『ウィッグより重いのは、女の子のフリだった』
以前書いていたものを作りなおしました。ストーリーやキャラは変わる予定です。まだ、設定などが決まきってないので、手直し入る可能性ありです。
読んでもらって、ブックマークなどしてもらえるとモチベーションにつながるのでよろしくお願いします。
「流石に緊張する……。女装で都会――ってか、ウィッグ重てー……」
玲央は今日までイメージトレーニングを重ねてきた。とはいえ、それはごく低レベルなもの。本番に勝る訓練なし。
目の前で起こるすべての出来事に"女性"として対応しなければならない。それは一朝一夕で身につくものではない。
「正直、見た目は悪くないと思う。こんな女性がいても普通だ……と思いたい。馬鹿な親と馬鹿な理事長の目を信じることにしよう」
周囲を見渡しても、不自然な視線は感じない。少なくとも大きな違和感を覚えられてはいないということか。
「それはそれでどうなんだ……」
玲央は喜んでいいのか分からず、ため息をついた。
「おや、ため息なんかついてどうしたんだい? 待ち合わせ? それとも友達がなかなか来なくて暇とか? それなら俺らと遊ばない?」
ゾッと血の気が引いた。
上手く声が出ない。家で練習した女声がまるで機能しない。
かといって、普段みたいに「うぜえ」と殴るわけにもいかない。
――全力で走った。
誰もいない場所まで。
「はあ……はぁ、はぁ……これが痴漢されたときに声が出ないってやつか……?」
声が出なかった。いや、"出せなかった"のかもしれない。
女声を出したら不自然に思われそうで、何もできなかった。いや、ただのナンパなのだから、どう思われてもいいはずなのに。
それよりも、ナンパされたということは女性に見られたということ……?
これは、たぶん喜ぶべきことなんだろう。あの男たちがゲイでない限り。
「大丈夫?」
息を切らしていると、不意に女性の声がした。
同年代くらいの女性が、心配そうにこちらを見ている。
「大丈夫、です……」
「そんな風にはまるで見えないんだけど……」
今もなお、不自然に見られていないかばかり考えてしまう。
「水、飲む?」
「え?」
「新品だから安心して。汚くないよ」
「いや、そんなことを疑っているわけではないんですけど……」
飲んでいいのか? いや、女性同士なら普通か?
でも、ひと口飲んで返したら相手はどう思う?
それとも、お金を払って受け取るのが正解か?
――そんなことを考えている間にも、喉は乾いて仕方なかった。
「お金払うのでください!」
「別にいいよ。落ち着いて飲みなよ」
手渡されたペットボトルを、思い切り傾けて飲んでしまう。
「豪快だね~」
しまった。完全に"男飲み"だった。
「とっても美味しかったです! どこで購入されたんですか?」
「いや、普通のスーパーだと思うけど……?」
フォローしようとして余計に不自然なことを言ってしまった。
「本当に助かりました……」
「それなら何より」
「どうして助けてくれたんですか?」
「……さぁ? なんとなく? 目の前に困ってる子がいたから?」
善意で動いてくれたらしい。
「本当に助かりました。何かお礼をさせてください!」
「お礼……? まずこんな路地で何してたの……?」
開幕から今まで、不審にしか思われていない気がする。
「ナンパされたんですけど、どうしていいか分からず全力でダッシュしました……」
「あぁ、それで」
納得してもらえたようだった。
「確かに君は綺麗だし、気をつけた方がいいだろうね」
「え、そうなんですか……?」
「そうなんですかって……そんな見た目で自覚ないの? 相当レベル高いと思うけど……まるで作り物みたいだ」
作り物ではあります。
「それなら、今後は気をつけるべきだね。変な虫に捕まらないように」
「分かりました」
「暇なの?」
「暇です」
「そう、それなら少し付き合ってくれる?」
「は、はい」