『お花は女の子の嗜みではなくて?』
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四月下旬の日曜日。今日は「花フェス」なるものに来ている。
正直に言えば、今までの人生で花に興味を持ったことなんて一度もなかった。
安直な言い方をすれば、「女性が好きそうなもの」くらいの認識だ。
そんな人間がどうして花フェスに来ているかというと——乃愛の歓迎パーティーを開くことになり、本人の希望を聞いたら「花フェスに行ってみたいです!」とのことだった。
今まで一度も興味を持たなかった分、今日は少しくらい花の良さが分かるかもしれない。そう思うと、ほんの少しだけワクワクしている自分がいる。
こういう機会でもないと絶対来ないし、存在すら知らないまま過ごしていたに違いない。
それに今日は、前回のお好み焼きパーティーとは違う点もある。
「紹介するね。私の友達の風間 柚希。同じ学校の二年だよ。もしかしたら、私よりみんなの方が知ってるかもだけど」
「ども〜っす。朱里が言った通りで、転校してくる前に偶然ゲーセンで知り合って仲良くなりました。顔見たことある人ならいるかな〜って感じで」
柚希は少し気まずそうに挨拶をした。誘ったときもそこまで乗り気じゃなかったが、俺が頼み込んで来てもらった。
柚希なら皆とうまくやれるだろうし、せっかくだから紹介もしたかったのだ。
「私は知ってる。改めまして、東雲 沙耶です。二年。よろしくね」
「お姉さまの高坂 乃愛です。一年です」
なぜか沙耶は肩を寄せ、乃愛はくっついてくる。
「我は二年の天音ひまりだ。よろしくな。全員の友達だ」
ひまりはなぜか少し偉そうに振る舞っていた。
「何はともあれ、今日は乃愛の歓迎パーティーだから。みんなで楽しもうね。乃愛もしたいことがあったら、遠慮なく言ってね」
「ありがとうございますお姉さま!では、今日はずっとくっついておきます!」
いつも通りなのか、少し違うのかは分からないけど——乃愛がそれでいいなら、それでいい。
「仲いいんだね……」
そう言った柚希の声は、どこか寂しげだった。
「まあ……そうかな?会ってまだ間もないけど、仲はいいかも」
「ですね!私とお姉さまは世界一の仲良しです!」
「ぼちぼちって感じ。それなりにね」
「だらだら集まって適当に遊ぶぐらいの仲だなー」
「へえ……なんかそういうの、いいね。私もそうなれたらな」
「いやいや、そのために呼んだんだから!仲良くなって、気軽に遊べる関係になりたいよ」
一線を越えるのが怖いのか、柚希はまだ抵抗があるようだった。
「私はお姉さまが言うのであれば構いませんよっ!」
こういうときの乃愛は頼もしい。空気を一気に明るくしてくれる。
「私ももちろん、一緒に遊ぶ仲になれるなら。敵意がないのが前提だけど」
「以下同文」
ひまりはどちらでもよさそうな顔をしていた。
「私も仲良くなれるに越したことはないけど……まあ、今日をきっかけにね」
「そうそう!まだ始まったばっかりだし、花フェスには色んなことあるし!」
「ですね!楽しみです!」
今日の花フェスは植物園で行われているイベントで、季節の花が一面に咲くゾーンや、屋台、音楽イベントなどもあるらしい。
「花フェスって聞いてどんなのかと思ってたけど、結構お祭りっぽいね」
「分かる。もっと静かな感じかと思ってた。沙耶も意外とこういうとこ来ない感じ?」
「来ないねー。一人じゃ絶対来ないし、こういう機会がなきゃ一生来なさそう」
「私も同じだ」
当然だけど、女性みんなが花に興味あるわけじゃないんだな、と改めて思った。
「朱里とかすごい花似合うのに。もったいない」
「へへ……ありがと。沙耶だって似合うよ?」
「こうして皆で花見たりするのは楽しいけどな〜。んー」
「まあ、分かるけど」
沙耶は本当に自分と似たタイプだと思う。
皆と見る分には楽しいけど、何をすればいいのか分からなくなる瞬間がある。
……いや、分かってる。そういうことじゃないんだろうけど。
見た目こそそれっぽく取り繕えても、中身はまだまだ。
理想の「女の子像」には程遠いなと感じた。
「お姉さま!あれ食べたいです!」
乃愛が目を輝かせて屋台のりんご飴を指さす。
「いいね、美味しそう。買っちゃおっか」
「我も何か食べようかな~。おっ、このクレープうまそ~」
「ひまり、私と一緒に買わない?色んな味食べたいし」
「え~?まあいいけど?沙耶は何味食べたいんだ?」
「私はね~……」
二人が楽しそうにしている中、一人で皆を見守るような子がいた。柚希だ。
誘ったのは俺だし、上手く関われるようにしないと。
……それに、こないだ乃愛の件で悩んでたの、絶対バレてる。恥ずかしい。
「柚希はどう?何か食べたいものある?」
「え?別に私のこと気にしなくていいよ?皆見てるだけでも楽しいし」
「何言ってるんですか!一緒に楽しみましょう!確かにお姉さま以外知らない人ばかりかもしれませんが、変に気を遣うのだけはダメです!」
「ご、ごめん……」
乃愛の勢いに、柚希は少し驚いていた。
「じゃあせっかくだし何か食べようかな……」
「いいじゃんいいじゃん。何食べるのー?」
「んー、牛串ステーキと唐揚げが気になる……」
「私が片っぽ買うから交換しよ?他にも色々あるし」
「いいの?」
「うん。いいよー」
「お姉さま、私も一口ずつ欲しいです……!」
「いいよー。柚希もそれでいい?」
「うん、全然いいよ。乃愛ちゃんの歓迎パーティーだし、なおさらね」
「ありがとうございますっ!柚希先輩は花フェスとか来たことありますか?」
「来たことはなかったね。小さい頃から花を見るのは好きだったけど」
「そうなんですか~?!今日の花フェスで楽しい思い出作ってもらえたら嬉しいですっ!」
「ありがとー。もう十分楽しいよ」
柚希と乃愛も問題なく打ち解けているようだった。
乃愛の人懐っこさと空気づくりの上手さには助けられる。
「このお肉美味しっ……」
「唐揚げも最高です~!」
「ほんとに美味しいね」
交換しながら食べたが、どれもレベルが高い。花を眺めながら食べるのも悪くない。
「乃愛は花フェスでしたいことあるの?」
「皆で写真撮ったり、花冠作ったり、ステージイベント見たりしたいです!」
「おお~、したいこといっぱいだね」
「へ~?花フェスってそんな色々あるんだ。来る前よりお祭り感あるなー」
「ですよねー!お花も見れるし、ご飯も美味しいし最高です!」
「確かにねー。こりゃこんな人混みになるわけだ」
「もうすぐ音楽ステージが始まるらしいよ?みんな行かない?」
「我が好きなグループが出るらしい!行きたい!」
沙耶とひまりが仕入れた情報に、皆で乗ることになった。
「朱里、朱里!このグループが我の好きなやつだ!知ってるか?」
「名前だけは……」
「そうか!じゃあ今日は最高の日だな!絶対朱里も好きになる!」
「そっか。じゃあちゃんと聴かないとね」
ひまりは珍しくテンションが高い。嬉しそうに笑う姿を見て、不意に胸が少しだけときめいた。……ひまりのくせに。
その後は花冠づくり体験へ。
「花冠づくり体験!お姉さまやりましょー!」
「難しそ~。私にできるかな……」
「大丈夫です大丈夫です!絶対できます!」
「花冠は素早く作らないと体温で崩れちゃうんだよ。ぱっぱってやるのがコツ」
「柚希、詳しいね?」
「小さい時、何度か作ったことあるからねー」
「私、絶対向いてないな……」
「我も。朱里、代わりに作ってよ~」
「あーずるい?!」
「いやいや……自分の分すら作れなさそうなのに……自分でやりなよ……」
結局、全員で座って花冠を作ることになった。
春の風に花の香りが混じって、どこか幸せな空気が漂っていた。
「えっと……こう編んで……」
「違う違う、そこ逆だよ!」
「わっ、ほどけたぁぁ!」
「乃愛、焦らないの。……貸してみ?」
「あっ……ありがとうございます……」
乃愛の手を取って、一緒に編み直す。
指先がかすかに触れるたび、ほんのりとした熱が伝わってきた。
「できた!」
「ほら、お姉さま。被ってくださいっ!」
「え、私が?」
「はいっ!」
乃愛が嬉しそうに花冠を差し出す。
少し照れながら被ると、周りがどっと沸いた。
「似合う~!」「やば、姫じゃん!」
「……可愛い」
沙耶の小さな一言に、朱里の心臓が一瞬止まる。
「えっ」
「似合ってるって言ったの」
「……ありがと」
「別に、普通の感想」
そう言って視線を逸らす沙耶。
その横で乃愛は、何か言いたげに唇を尖らせた。
***
夕方。
丘の上の花畑が、ゆっくりとオレンジ色に染まっていく。
「はいチーズ~! 沙耶、笑って~!」
「……無理」
「いーじゃん、記念なんだから!」
「ひまり、なんとかして」
「沙耶、ちょっとだけでいいから?」
「……はぁ。ちょっとだけね」
全員が並び、シャッター音が響く。
画面の中には、五つの笑顔が咲いていた。
「はい保存っと! ……あ、沙耶、ほんとに笑ってる!」
「見せないで」
「やーだっ!」
「柚希」
「ごめんって~!」
そんな軽口のやり取りが、心地よくて。
朱里は小さく笑った。
風に花びらが舞い上がり、誰かの笑い声に溶けて消えていく。
――この瞬間が、ずっと続けばいいのに。
ふと、そんなことを思ってしまった。
乃愛は小さく笑って、俺の袖をそっと掴んだ。
「お姉さま、今日は……すごく楽しかったです」
「うん、私も。ありがとうね、乃愛」
手を離す瞬間、二人の指先がかすかに触れ合う。
クレープを頬張りながら、沙耶がふと空を見上げた。
「……星、出てきた」
「ほんとだ」
オレンジから群青へと変わる空の中に、ひとつ、またひとつと光が瞬く。
静かに風が吹き抜け、花びらが夜空へと舞い上がっていく。
「ねぇ、また来ようね」
誰ともなく言ったその一言に、全員が頷いた。
「次は夜の部も行こうよ。提灯とか出るんでしょ?」
「うわ、それ絶対綺麗!」
「じゃあ次は浴衣で」
「……浴衣?」
沙耶が一瞬だけ動揺し、目をそらす。
その反応を見逃さなかった柚希が、すかさず茶化すように肩を突く。
「へぇ~、沙耶の浴衣姿、見たいかも」
「やめろ」
「顔真っ赤だよ~!」
「黙れ」
「はいはい~、素直じゃないんだから~」
ひまりが笑いながらその場をまとめ、朱里は少し離れた場所で全員の姿を眺めていた。
風に揺れる花、重なる笑い声、頬を染める夕焼け。
きっとこの時間は、ただの「歓迎会」なんかじゃない。
一人一人の距離が、確かに近づいた――そんな日だった。
「お姉さま……」
「ん?」
「今日みたいな日、また作りたいです。何回でも」
その声は、少し震えていたけれど、確かな温度を持っていた。
そっと微笑んで頷く。
「うん。約束」
遠くで花火の音が聞こえた。
フェスの締めくくりを告げるように、花びらと火花が夜空で交じり合う。
「……綺麗」
「そうだね」
小さく呟くと、乃愛が横顔を見つめた。
その視線には、憧れと恋慕がゆるやかに溶け合っていた。
まだ届かない距離。
けれど、きっと――この日から少しずつ、変わっていく。
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