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女装で女子校に通ってたらモテすぎてヤバい!  作者: 宮原


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20/22

『お花は女の子の嗜みではなくて?』

ブックマークや評価などよければ宜しくお願いします!モチベーションに繋がっています!

四月下旬の日曜日。今日は「花フェス」なるものに来ている。

 正直に言えば、今までの人生で花に興味を持ったことなんて一度もなかった。

 安直な言い方をすれば、「女性が好きそうなもの」くらいの認識だ。


 そんな人間がどうして花フェスに来ているかというと——乃愛の歓迎パーティーを開くことになり、本人の希望を聞いたら「花フェスに行ってみたいです!」とのことだった。

 今まで一度も興味を持たなかった分、今日は少しくらい花の良さが分かるかもしれない。そう思うと、ほんの少しだけワクワクしている自分がいる。

 こういう機会でもないと絶対来ないし、存在すら知らないまま過ごしていたに違いない。


 それに今日は、前回のお好み焼きパーティーとは違う点もある。


「紹介するね。私の友達の風間 柚希。同じ学校の二年だよ。もしかしたら、私よりみんなの方が知ってるかもだけど」

「ども〜っす。朱里が言った通りで、転校してくる前に偶然ゲーセンで知り合って仲良くなりました。顔見たことある人ならいるかな〜って感じで」


 柚希は少し気まずそうに挨拶をした。誘ったときもそこまで乗り気じゃなかったが、俺が頼み込んで来てもらった。

 柚希なら皆とうまくやれるだろうし、せっかくだから紹介もしたかったのだ。


「私は知ってる。改めまして、東雲 沙耶です。二年。よろしくね」

「お姉さまの高坂 乃愛です。一年です」


 なぜか沙耶は肩を寄せ、乃愛はくっついてくる。

「我は二年の天音ひまりだ。よろしくな。全員の友達だ」

 ひまりはなぜか少し偉そうに振る舞っていた。


「何はともあれ、今日は乃愛の歓迎パーティーだから。みんなで楽しもうね。乃愛もしたいことがあったら、遠慮なく言ってね」

「ありがとうございますお姉さま!では、今日はずっとくっついておきます!」


 いつも通りなのか、少し違うのかは分からないけど——乃愛がそれでいいなら、それでいい。


「仲いいんだね……」

 そう言った柚希の声は、どこか寂しげだった。


「まあ……そうかな?会ってまだ間もないけど、仲はいいかも」

「ですね!私とお姉さまは世界一の仲良しです!」

「ぼちぼちって感じ。それなりにね」

「だらだら集まって適当に遊ぶぐらいの仲だなー」

「へえ……なんかそういうの、いいね。私もそうなれたらな」

「いやいや、そのために呼んだんだから!仲良くなって、気軽に遊べる関係になりたいよ」


 一線を越えるのが怖いのか、柚希はまだ抵抗があるようだった。

「私はお姉さまが言うのであれば構いませんよっ!」

 こういうときの乃愛は頼もしい。空気を一気に明るくしてくれる。


「私ももちろん、一緒に遊ぶ仲になれるなら。敵意がないのが前提だけど」

「以下同文」

 ひまりはどちらでもよさそうな顔をしていた。


「私も仲良くなれるに越したことはないけど……まあ、今日をきっかけにね」

「そうそう!まだ始まったばっかりだし、花フェスには色んなことあるし!」

「ですね!楽しみです!」


 今日の花フェスは植物園で行われているイベントで、季節の花が一面に咲くゾーンや、屋台、音楽イベントなどもあるらしい。


「花フェスって聞いてどんなのかと思ってたけど、結構お祭りっぽいね」

「分かる。もっと静かな感じかと思ってた。沙耶も意外とこういうとこ来ない感じ?」

「来ないねー。一人じゃ絶対来ないし、こういう機会がなきゃ一生来なさそう」

「私も同じだ」


 当然だけど、女性みんなが花に興味あるわけじゃないんだな、と改めて思った。

「朱里とかすごい花似合うのに。もったいない」

「へへ……ありがと。沙耶だって似合うよ?」

「こうして皆で花見たりするのは楽しいけどな〜。んー」

「まあ、分かるけど」


 沙耶は本当に自分と似たタイプだと思う。

 皆と見る分には楽しいけど、何をすればいいのか分からなくなる瞬間がある。

 ……いや、分かってる。そういうことじゃないんだろうけど。

 見た目こそそれっぽく取り繕えても、中身はまだまだ。

 理想の「女の子像」には程遠いなと感じた。


「お姉さま!あれ食べたいです!」

 乃愛が目を輝かせて屋台のりんご飴を指さす。

「いいね、美味しそう。買っちゃおっか」

「我も何か食べようかな~。おっ、このクレープうまそ~」

「ひまり、私と一緒に買わない?色んな味食べたいし」

「え~?まあいいけど?沙耶は何味食べたいんだ?」

「私はね~……」


 二人が楽しそうにしている中、一人で皆を見守るような子がいた。柚希だ。

 誘ったのは俺だし、上手く関われるようにしないと。

 ……それに、こないだ乃愛の件で悩んでたの、絶対バレてる。恥ずかしい。


「柚希はどう?何か食べたいものある?」

「え?別に私のこと気にしなくていいよ?皆見てるだけでも楽しいし」

「何言ってるんですか!一緒に楽しみましょう!確かにお姉さま以外知らない人ばかりかもしれませんが、変に気を遣うのだけはダメです!」

「ご、ごめん……」

 乃愛の勢いに、柚希は少し驚いていた。


「じゃあせっかくだし何か食べようかな……」

「いいじゃんいいじゃん。何食べるのー?」

「んー、牛串ステーキと唐揚げが気になる……」

「私が片っぽ買うから交換しよ?他にも色々あるし」

「いいの?」

「うん。いいよー」

「お姉さま、私も一口ずつ欲しいです……!」

「いいよー。柚希もそれでいい?」

「うん、全然いいよ。乃愛ちゃんの歓迎パーティーだし、なおさらね」

「ありがとうございますっ!柚希先輩は花フェスとか来たことありますか?」

「来たことはなかったね。小さい頃から花を見るのは好きだったけど」

「そうなんですか~?!今日の花フェスで楽しい思い出作ってもらえたら嬉しいですっ!」

「ありがとー。もう十分楽しいよ」


 柚希と乃愛も問題なく打ち解けているようだった。

 乃愛の人懐っこさと空気づくりの上手さには助けられる。


「このお肉美味しっ……」

「唐揚げも最高です~!」

「ほんとに美味しいね」

 交換しながら食べたが、どれもレベルが高い。花を眺めながら食べるのも悪くない。


「乃愛は花フェスでしたいことあるの?」

「皆で写真撮ったり、花冠作ったり、ステージイベント見たりしたいです!」

「おお~、したいこといっぱいだね」

「へ~?花フェスってそんな色々あるんだ。来る前よりお祭り感あるなー」

「ですよねー!お花も見れるし、ご飯も美味しいし最高です!」

「確かにねー。こりゃこんな人混みになるわけだ」


「もうすぐ音楽ステージが始まるらしいよ?みんな行かない?」

「我が好きなグループが出るらしい!行きたい!」


 沙耶とひまりが仕入れた情報に、皆で乗ることになった。

「朱里、朱里!このグループが我の好きなやつだ!知ってるか?」

「名前だけは……」

「そうか!じゃあ今日は最高の日だな!絶対朱里も好きになる!」

「そっか。じゃあちゃんと聴かないとね」


 ひまりは珍しくテンションが高い。嬉しそうに笑う姿を見て、不意に胸が少しだけときめいた。……ひまりのくせに。


 その後は花冠づくり体験へ。

「花冠づくり体験!お姉さまやりましょー!」

「難しそ~。私にできるかな……」

「大丈夫です大丈夫です!絶対できます!」

「花冠は素早く作らないと体温で崩れちゃうんだよ。ぱっぱってやるのがコツ」

「柚希、詳しいね?」

「小さい時、何度か作ったことあるからねー」

「私、絶対向いてないな……」

「我も。朱里、代わりに作ってよ~」

「あーずるい?!」

「いやいや……自分の分すら作れなさそうなのに……自分でやりなよ……」


 結局、全員で座って花冠を作ることになった。

 春の風に花の香りが混じって、どこか幸せな空気が漂っていた。





「えっと……こう編んで……」

「違う違う、そこ逆だよ!」

「わっ、ほどけたぁぁ!」

「乃愛、焦らないの。……貸してみ?」

「あっ……ありがとうございます……」


 乃愛の手を取って、一緒に編み直す。

 指先がかすかに触れるたび、ほんのりとした熱が伝わってきた。


「できた!」

「ほら、お姉さま。被ってくださいっ!」

「え、私が?」

「はいっ!」


 乃愛が嬉しそうに花冠を差し出す。

 少し照れながら被ると、周りがどっと沸いた。


「似合う~!」「やば、姫じゃん!」

「……可愛い」


 沙耶の小さな一言に、朱里の心臓が一瞬止まる。


「えっ」

「似合ってるって言ったの」

「……ありがと」

「別に、普通の感想」


 そう言って視線を逸らす沙耶。

 その横で乃愛は、何か言いたげに唇を尖らせた。


***


 夕方。

 丘の上の花畑が、ゆっくりとオレンジ色に染まっていく。


「はいチーズ~! 沙耶、笑って~!」

「……無理」

「いーじゃん、記念なんだから!」

「ひまり、なんとかして」

「沙耶、ちょっとだけでいいから?」

「……はぁ。ちょっとだけね」


 全員が並び、シャッター音が響く。

 画面の中には、五つの笑顔が咲いていた。


「はい保存っと! ……あ、沙耶、ほんとに笑ってる!」

「見せないで」

「やーだっ!」

「柚希」

「ごめんって~!」


 そんな軽口のやり取りが、心地よくて。

 朱里は小さく笑った。


 風に花びらが舞い上がり、誰かの笑い声に溶けて消えていく。

 ――この瞬間が、ずっと続けばいいのに。

 ふと、そんなことを思ってしまった。



 乃愛は小さく笑って、俺の袖をそっと掴んだ。

「お姉さま、今日は……すごく楽しかったです」

「うん、私も。ありがとうね、乃愛」

 手を離す瞬間、二人の指先がかすかに触れ合う。



 クレープを頬張りながら、沙耶がふと空を見上げた。

「……星、出てきた」

「ほんとだ」

 オレンジから群青へと変わる空の中に、ひとつ、またひとつと光が瞬く。

 静かに風が吹き抜け、花びらが夜空へと舞い上がっていく。


「ねぇ、また来ようね」

 誰ともなく言ったその一言に、全員が頷いた。


「次は夜の部も行こうよ。提灯とか出るんでしょ?」

「うわ、それ絶対綺麗!」

「じゃあ次は浴衣で」

「……浴衣?」

 沙耶が一瞬だけ動揺し、目をそらす。

 その反応を見逃さなかった柚希が、すかさず茶化すように肩を突く。

「へぇ~、沙耶の浴衣姿、見たいかも」

「やめろ」

「顔真っ赤だよ~!」

「黙れ」

「はいはい~、素直じゃないんだから~」


 ひまりが笑いながらその場をまとめ、朱里は少し離れた場所で全員の姿を眺めていた。

 風に揺れる花、重なる笑い声、頬を染める夕焼け。

 きっとこの時間は、ただの「歓迎会」なんかじゃない。

 一人一人の距離が、確かに近づいた――そんな日だった。


 

「お姉さま……」

「ん?」

「今日みたいな日、また作りたいです。何回でも」

 その声は、少し震えていたけれど、確かな温度を持っていた。

 そっと微笑んで頷く。

「うん。約束」


 遠くで花火の音が聞こえた。

 フェスの締めくくりを告げるように、花びらと火花が夜空で交じり合う。


「……綺麗」

「そうだね」


 小さく呟くと、乃愛が横顔を見つめた。

 その視線には、憧れと恋慕がゆるやかに溶け合っていた。

 まだ届かない距離。

 けれど、きっと――この日から少しずつ、変わっていく。



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