるしてる」
「なんか、申し訳ないなって思っちゃって」
「気にしなくていいよ。別に嫌々やってるわけでもないし。勉強を教えるのは、元々約束してた条件だったでしょ。だから、本当に気にしないで」
「ありがとう……」
一々暗くなっても仕方ない。
甘えられるうちは、甘えさせてもらおう。
そう思ったら、放課後に沙耶と勉強する時間が少し楽しみになってきて、気づけば授業もあっという間に終わっていた。
「どうせならファミレスとか喫茶店の方が良かったかな? その方が、沙耶にもささやかなお返しになるかもしれないし」
「それじゃ逆に、私がまた借りを作るだけじゃない? 別に行くのが嫌ってわけじゃないけど……それはまた今度にしよ?」
「そ、そう?」
「うん」
沙耶がいいなら、それでいいか。
また教えてくれる気もあるみたいだし、こちらとしてはありがたい限りだ。
「朱里の部屋に来て、騒がしくないのって、なんだかんだ初めてかも」
「確かに。沙耶がいる時って、ひまりとか乃愛がいること多かったよね」
「そう。いつも邪魔者が混じってる」
「邪魔者って……。まあ、確かに騒がしいけど。それがいいんだけど」
「まあね」
沙耶は視線を外し、笑みを隠すようにしていた。
その様子から、まんざらでもなさそうなのが分かる。
テーブルに横並びで座る。
距離が近い。思ったより、ずっと。
改めて思うけど、こんな生活をしていて、俺は許されるんだろうか。
そんなことを考えてしまう。
「どうしたの? 何か考え事?」
「い、いや。大丈夫」
「そう? で、どこが分からないの?」
今は忘れよう。勉強に集中しないと。
「えーっと、ここからここまで……」
聞くことをまとめておいたノートを差し出すと、沙耶はすらすら目を通していく。
「結構多いね?」
「はい……」
全部じゃないだけ、褒めてほしい。
「まあ、仕方ないね。結局ちりつもだし。一つ理解できたら、他のところも分かるようになること多いしさ。少しずつ基礎を押さえていけばいいと思う」
「お願いします」
沙耶の教え方は丁寧で、基本を大事にしている。
目の前のテストを乗り切るためだけじゃなく、ちゃんと身につく教え方だ。
仕組みを理解させようとしてくれる。
だからこそ、沙耶は優秀なんだろうなと思う。
俺は今までどうだったんだろう。
要点を掴むのはそれなりに得意だった気もするし、そのおかげで今の状態で踏みとどまれているのかもしれない。
まあ、なんにせよ。
沙耶の考え方や教え方に、俺は惹かれていた。
それにしても、やっぱり距離が近い。
少しドキドキする。
「そこ、間違えてるよ」
「あ、ごめん……」
「謝らなくていいから。もう一回、最初からやってみよ」
「うん、分かった」
「そこ。少しずれてる」
沙耶はペンを取り、短く要点を説明していく。
必要なことだけを、分かりやすく。
「ここは、こうすると分かりやすい」
「なるほど」
「理解できた?」
「うーん……なんとなく」
「なんとなくじゃダメ。ちゃんと理解できるまでやっとこ」
「はい……」
厳しい。
「とりあえず今は、何となくでいいから先に他をやろっか。あとで復習して理解すること」
「分かった……」
すぐ理解できたら楽なのになあ。
そんなこと出来たら、苦労しないんだけど。
「次はここが分かんないんだよねー」
「あー、ここか。確かにややこしいかも。私も理解するの、少し時間かかったし」
「沙耶でもそんなことあるんだ?」
「そりゃあるよ。いっぱい」
意外だった。
何でもそつなくこなして、出来ないことなんてなさそうなのに。
「沙耶が出来ないことあるなら、私は出来なくて当然だなー」
「そんなことないし。やる気ないならやめるよ?」
「ごめんごめん、嘘! 沙耶に教えてもらうの好きだし、やる気ある!」
「じゃあ、手を動かして」
「うう……はい……」
流石にネガティブなこと言いすぎたかも。
嫌われるのは絶対に嫌だし、反省しよう。
しばらく無言で問題を解く。
部屋に響くのは、ペンの音と時計の秒針だけ。
「……集中できてる?」
「してるよ」
「顔が違う」
「なにそれ」
「ぼーっとしてる顔」
「……見ないでよ」
「見える位置にいるから」
それもそうだ。
「意外と出来てる?」
「んー、沙耶に教えてもらいながらだからかな」
「いや、分からないって言ってたのが今できてるんだから、私関係ないでしょ」
「見られてると集中力上がるタイプなのかも」
「最初から集中しなよ……」
「だよね」
それから勉強は、意外なほどスムーズに進んだ。
「そろそろ一旦休憩にしよっか。朱里も疲れたでしょ」
「疲れた……」
「思ったより出来てるし、そんな問題なさそうだけどね」
「そう思われてたんだ……。実際そうなんだけど。でも、今日沙耶に教えてもらってなかったら、もやもやしたまま進んで積んでたと思う」
「だといいけど」
好きなダージリンのミルクティーと、ビターなクッキーを用意する。
「私、このお菓子好きなんだよね」
「この前の買い物の時、言ってたよね。私も好き」
「覚えててくれたんだ」
「さすがにね。このミルクティーは私の好みなんだけど、合うといいな」
「そうなんだ。どれどれ……ん、美味しい。初めて飲む味」
「良かった!」
自分の好きなものを美味しいって言ってもらえるだけで、胸があったかくなる。
本当に単純だ。
「こういうのって、どこで知るの? 私、全然知らなくてさ」
「私も詳しくはないよ。ダージリンは昔やったゲームで知って、気になって飲んでみたら美味しくて」
「なるほどね。周りの子はおしゃれなこと色々知っててさ、私だけ知らないみたいで」
「分かるな。沙耶と私じゃ違うだろうけど、みんなすごいよね」
俺はそこに、男女の差を感じるところから始まるんだけど。
「うちも大したことないよ。多少裕福ではあるけど、興味持ってこなかったし。今になって、知らないこと多いなって思う」
「でも、それが沙耶の魅力なんじゃない?」
「どういうこと?」
「例えばだけど。私がダージリン好きって教えたら、沙耶が嬉しそうだったでしょ。知らない同士で共有するのも、悪くないと思う」
「ふーん……?」
沙耶は頬杖をついて、少し考え込む。
「それって、私以外とも共有するってこと?」
「え……?」
一瞬、空気が張りつめた。
答えを間違えたら終わりそうな圧を感じる。
「い、いや……友達多くないし。沙耶と、ひまりと、乃愛と、柚希くらいだし。そのメンバーなら、ありえるかもだけど」
濁しつつ、嘘はつかない。
「……そのメンバーなら仕方ないか。共有するなら、私にも教えてよね?」
「分かった……」
なんとか乗り切れた。
女子同士でも、こういうのあるんだな。
「美味しかった。ありがとう。さて、続きしよっか」
「頑張る……」
ただ勉強を教えてもらっているだけなのに、
沙耶が俺のことを考えてくれているのが伝わってきて、胸が少しうるさくなる。
この時間が、ずっと続けばいいのに。
「おーい! 二人とも~、元気してるか~!」
「ちょっとひまり先輩! お姉さまの勉強を邪魔しちゃダメですよ~!」
「うるさい! だったら部屋で待ってろよ~!」
「何の解決にもなってないじゃないですか……」
ひまりと乃愛が、騒ぎながら部屋に入ってきた。
二人とも仲が良さそうで何よりだ。
「もう……。勉強の邪魔するなら出て行ってほしいんだけど?」
「ごめんなさい! ひまり先輩も謝って!」
「なんでだよ~。別に邪魔してないだろ?」
「あはは……」
「ほら! 朱里も気にしてなさそうだぞ!」
正直、気にはなってるけど。
「はあ……。二人に甘いんだから。困るのは朱里だよ?」
「まあまあ。邪魔しないって言ってるし、このまま教えてもらってもいい?」
「ほら~!」
「……しょうがない。朱里がそう言うなら」
こうして四人で、騒がしくて楽しい時間を過ごすことになった。
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